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vol.8 裾合平

Text & Photo by 中西 敏貴

去年の夏のこと。PY編集部の3名を連れて裾合平を歩きました。旭岳ロープウェイに乗り、散策路を経由して片道3時間ほどだったでしょうか。部員から発せられる、どこまでいくの？といった質問には、「もうすぐですよ」と甘い答えを返しつつ、雪渓を何度も渡り裾合平へと目指したのです。

しかしながらその時はチングルマの開花にはまだ早く、中岳温泉で足を温めて下山するだけになってしまいました。さて、今回はそのリベンジ。去年の反省を踏まえ、1週間ほど日程を遅らせての山歩きです。事前の情報ではちょうど満開を迎えているとのことでしたから、心なしか足も軽くなるのでした。
（※地図をクリックすると大きな地図を表示します）

天気はしっかり快晴。前日の雨が嘘のように晴れ渡り、今日しかないという絶好の日和となりました。下界はどうやら雲の中だったようで、ロープウェイから振り返ると雲海になっています。あの雲が上がってこないことを祈りつつ、姿見駅へ到着です。

7月の最盛期かつ花の状態もいいとあって、姿見駅はとても賑わっています。売店などもオープンして、夏山の活気に溢れていました。この駅には何度も来ていますが、これほど賑わっているのを見たのはコロナ禍以前のことです。その多くは裾合平には行かないようですが。さて、靴紐を結び直し、いよいよ出発です。

旭岳の面白いところは、歩き出してすぐの場所から噴気孔が見えること。遊歩道レベルの道ですら、なんちゃって登山の気分を味わえるのが、魅力の一つとなっています。多くの人はここを歩いて下りのロープウェイに乗って下山しますが、今回の目的地裾合平へは、しっかりとした登山装備が必要なのは言うまでもありません。

中央少し下を歩く登山者の姿がお分かりでしょうか。このスケール感の中を歩けるのです。天国にはまだ行ったことはありませんが、雲上の楽園という表現くらいは使っても、許していただけますよね。地球の鼓動を感じ、風の匂いを味わいながらのトレッキングは、心が洗われていくようなのです。

道はアップダウンを繰り返しながら進んでいきます。時折出てくる看板は一息つくにはいいポイント。残りの距離とこれまで歩いてきた道を思いながら、水分と栄養を補給します。なんだか人生のようでもあります。

雪渓を3回ほど渡ると、裾合平はすぐそこ。7月下旬にもかかわらず、雪の上を通過してくる風は冷たく、とても心地いい。歩くこと自体は決して楽ではありませんが、東京の暑さに耐えられる方なら、これくらいは苦にならないのではと思われます。なによりも、この先には天国のような花畑が待っているのですから。

ついに裾合分岐に到着です。この場所から中岳温泉に向かうあたりが裾合平と言われる場所。大雪山を歩く登山者にはお馴染みの場所ではありますが、ここまでくると本気の人しかおらず、姿見駅にいた多くの人の姿は見られません。そう、ここから先は思う存分に、花を楽しめるのです。

ここから先は余計な解説など不要でしょう。花畑の中を歩いている感覚で、写真をご覧ください。

チングルマの花の最盛期はほんの1週間ほど。その短い期間の中で、これほどまでに晴れ上げる日はそうありません。雨の日も、曇りの日だって、もちろん山歩きはできるのですが、快適さと楽しさでは快晴の日に勝るものはありませんし、なにより安全です。花畑を見ながら、持ってきたおにぎりを頂き、甘いおやつもひと口。至福のひとときです。ピークを目指さない、という編集部のポリシーはこうしたところにも生かされているようです。

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( 2022.08.22 )