PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

3群2枚目  完成レンズを見通す、見極める
シミュレータと設計者

4号

さきほど「画像シミュレータ」って言葉が出てきましたが、読んで字のごとく実際の写りをシミュレーションするってことですか?

はい、元画像とレンズの設計値などを入れると、そのレンズで撮影した場合に“こう写るはず”という画像が生成されます。

町田
3号

“元画像”というのは、予め何かを撮影した画像なのでござるか?

それも使えますし、それ用に作った合成画像を用いることもあります。

町田
1号

ボケ、例えば二線ボケだったりすると、距離によって出たり出なかったりしますが。

それもシミュレーションできます。ただしパターンが無数なので、どこまで検討するのか線引きが必要になります。ピンポイントのシーンで条件が揃えば、かなり正確に出ます。こちらの画像は実際のレンズで撮影したものですが、この撮影シーンでどんなボケになりそうかがシミュレータで予測できるんですよ。

町田

PHOTO YODOBASHI

NIKKOR Z 85mm f/1.2 Sによる実写画像

ニコンではこの画像シミュレータを使って「レンズの味」までコントロールしたレンズ開発を行っています。実はホームページでも詳しく解説していますので、時間のある時に覗いてみてください。

町田
2号

実際にレンズを作らなくてもそこまでできてしまうのですね。このシミュレータっていつ頃からあるんですか?

昔からありますが、急速に発展したのは、やはりデジタル以降です。

町田
4号

となると、原田さんが入社した頃とはずいぶん様変わりしているのでしょ?

現在のような実写と変わらないレベルには遠く及びませんが、私が入社した頃にも部分的なシミュレーションはできました。でも多少グラフィカルではあるものの、写真と呼ぶには程遠い断片的な画が延々と出てくる感じで。これをどう解釈すればいいのだろうと、よく頭を抱えたものです。

原田
1号

シミュレータも時代によってレベル感が異なるのですね。

そんな感じでしたから最終的な写りを想像する手掛かりは、収差値とMTF、光線の集まり方を図示したもの(スポットダイアグラム)ぐらいでした。どんな画になるか? ボケ味になるか? ということは、その情報を読み取り、実写との突き合わせができるノウハウがある人でないとイメージできませんでしたね。それなりの修行を積む必要がありました。

原田
2号

修行って、完全に職人の世界ですね。

ニコンの大井製作所に設計者でも使える、実物レンズの収差値や像の形がわかる装置がありましてね。私は中古レンズを買ってくる度にそれで逐一測っていました、今もですが。

原田
4号

それを実写と突き合わせていたのですね。

ええ、それこそ何百本測ったことか。ディス イズ ノンフィクション! これこそが私にとっての「修行」でした。

原田

でもその経験が今の原田さんというレンズ設計者の血肉になっているわけですからね、研究熱心の賜物ですよね。

町田