PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

3群8枚目  ものづくりの最終工程で行われる試作とは
試作のプロフェッショナルたち (後編)

読んで字の如く、量産に向けての試作が「量産試作」ということになります。もちろん設計の段階から、量産を見据えた設計をしていただいているわけですが、果たして要求性能を満たすものがちゃんと量産できるのか、それを確認するための試作ですね。

大島

PHOTO YODOBASHI大島さん

2号

つまり、料理の本に載っているものが、ホントに自分にも作れるのか? ってことですね。私はいつもまったく違う料理が出来上がりますけど。

例えば、機能試作で使われるパーツは、試作用に特別に作られたものが殆どです。つまり金属にしろ、プラスチックにしろ、削り出しで作られていたりします。いわばワンオフの一点物ですね。

大島
4号

必要な数が少ないので、当然そうなりますよね。

一方、量産で使われるパーツは大量生産向けに金型を起こしてプレスで作られるものがたくさんあります。すると、見た目は同じパーツでも、製造方法が違うだけで問題が起きる可能性だってあるわけです。なので量産試作では、実際の量産と同じパーツを使って、同じ工程で作ってみて、「さて、どうだ?」と見極めて評価するのです。

大島
3号

具体的にはどういうことを「見極めて評価する」のでござるか?

製造の世界でよく使われる指標に、「QCD」と呼ばれるものがあります。

大島
4号

QCD?

Q=Quality(品質)、C=Cost(コスト)、D=Delivery(納期)のことです。これらが要求通りに、計画通りに達成できるかどうか、試作をすることで確認するんです。

大島
1号

コストとか納期という言葉を聞くと、浮世離れした設計の世界から、イッキに現実の世界に来た感じがしますね。

ちょっと、 浮世離れって・・・

原田
1号

モノの喩えですって。

もちろんレンズの設計は性能だけではなく、製造にかかるコストや工数のこともじゅうぶんに考えてされていますが、量産フェーズは「品質の高い製品を、適切な価格で、決められた期日までにお客様にお届けする」というものづくりミッションの最終工程なので、「もう、すぐそこにお客様の顔が見えている」という緊張感はありますね。

大島
2号

例えば原田さんが設計されたレンズを実際に作るのって、やはり大変なんでしょうね。

今の質問には語弊があるような気がする。

原田

なんの前触れも無しに「はい、設計が終わったので、あとよろしくお願いします!」と言われたら途方に暮れるでしょうね。でも実際には、設計の段階からわれわれ製造部門も入り込んでいるので、開けてびっくり玉手箱! みたいなことはないんです。

大島
3号

なるほど。ある日を境にバトンタッチ、ではないんでござるな。

そうです。来たる量産フェーズを見据えて、設計の段階から協力して作業を進めています。なので「設計の期間」と「量産に向けた準備の期間」というのは、かなりオーバーラップしているんです。われわれはこれを「FL(Front Loading)活動」と呼んでいます。

大島
2号

ということは原田さんの設計でも「なんじゃこりゃ〜!?」ということはないわけですね。よかったですね、原田さん!

いや、だからいろいろ語弊がね・・・

原田

昔は、わりと「バトンタッチ」に近かったんですよ。バトンタッチだと、量産試作で問題が発生した場合に、その解決のために設計の初期まで遡らなければならない、なんてことも当然起き得るわけです。それはあまりに不確実だし、非効率ですよね。

大島
4号

その頃には今で言うところの「FL活動」の発想はなかったのでしょうか?

設計の段階では、量産フェーズで発生し得る細かな問題をすべて予測することは難しいですし、もっと言えばわれわれ製造部門でも予見できないことが多いんです。それを見つけるために試作するわけですからね。なので、もっと以前からFL活動を進めていたら状況は改善していたか? というと、それは難しかったと思います。

大島
1号

それができるようになったのは、何がきっかけなんですか?

シミュレーターの発達です。

大島