PHOTO YODOBASHI

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Find a landscape
vol.5 三段山

Text & Photo by 中西 敏貴

いつも歩いている場所を違う角度から眺めてみたい。写真と向き合っている方なら誰にでもある欲求ではないでしょうか。それは山登りでも同じこと。向こうの稜線からこちらを見たらどうなるのだろう。あの場所へ行けばどんな景色が見られるのだろう。そんな欲求が毎回フツフツと湧き上がってきます。もちろん正規の登山ルートがなければ行きたくても行けませんから、ルートを外れないという前提での話ではあるのですが。

© TOSHIKI NAKANISHI

PHOTO YODOBASHI今回選んだ山は「三段山」です。この三段山ルート、昨年までは立ち入り禁止となっていました。崖尾根を歩くことから崩落の危険性があり、長い間幻のルート状態となっていた、私にとっては憧れの道。それがやっと開通したというのですから歩かないわけにはいきません。写真にあるような稜線沿いを歩くスリル満点のルート。その高度感は実際に体験しないとわからないかもしれませんが、今回はそのレポートをお届けしたいと思います。

(※地図をクリックすると大きな地図を表示します)

© TOSHIKI NAKANISHI

まずは三段山のロケーションから説明しておきましょう。この写真でみると、右上の雲の中あたり。この位置から見ると山が三段になっているからそう呼ばれているそうです。2000m級の山が連なる十勝岳連邦の中では比較的標高の低い山ですが、冬はバックカントリースキーの聖地とも言われ、多くの方はスキーやスノーボードでこの斜面を滑り降りているのが見えます。

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いつものように登山者名簿に記入してから登山スタートです。案外これを記入していない方がいるのですが、これも一つのマナーです。忘れずに書いておきましょう。万が一の時にきっと命を救ってくれるはずです。

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いつものスタイルで今日もスタート。愛用しているLOWAのシューズはインソールも含めてショップで完璧にフィッティング済みですから、もうすっかり足の一部のような感覚です。毎回のことですが、はやる気持ちを抑えて、ゆっくりと。

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しばらく歩くとすぐに三段山への分岐が見えてきました。1.4kmとありますからそれほどの距離ではありません。コースタイムを見ても1時間30分程度で、なぜこれまで通行が許可されていなかったのか不思議なくらい。ところがこの後、その理由の一端を知ることになったのはいうまでもありませんが。

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地形図を見ていて少しの不安がありました。等高線の詰まり方、そこに切られたルートのジグザグ具合。どう見ても急登です。とはいえ1.4kmですからなんとかなるだろうと考えていたのが大間違い。息つく暇もなく次々に高い段差がやってきて、なかなか前に進むことができません。カメラ機材も担いでの重装備ですから、少し進み少し休むの繰り返しで、この急登が永遠に続くのではないかという不安に襲われました。でも、山には必ず終わりがあります。苦しい思いをして登り、視界がひらけた先に新しい出会いがあることを信じて登り続けます。

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ハイマツ帯を抜け、やっとの思いで稜線にでた瞬間に思わず感嘆の声がでました。いつも撮影で歩いている爆裂火口の上に出ることができたのです。そして周りには誰一人いません。遠くの稜線に目を向けると、十勝岳へ向かうルートを登山者が歩いているのが見えます。この場所は長い期間、人の入っていない場所だったんだ。そう思うだけでも感慨深いものですが、なによりいつもと視点が変わったことの感動も大きいのです。
この世界のあらゆるものがそうであるように、物事には多面性があります。それは風景だってそう。いつも見ている方向からだけでは、その風景の本質を知ることはできないわけで、こうして歩くことで別の側面を知ることができるというわけなんです。

© TOSHIKI NAKANISHI

そんな感動に浸っているうちに山頂に到着です。周辺の有名な山に比べれば人気がないのか、数時間いても誰とも会うことはありませんでした。もっと高みへと目指すのが登山家の宿命なのかもしれませんが、写真家はそこがゴールではありません。誰もいないこの場所でじっくりと自然と向き合うことの方が大切なのはいうまでもないことです。

© TOSHIKI NAKANISHI

冒頭に掲載した写真はこの山頂を見上げたものでした。今回は、その場所を見下ろしてみます。当たり前ですが、見え方が全く変わってしまうのですね。自然や風景を知った気になっても、こうしてまだまだ知らない光景がある。登山だけに限らず、歩いてみるということはこうした発見の連鎖だと思うわけです。あの場所へ行ってみたい。あの場所から見てみたい。その根源的な欲求を満たすことで、写真がさらに楽しくなってくるのですね。
自然の場合、ここに四季の変化というものが加味されてきます。雪が降ればいったいどんな光景が見られるのでしょうか。昨シーズン導入したバックカントリースキーを履いて、この冬はまたここへ戻ってきてみるつもりです。

© TOSHIKI NAKANISHI

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このゴツゴツした岩山が、果たして雪に覆われるとどう変化しているのか、見たくなりますよね。願わくば、ここを滑ってみたい。いや、それにはかなりの技術と経験が必要ですから、まずはスキー場でのトレーニングから始めてみましょうか。

北海道の山はすっかり冬になってしまいましたので、これで今シーズンの夏山登山は終了です。次回の更新は、雪を楽しむをコンセプトにお届けしてみようと考えています。

( 2021.12.03 )