PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

3群5枚目  レンズに込められた設計者の想い
続・やっぱり単焦点が好き

NIKKOR Z 50mm f/1.2 S開発秘話

えっとですねえ、Z 50mm f/1.2を設計中のある時期、私はひたすら同じものを撮り続けていたんですが、それは何だかわかります?

原田
2号

わからないです(笑)

じゃーん! それはコレです!

原田
1号

え? フィギュア?

2号

ああ、コレですね。

そうです。2,000円でお釣りが来るぐらいの、初音ミクのフィギュアです。ヨドバシ・ドット・コムで買いました。

原田
4号

お、お買い上げいただきありがとうございます。でも、どうしてフィギュアを?

このフィギュアの「肌」がどう写るかを、来る日も来る日も検証してたんですよ。

原田
3号

フィギュアの「肌」・・・でござるか?

このフィギュアの素材はプラスチックです。確かによくできていますけど、よく見ればやっぱりプラスチックだし、触った感じもプラスチックそのもの。

原田
1号

でしょうね。

でもね、この肌が本物のヒトの肌に見えるようにしたかったんです。

原田
2号

それを聞くと、画像を加工するフィルターのようなものを想像してしまうのだけど。

ぜんぜん違います。そういうことじゃないんです。被写体はプラスチックなんですから、あくまでもプラスチックとして写ってくれないと困ります。ただ、それが本物のヒトの肌に「見えてしまう」、そんな写りを目指したんですよ。

原田
3号

ヒトの肌に・・・見えてしまう・・・はて?

写真の面白さって、見た人の経験、つまり学習と結びついて、見え方、感じ取り方が変わるところにあると思うんです。写真が「被写体を忠実に再現する」だけで、それ以上でも以下でもなかったら、すごくつまらないと思いませんか? このへんのことはニコン100周年の時のインタビューでもお話ししましたが。

原田
4号

ああ、覚えてます。「土間」の話でしたね。

人はみな、人間の肌がどういうものか知っています。それが私のようなオジサンと、生後3ヶ月の赤ちゃんではどう違うかも知っている。今までの人生で学習しているから。

原田
1号

ええ、わかります。

その学習と、写真の写りが結びついた結果、「本物の肌」が連想されて、ついそう見えてしまう・・・そんなレンズにしたかった。具体的に言えば「近距離収差をどうするか?」ってことなんですけどね。

原田
2号

確かに写真って、見た瞬間に過去のできごとが蘇ることがありますよね。写っているものとは直接関係なくても、脳内連鎖的に。

写真は過去の記録ですから、元々そういう性質を持っているものですけど、それをレンズの力で、写真の写り方で、もっと能動的に引き出せないものかと。それができたら、写真はもっともっと沢山のことを我々にもたらしてくれるようになると、ずっと考えていました。

原田
馬橋所長

なるほど哲学やわー。

ひとことで言えば、「測定器にとっての光学的なリアル」ではなく、「人間にとってのリアリティ」。撮影者のイメージに対してのリアリティを追求したんですよ。

原田
3号

で、それは上手くいったのでござるか?

商品として世に出してたくさんの方に買ってもらえる、という制約の中では、「これ以上はもう無理!」というところまでやり切ったと思います。

原田
1号

実に面白い。

4号

町田さん?

うわ、びっくりした!

町田
4号

ニヤニヤしながら聞いている場合じゃないですよ。

馬橋所長

Z 85mm f/1.2にもいっぱいありそうですね、秘話が。

あったかなあ。

町田
2号

あるはずです!

では、こんな話はどうでしょう。

町田