PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

3群8枚目  ものづくりの最終工程で行われる試作とは
試作のプロフェッショナルたち (後編)

ここでも出てきた、シミュレーター

2号

出た。やっぱりここでもシミュレーターなんだ!

シミュレーターのおかげで、設計と製造の間で起き得る問題が、試作をする以前に、より細かく、具体的に把握できるようになりました。

井上

PHOTO YODOBASHI井上さん

2号

思い出した! シミュレーターの回に「量産シミュレーター」という言葉が出てきたわ、確か。

3号

シミュレーター恐るべしでござるな。

4号

でも、そこまでシミュレーターが発達しているなら、もはや量産試作をする必要はないのでは?

そう思いますよね? 確かに量産試作の段階で、かつてのような大きな問題が出ることはなくなりました。

井上
4号

ですよね。

しかしシミュレーターの性能が上がったぶん、より高度な設計ができるようになり、自ずと製造のハードルも上がりました。大きな問題は出にくくなった代わりに、以前なら問題にならなかったようなごく僅かな誤差が、性能に大きく影響するようになったんです。それにシミュレーターはあくまでもシミュレーター。試作をして初めてわかることは依然としてたくさんあります。

井上
4号

試作は変わらず必要・・それどころか、より重要性を増しているということですね。

そうですね。ただ、シミュレーターのおかげでより高いスタート地点から量産試作を考えられるようになったので、それは間違いなくシミュレーターのおかげです。

井上
1号

量産試作って、ぜんぶで何本ぐらい作るんですか?

2号

20本とか、30本とか、そのぐらいは作るんでしょう?

桁がひとつ足りません。

井上
3号

ええーっ!

量産試作とひとくちに言っても、いろんな段階や目的がありますし、作っては問題点を見つけ、解決方法を探り、対策を施し、また試作を作っては問題点を・・・その繰り返しですから、結果的にたくさん作ることになります。

井上
4号

実際に組み立てる方たちだって、急には作れないですもんね。

その通りです。さっきも言ったように設計が高度になったぶん、組み立てに以前より高い精度が求められるようになりました。実際の量産に入るずっと前から組み立てのトレーニングを繰り返すので、それも立派な試作ですよね。もはや人間には不可能な精度を求められるのでテクノロジーの力を活用した工程が多くなりましたが、それを操作したり、結果を確認したりするのは、結局人間ですから。

井上
1号

その試作の数だけ問題点が解決されて、最終的にわれわれの手元に届く。

2号

そんなことは想像もせず、当たり前のように使っているけどね。

3号

そう考えると、軽いレンズでもずっしり重く感じられるでござるな。

4号

上手いことを言うねぇ。でもなぜかイラっとする。

要求性能を満たせ!

1号

山本さんは光学系を担当されていますが、ということは、原田さんとのやりとりがいちばん多いのは山本さんですね?

馬橋所長

なんだかもう、それを聞くだけで気の毒に感じてしまうわ。

あのー、みんな「語弊」って言葉知ってる? 習った? ぜんぜんそんなことないですよね? 山本さん。

原田

いやー、もう大変ですよ。

山本

山本さん・・・

原田

すでにご存知の通り、原田さんの設計は非常にレベルが高く、基本に忠実でありながらもチャレンジング。そして最高性能を狙う。作るのがホントに大変なんです。その上、原田さんは自分に妥協をしない人ですから。

山本

PHOTO YODOBASHI山本さん

4号

はい原田さん、ご自身で解説、または弁解を。

えーっとですね、レンズって、設計値通りの性能を持ったものは量産できないんです。製造上の公差(ばらつき)が必ず発生するのでそれを許容しなければなりません。だから、例えば設計値が「10」だとしたら、製品も「10」ということはあり得ない。どうしてもそれより下がるので、予めそれを見越して設計をします。

原田

高性能なレンズ・・・高額なレンズと言い換えてもいいと思いますが、そういうレンズほど「10」に近くなるように作ります。その中でも原田さん設計のレンズはその要求レベル、われわれは「出荷規格」と呼びますが、それが極めて高い。

山本

そんな出荷規格、いったい誰が・・・ブツブツ・・・自分だけど。

原田

設計の段階で「公差がこのぐらいであれば、最終的にここまでの性能が出せる」というシミュレーション結果をもらうわけですが、もうその時点でバチバチ始まりますね(笑)。「そんな公差で作れるわけないでしょ!」みたいな。あ、そういう人もいると聞いたことがあります(笑)

山本

いや、でもですね、私としては闇雲に言っているわけではなくてですね、栃木ニコンなら、山本さんならそれができる筈だという目算があるからこそですね・・・

原田

栃木まで来て、「この公差で作ると約束してくれるまで帰らない」なんて居座られたこともありましたよね(笑)

山本
2号

原田さん、汗だくですよ。

でも、最終的に解決策を見つけてくれるんですよ。本当に感謝しています。あれは何のレンズの時だったかなあ、こちらがダメ元で恐る恐る要求を出してみたら、「分かりました。やってみましょう」と。あの時は感激しました。

原田

そうは言ってみたものの、「さて、どうやって原田さんに謝ろうか?」って、それしか考えてなかったですけどね(笑)

山本

高い出荷規格をクリアさせることは、良品率の低下と工数増に繋がります。それはコストにも生産スケジュールにも大きな影響を及ぼします。そういう極めて重大なことを、量産試作を何度も重ねることでうまくバランスをとってくれているんです。

原田

あんまり褒められると、次からバチバチやりづらくなるのでやめてください。

山本

あれ? バチバチやる人も、中にはいるらしいっていう話でしたよね?(笑)

原田