PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

3群2枚目  完成レンズを見通す、見極める
シミュレータと設計者

4号

先ほど出てきた、「ゴーストシミュレータ」ですが、ゴーストは光の方向とかによって、実際にどう出るのかシミュレーションできるのですか?

まあ、そうですね。こちらの画像は古いレンズ(コート無し)で実際に撮影したものなので盛大にゴーストが出ていますが、こういった感じのものが予測できると思っていただければよろしいかと。これ以上あまり詳しくはお話しできないのですがね。

原田

PHOTO YODOBASHI

ゴーストが出やすい古いレンズで撮影

2号

ここに来てオブラートな発言。何だか原田さんぽくないなあ。

まあまあ。先ほどゴーストの対処に時間がかかると言いましたが、実はゴーストが一番厄介なのですよ。

原田
3号

以前お話しいただいたコーティングという秘技があるではござらぬか。

ガラス作りとコーティング」で説明したように、コーティングはゴースト抑制に有効な薬ではありますが、コーティングだけでは許容範囲にまで強度を弱くしきれない場合もあります。コーティングは反射率をゼロにする万能薬ではないんですよ。

原田
1号

そんな時はどうするんですか?

ここからはゴーストシミュレータと光学設計変更との連続です。まず、コーティングも含めて、あらゆる発生条件と対処法を探るのがゴーストシミュレータなのです。発生条件は多岐に渡るので、発生状況を確認するだけでも大変。それに加え先ほど話した通り、コーティングのみでは十分に弱くしきれないゴーストもありますので、対策するためには、ゴーストが発生している面の曲率を変える必要が出てきます。当然、曲率を変えると収差も変化するため、ゴーストの対処をしつつ、収差をまとめ直さないといけません。

原田

一つのゴーストに対処すると、今度は別のレンズ面で新たにゴーストが発生することもありますからね。

町田

そこがまた痺れるのですよ。まさにモグラ叩き状態です。一つ叩いても別のところからまたゴーストが出てくるような感じですから。設計変更とゴーストシミュレーションを延々と繰り返す必要がありますので、このゴースト対策に多くの時間がかかります。ホントに終わりが見えなくなることもありましてね。ああ、思い出しますね、、、

原田
2号

原田さんの目が潤んでいるように見えるのは、気のせい?

ゴーストの事を考えすぎて夜空の星がゴーストに見えたこともありますよ。(ため息混じりに)オー ディス イズ ノンフィクション。ゴーストについての話は、も、もうこのぐらいにしましょう。。。いま、見えるはずのないゴーストがまた、、、

原田
1号

とにかく、今はシミュレーション技術の進歩によって、実物のレンズを試作しなくても、その写りや性能が事前にわかってしまうということですよね。かなりの精度で。

3号

いいレンズが簡単に作れてしまう世の訪れでござるな。

簡単に? いやいや、まさか。

原田
3号

違うのでござるか。

これらのシミュレータは極めて有用ですが、所詮は道具。いい包丁を使えばそれだけで美味しい料理が作れるのか?という話と同じで、結局その道具をどう使いこなして、それで何を作ろうとしているのかが大事なんですよ。むしろシミュレーション技術が発達したからこそ、設計に求められるレベルが上がって、昔よりも難しくなったという見方もできます。

原田

あくまでも道具ですから、同じシミュレータを使っても、それでどこを見て、何をフィードバックするか、使い方のスタンスは個々の設計者によって異なります。大事なのは、そこで得られた結果を見て、ここの部分を直すにはこうした方がいいかな? こうするべきかな? と考え、その考えたことを実行してみることなのです。

町田

つまるところ、シミュレーションを掛ける設計者の見識がまず必要なんですね。やろうと思えば無限にできちゃいますから、こういうレンズを作ろうという意思や、明確な狙いがないと、いつまで経ってもゴールに辿りつかない。

原田
2号

ツールは時代とともに進化しても、設計の根っこ部分はやっぱり人間力。

馬橋所長

いいこと言うわねー。ところで3号さん、さっきのニヤニヤ顔から打って変わってずいぶん神妙な顔つきだけど。

3号

いや、例のボーナスの使い道の件は、やはり家に帰ってからお伺いを立てた方がよろしいかなと。

2号

そちらもシミュレーションが大事。

馬橋所長

NG出されたってヘコたれない熱意もね。がんばるのよ。