PHOTO YODOBASHI

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vol.1 冬の十勝岳

Text & Photo by 中西 敏貴

北海道を撮り始めて30年以上が経ちました。大阪に生まれ、大阪で育った僕ですが、漠然と北の大地への憧れのようなものがあったのでしょうか。最初の出会いから今日に至るまで、よくもまあ飽きることなく撮影を続けてきました。自分で自分を褒めてあげたいくらいです。とはいえ、長年撮り続けていると思考が徐々に変化してくるものです。初期衝動に突き動かされていた頃、ある程度把握し中だるみを感じていた頃、撮りたいイメージが湧き上がり量産できる頃。そんな時間を経て、今はまだ見ぬ新しい風景を探すようになってきたのかもしれません。

例えば趣味の世界を想像してみてください。最初はちょっとした興味だったものが次第にのめり込むようになり、中だるみもありながらもどんどんと深い世界に入っていきますよね。僕が北海道の風景と向き合っている時間は例えるならそういうことなのかもしれません。まだ見ぬ新しい風景に出会うために、次第に標高を変えるようになっていったのです。それも車で移動するのではなく自分の足で歩く。歩行の速度は車のそれとは違いゆっくりと視界に入ってきます。突然の出会いではなく、じっくりと脳内に染み込んでくる感じといえば伝わるでしょうか。

前置きが長くなってしまいました。兎にも角にも僕は歩き出したのです。歩きながら新しいなにかを探し始めたといってもいいでしょう。ここではそんな体験をみなさんにも感じていただこうと思います。いうまでもなく効率はとても悪い撮影ですが、写真を撮るって効率ばかりだとつまらないですからね。僕と一緒に歩いているような感覚でお読みいただけると嬉しいです。

(C) TOSHIKI NAKANISHI

冬に歩くといえばスノーシューは必須です。これがなければ10m進むだけでもヘトヘトになってしまうのは間違いありません。というか、それ以上進めなくなってしまいます。ディープパウダーの中を進むにはこれでも役不足なこともあり、さらに大きめのスノーシューもあるのでコンディションによって選べる余裕があるといいですね。より深い雪の中ではスキーの出番になります。パウダー用のスキーにシールと言われる滑り止めをつけて歩くのですが、長さがある分沈まないのでもっと楽になります。

(C) TOSHIKI NAKANISHI

カメラバッグは両手が自由になるザックタイプがベストチョイス。なぜなら両手にストックを持たなければならないからです。このストックの存在が案外大切で、フカフカの雪の上を歩いているとちょっとしたことでバランスを崩しがちです。うっかり転んでしまおうものならフカフカで起き上がれないなんてこともよくある話。ストックを持っていればそんな時でもバランスを保ってくれるんですね。

(C) TOSHIKI NAKANISHI

さて、雪原をひたすら歩いていきます。ピークを目指すわけではないので天気と体力次第の気ままな山歩きです。足元は本来ハイマツの森ですが雪が積もりほぼ雪原に変わっていました。今年はまだまだ雪が少なくて所々にハイマツが飛び出ているので気をつけながら歩みを進めていきます。冬山歩きのメリットは本来の登山道をショートカットできること。つまり夏とは見える風景が変わってくるんです。夏山登山の際に見えていたはずの高さよりも上がるのでアングルが変わってきます。当たり前ですが光の入り方も違いますからその楽しみもありますね。

(C) TOSHIKI NAKANISHI

十勝岳の主峰は2077mですが、そこまで行かなくても別世界が広がっているのが山岳エリアの面白いところ。ちょっと歩くだけでも、いつもとは違う風景が見られるのですから、体力次第で楽しみは無限に広がっていくような気がします。もちろん僕の場合は程々に。山頂に行きたいというわけではない、という言い訳を胸に登ったり下ったりを繰り返しながら散策している感じでしょうか。当然ですが車で移動するよりも時間はかかります。ただしその時間が思考を整理してくれるため、風景を発見する感覚は敏感になっていくようにも思います。

(C) TOSHIKI NAKANISHI

1時間ほど歩いて到着したのは安政火口とも言われる噴気孔。正式名称はヌッカクシ火口です。活火山である十勝岳の斜面ですから割と活発に噴気が出ていますが、この場所は普通に登山道なのでそれほど危険はありません。その名前のとおり安政年間に噴火したと言われていますが、定かではないようです。ここから先は斜度も急になり本格的な冬山登山の装備がないと危険なエリアですから、本日の山歩きはここまで。このまま日没までいてもいいのですが天気も心配になってきたので下山します。

(C) TOSHIKI NAKANISHI

ちょうど下山を始めた頃、西から急速に雪雲が広がってきました。30分もしないうちに一気に白の世界に。山の天気は変わりやすいとはいうけれど、本当にそのようです。道は分かっているので不安はありませんが、吹雪く前に急いで下山です。こんな時、スノーシューだと同じ道を歩かないとだめなのですが、その点スキーならば帰りは楽チン。颯爽とスキーで下山していく人を恨めしく思いながら見送ります。さらに行動範囲を広げるために、そして帰りの楽しさのために、今シーズンはスキーセットを調達してみようと決意しました。

(C) TOSHIKI NAKANISHI

こうして歩くようになってよく聞かれるようになったことがあります。山が好きなんですねと。。。。実は違います。好きな世界を深掘りしているうちに興味の範囲が広がり気づいたら山や森を歩いていたんです。つまり、登らなくていいのなら登りたくない、が本音。でもやっぱりまた行ってしまう。その理由は「まだ見ぬ世界を見たい」という欲求にほかなりません。写真に出会っていなければこうして山に登ることもなかったと思うと、写真が世界を広げてくれているのかもしれませんね。写真という一つのきっかけから自分の世界が広がるなんてとても素敵なことじゃありませんか。

歩くことで広がり深まる写真の世界。これから北海道内の色々なところを歩き、そのフィールドノートを連載でお伝えして行きたいと思います。ぜひお付き合いください。

( 2021.01.29 )