PHOTO YODOBASHI

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vol.18 パキスタンへの旅 - カラコルム編 その④

Text & Photo by 中西 敏貴

© TOSHIKI NAKANISHI

PHOTO YODOBASHI上部フンザで最も象徴的だった通称「カテドラル」もいよいよ見納め。ここからはフンザ川に沿って標高を下げ、インダス川に合流。まずはチラスという町を目指します。走っていく道は、前回もご紹介したカラコルム・ハイウェイです。古の頃から人々がこの道を歩き、中国とインドを往来していた歴史ある街道ですが、実際に走ってみるとその事実が信じられないほどの険しさに驚きます。この山を見ていただくとお分かりの通り、そのほとんどが岩山で、決して歩きやすい道ではなかったはずです。南下の途中、「オールド・シルクロード」という看板を見つけました。そこは岩肌を削って作られたごく細い道のようなもの。きっと命懸けの旅だったと思います。彼らがそこまでしてこの道を行く理由はなんだったのでしょう。私たちはレジャーとしての旅をしていますが、彼らの旅は明確な理由があったはずです。これから向かうチラスには、その彼らが残した痕跡がありました。

© TOSHIKI NAKANISHI

カラコルム・ハイウェイを6時間ほど走ったでしょうか。インダス川の側に広がる町、チラスに到着しました。対岸には家がひしめき合うように建てられており、人々の声も聞こえてきます。その周辺に点在するのがこうした岩絵群です。古来から往来していた人々が、インダス川の水位が下がるまでの時間を岸辺で過ごし、その待ち時間に描いたとされる歴史的な遺産です。大きな岩には様々な絵が描かれていて、それぞれに宗教的な意味合いを持つものも多いとのこと。とても興味深い場所です。

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暴れ川のインダスはよく氾濫していたそう。ヒンドゥー教徒、仏教徒、商人などが、インダス川に沿って移動する際、対岸に渡りやすい場所でその氾濫を待つことが多かったといいます。その場所で彼らが何を思ったのかは想像するしかありませんが、この岩に描かれた仏塔を見ていると、少なからず祈りの意味が込められていたことは感じます。
これらの岩絵群は、インダス川のダム工事によって2029年にダムの底へ沈むことが決まっているようです。世界遺産にも匹敵する貴重な岩絵ではありますが、それよりも経済や発展を優先する、という国の方針なのでしょう。残念と思う反面、それぞれの国の事情を考えると複雑な気持ちになりました。

© TOSHIKI NAKANISHI

実のところ、チラスから先もカラコルム・ハイウェイを使って南下する予定だったのですが、ここでトラブル発生。ダム工事の関係で道路が閉鎖されているとのこと。パキスタンの旅ではよくあることなので想定の範囲内だったものの、道が通れないのでは先へ進めません。急遽別ルートである、バブサル峠越えの道を行くことになりました。この峠、実は標高4,170mもあるかなりの難ルートで、またしても高山地帯を通過することに。

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標高4,000m超えともなると、再びの雪の世界。風も強く、気温も低いというのに、驚いたのは沢山の人が観光を楽しんでいたこと。クンジュラブ峠の時もそうだったように、パキスタンの人々は高いところがお好きなようです。

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バブサル峠を越えてどれくらい走ったでしょうか。標高が下がるにつれて気温も上昇し、軽く汗ばむようなエリアに入ってきました。ここは、パキスタンの首都イスラマバードからほど近い、タキシラという街。あまり聞きなれない地名かもしれませんが、もっと知られた言い方をすると「ガンダーラ」。その中心がこのタキシラ辺りなのです。筆者の世代は誰もが知っているドラマのエンディングテーマとしても歌われたガンダーラ。この街にも、きっと玄奘三蔵が滞在したことでしょう。そのガンダーラ美術を知るためにミュージアムを訪問しました。

© TOSHIKI NAKANISHI

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ガンダーラ美術の特徴は、ギリシャ美術などの影響を受け偶像崇拝が生まれたということでしょう。それが日本にも伝わり、仏像へと発展していったのだそうです。たしかに、こうしてみると日本の仏像のルーツを感じる一方、どこかヨーロッパ的な印象もあります。

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1980年に世界遺産に登録されたタキシラの遺跡群も訪問しました。ここはガンダーラ最大の都市ということで、発掘されている遺跡の数も圧倒的です。パキスタンのもう一つの魅力は、世界史に名を残すようなこうした遺跡に出会うことができることでしょう。絶景や自然だけではない、もう一つの旅の楽しみ方です。

© TOSHIKI NAKANISHI

北部パキスタンの旅の最終地、イスラマバードに到着しました。これまで出会ってきた圧倒的な自然や素朴な村とは異なり、ここは人に溢れ、とてもエネルギッシュ。目に飛び込んでくるもの全てが魅力的で力強い街です。

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イスラマバードに到着したのは午後遅く。夕食は街のレストランへ繰り出しました。現地の人たちが食事を楽しむ、リアルなイスラマバードです。日常とは違う風景を楽しむことも、もちろん楽しいのですが、現地の日常を体験してみるというのも旅には必要なエッセンスです。煙の匂い、クラクションの音、人々の話し声、露店に並んだ料理の香り。今でも昨日のことのように思い出します。旅の印象は、視覚だけではなく五感で感じた方が印象に残るようです。

さて、北部カラコルム編はこれにて終了。次回からは、パキスタン南部のバロチスタン編をお届けする予定です。

( 2024.04.09 )

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ガンダーラ美術を知ってから旅をするとさらに深まります。

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