PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

2群7枚目  レンズの開放F値ってどうやって決まるの?
続・エフチの「チ」

・・・うーむ。

・・・不思議でござる。

馬橋所長

どうしました?

拙者は今、24mm F1.4と50mm F1.4を前玉側から覗いているのでござるが、同じ開放F1.4でもマナコ(眼)の大きさが違うでござる。

3号
馬橋所長

マナコ??

2号

ああ、レンズ単体を明るいほうに向けた時に、レンズの向こう側が明るく見える範囲のことね。

同じF1.4でござるぞ。何故ゆえにマナコの大きさが違うのでござるか。

3号

3号さん、レンズをひっくり返して、今度は後ろ側を覗き込んでみてください。

町田

こうでござるか。

3号

新宿光学総合研究所

あいや、後ろから見えるマナコは2本とも同じような大きさでござる!

3号
読者のみなさんもぜひお試しください。
  • これがやりやすいのは、マニュアルフォーカス時代のNIKKORレンズです。AFになってからのNIKKORレンズであれば、Dタイプがおすすめ。その場合はマウントの後ろにある絞り連動レバーを操作して「絞り開放」の状態にして下さい。
  • 覗く時のレンズの位置は、前側(フィルター側)から覗くときは少し離して、後ろ(マウント側)から覗くときは顔に近づけて見るのがポイントです。
  • 太陽などの明るい光源にレンズを向けるのは絶対にダメです。失明の危険性があります。

3号さんが言う「マナコ」は、つまりレンズの中にある絞りの虚像を見ているのですが、これこそが「レンズの明るさの実態」なのです。

町田
2号

虚像って初めて出てきた言葉ですね。

虚像の反対は何だと思います?

町田
2号

虚の反対なら、実?

正解です。例えば、虫眼鏡で蛍光灯を机に投影させることをイメージしてみて下さい。虫眼鏡の焦点の位置に像を作ることになりますが、そこで見えているのが実像です。

町田
2号

ふむふむ。

それに対して虚像とは、例えば虫眼鏡で近くのものを拡大してみている時、虫眼鏡を通してその物体が大きく見えている、その大きく見えているものそのものです。これはあたかも近くに物があるかのように見えていますが実際にはそこにそんな大きな物体、もしくは実像はないので「虚」像と呼ばれています。

町田

つまり、今見ているこのマナコが「F1.4の明るさ」の絞りの虚像ということでござるか?

3号

そのとおりです。ちなみに、ここに85mm F1.4がありますが、今お持ちの2本と一緒に並べて、前から見た時と後ろから見た時、どう違うか較べてみてください。

町田

新宿光学総合研究所
新宿光学総合研究所

これは、不思議。レンズの大きさや焦点距離がそれぞれ違うのに、同じF1.4なら、後から覗くとどれもマナコの大きさが同じでござる!

3号

当然のことながら、3本のレンズを絞り込んでいっても、同じ絞り値では同じ大きさに見えます。

町田
4号

まあ、考えてみればそうだよね。レンズのスペックの違いで、後から見た絞りの虚像の大きさが違ったらカメラの露出計が混乱するな・・なんとなく。詳しい理屈はわかんないけど。

1号

ところで、後から絞りの虚像を見れば同じ大きさに見えるのに、前からだと違って見える理由はどうしてですか?

そう、それでござる。

3号

それはですね〜。みなさん、ヒカリくんの冒険物語を覚えてますか?

原田

ヒカリくん

やあ!また会ったね!

4号

あら、原田さん居たんですね。てっきり歩道橋の向こうの中古カメラ屋さんに行ってるのかと思いました。冒険物語?? そういや、レンズはひとつの物語だって第1回で・・・

そうです、物語であるということがヒントです。ヒカリくんの「F1.4になるための冒険物語」を考えてみてください。冒険に参加するヒカリくんの数は焦点距離によって異なります。って、勤務中には歩道橋の向こうには行きませんよ!帰り道にはつい寄っちゃいますが・・。

原田
1号

ひょっとして、光の入口近く(レンズの前方)は冒険に参加するヒカリくんの数が違うから、前から見たら大きさが違って見えるのかな?

2号

・・レンズに導かれた光は、レンズの中で屈折しながら進み、最後に後玉から出る。後から出るときは、「F1.4」となる物語だから、F1.4の光に整って出てくると。

その通りです。以下の図を見ると分かりやすいかと思います。

原田

新宿光学総合研究所

24mm F1.4と50mm F1.4を単レンズとして考えると、同じF1.4を達成するためには、上記図のように焦点距離が長いレンズの方が、より多くの光を取り込む必要があるのです。そのため、前から見ると焦点距離が長い50mm F1.4の方が、「マナコ」が大きく見えるのです。明るい望遠レンズが大きくなるのもこのためですね。

原田
2号

ほおお。

ちなみに、絞り前方のレンズで絞りが作られる虚像を入射瞳、絞り後方のレンズで絞りが作られる虚像を射出瞳と言います。レンズ前方からは入射瞳を、後方からは射出瞳を見ていることになります。

原田
馬橋所長

ニュウシャヒトミ、シャシュツヒトミ、ニュウシャヒトミ、シャシュツヒトミ。

2号

ところで、ますます根本的な疑問が深まる・・。

馬橋所長

あら、2号さん。おそらく私の疑問と一緒だわ。そんな気がするの。

2号

F値って、つまりナニ??