PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

3群2枚目  完成レンズを見通す、見極める
シミュレータと設計者

ちなみにレンズ設計で時間を費やすところって何だと思いますか?

原田
4号

それはやっぱり、収差をどうまとめるか、なのでは?

2号

私もそう思います。

やはりそういうイメージを持ってる人が多いようですね。実のところを言いますと、製品完成までのトータル時間のうち、レンズを具現化するためのメカ設計者とのやり取り、ゴーストの対処や量産性の検討など、要するに収差をまとめる作業以外の部分に8割の時間をかけているのですよ。ですから「ゴーストシミュレータ」や「量産シミュレータ」を活用し、品質保証部門、メカ設計や生産現場の方との連携、すり合わせを密にするんです。

原田
1号

「ゴーストシミュレータ」はなんとなく想像できるけど、「量産シミュレータ」って何をするのですか?

簡単に言ってしまうと、ホントにこの設計で“目指した写り”となるレンズが実際に作れるのか、ということをシミュレーションします。量産品なので、一つ一つの部品に理想的な状態からのズレが生じますが、そのズレが起きても所望の光学性能が出るようなレンズの作り方を「量産シミュレータ」で検討するのです。

原田
2号

レンズの作り方も設計者が検討するのですか?

はい。所望の性能を出すために製造工程の中で調整を行う部分がありますので。その調整をどのように行えば性能が出るのか、その調整は現実的にできそうなのか等を検討します。当然、生産現場に関わる事なので、現場の人と密に連絡を取りながら検討を重ねることになりますが。緻密な作業が必要となるので結構時間を要します。かなり大変なのですが、製品の出来上がりを想像しながら検討するので、それはそれで楽しい時間でもあるのですよ。

町田
4号

絵に描いた餅からレンズは作れないってことですね。ちなみに、狙った性能の中には、先ほどのMTFも含まれるのですか?

はい、含まれます。

町田
4号

MTFは、実際にはどうやって測っているのですか?

例えば、量産品はこのように像面上のチャートを物体側に投影後、CCDカメラでチャート像を撮影し、その撮影結果からMTFを計算しています。

町田

PHOTO YODOBASHI

MTF検査のイメージ

2号

撮影結果が数値化できると、良し悪しの判断ができますね。

ええ。ですからMTFは、性能の一つの指標として用いています。

町田
4号

MTF検査のイメージの中に“被検レンズ”とありますが、これって実際のレンズを測定するということですよね。

はい、そうです。MTF検査は全数行い、良品かどうかを判断しています。ちなみにニコンは数十年前に写真用レンズを作り始めて以来ずーっと、量産品の光学性能は「全数検査」です。一品たりとも、基準を下回るレンズを世に出さないという強い想いから「全数検査」をしています。 これは私たちにとっては当たり前のことだったので、対外的にも特にアピールしてこなかったという。。。ですから今回ここであえて強調させてください。

町田

ニコンは全数検査 (3回くりかえし)

ニコンは全数検査 (みなさんもご一緒に)

ニコンは全数検査 (ありがとうございました)

1号

町田さんがいつになく強く押してきたな。

解像に関する検査と言えば、大昔は実写評価、次に解像力チャートでの検査、そして今は全数MTF検査です。かつての解像力検査は、一番細かく解像している本数(限界解像力)の1点のみの評価で、これは写真の印象とは相関が高くありませんでした。MTF検査では、最初にお話ししたように個々の収差量は欠落してしまいますが、限界解像力に至るまでの、写真の印象にとって大事な低周波などを総合的に評価できる点では、解像力検査より優れています。また、像面情報も併せて取得して、解像力検査よりも多くの情報量を取得して検査しています。

原田
3号

緻密な検討に検査。こんなにも手間暇をかけられているとは感服つかまつる。