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vol.2 冬の旭岳

Text & Photo by 中西 敏貴

北海道最高峰といえば、東川町にある標高2,291mの旭岳です。道内に住んでいる人ならば一度は登ってみたいと思うであろう山。標高1,600m付近まで一気にロープウェイで上がれることから、最高峰にしては比較的アクセスは楽な部類に入るでしょう。そしてこのロープウェイはしっかりと冬でも営業しているので、雪山歩きという楽しみも広がる素敵な山なのです。

そんな冬の旭岳をゆっくりゆっくり歩いてきました。以前の記事にもありましたが、編集部のメンバーが冬の旭岳に行きたいというので実はその下見も兼ねているというわけ。どれくらいの体力が必要なのか、どれほど寒いのかなどを考えながら、撮影もしっかりと行ってきました。今回は、その撮影行のお話です。

© TOSHIKI NAKANISHI

ロープウェイの始発は朝9時。本当はもっと早く山に上がりたいのですが、その場合は山麓駅から山頂駅まで歩いて登らなければならず、流石に大変です。今回は機材も重いので改札の前で始発を待つことにしました。乗車時間10分ほどで山頂駅に到着。この辺りはすでに森林限界を超えており高木はほとんどありません。つまり、大雪原のみの壮大な風景が広がっているのです。当然風も強く風速10mなんてのは日常茶飯事。時には風速30mという日もありますから、風が作り出すシュカブラの造形美も美しいのが特徴です。

© TOSHIKI NAKANISHI

今日の目的地は山頂ではなく、写真にある噴気孔あたりまで。夏の登山道は雪に埋もれていますからどのルートで向かってもいいのですが、途中撮影もしたいので踏み跡を残さないように慎重にルート選択をしながら歩みを進めます。このルート選択が雪原での撮影のポイント。闇雲に歩いてしまうと折角踏み跡のない美しい雪原が台無しになってしまいかねません。「手前から」を常に意識して撮影に向かいましょう。

© TOSHIKI NAKANISHI

© TOSHIKI NAKANISHI

今回も足元にはスノーシュー。斜面の向こう側を登っているグループはスノーボードやスキーを持っている様子。旭岳は世界でも有数のパウダー天国で、圧雪されていない斜面が多いのも特徴です。いわゆるバックカントリーと言われるエリアでの滑りが好きな方にはきっと最高に楽しいと思います。そんな筆者も、来月あたりからはスキーに履き替え、もう少しエリアを広げてみようかと企んではいますが、はたして実現できるでしょうか。もしちゃんとスキーを手に入れることができれば、また改めてレポートをしたいと思います。

© TOSHIKI NAKANISHI

風が猛烈に吹く場所ですからご覧のとおり土や岩が露出している箇所がいくつかありました。こういう場面に出会うと、美しいと感じる反面、恐怖も感じてしまいますね。自然というのは常に表裏一体なのだということを強く感じさせられます。晴れていれば天国、吹雪けば地獄。山とうまく付き合うためにはいつもその両方を感じておく必要がありますね。さて、目的地である噴気孔へ急ぎましょう。

© TOSHIKI NAKANISHI

撮影しながらゆっくりと登り、2時間ほどでこの場所へと到着しました。夏は絶対に近づけない場所ですが、冬の場合はこうして近寄ることができるんですね。噴気の近くにはいくつか足跡もありますからすでに先客があったようです。かなり接近している足跡もありますが、そこは自己責任。活火山の噴気孔だということを忘れずに慎重に行動しましょう。さて、筆者の目的地はもう少し上。この時点で汗が滲んできたのでダウンを一枚脱ぎ、気合いを入れ直して歩きだします。繰り返しになりますが、この場所は夏山では絶対に入れない場所。雪山だからこその楽しみだということを覚えておいてください。

© TOSHIKI NAKANISHI

やっとのことで目的地へ到着。山頂駅から歩き出して時間にして3時間ほどでしょうか。途中斜度が急な場所もあり注意が必要ですが、しっかりとしたスノーシューがあれば問題ありません。それよりも、歩き続ける体力と気合が必要です。山登りは季節を問わずそうですが、ゆっくりでもいいので歩き続けることが大切。少しずつでも歩みを進めればいつか必ず目的地へと到達します。急いで登ると途中で疲れてしまい、結局ゆっくり歩いている人に追い抜かれるなんて話はよく聞きます。なんだか自分の写真人生を語っているようですが、きっと人生と登山は似ているのでしょうね。


美瑛の丘からもよく見える旭岳。こうして標高を上げ自分の足で歩いてみると全く違う姿を見せてくれます。「離れて見たら近づいてもう一度見る」。写真を始めた頃、よくこんな言葉を聞きました。物事をある側面だけから捉えるのではなく、違う視点を持て、ということだと思いますが、そんな哲学は山登りにも当てはまるようです。山を知るためには登るしかないのですね。写真もきっとそう。撮り手の視座を広げれば写真は自ずと上手くなっていくわけですから、視点を変えて撮るということを意識的にやってみると、もっともっと楽しみは深まっていくように思います。

今回は山頂までは到達できませんでした。というのも、山頂付近は氷の斜面が続くためアイゼンとピッケルが必要になる本格登山仕様。撮影機材を背負っていくにはまだまだ経験不足です。いつの日かあの頂へ到達したいので、日々トレーニングを続けようと思います。

© TOSHIKI NAKANISHI

© TOSHIKI NAKANISHI

さて、次回は編集部メンバーと共に旭岳へと向かう計画です。はたしてどんな撮影になるのか。僕自身もちょっとワクワクしています。

( 2021.02.05 )