PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

3群8枚目  ものづくりの最終工程で行われる試作とは
試作のプロフェッショナルたち (後編)

やっぱり大変だったコロナ禍

1号

量産試作にもいろいろとご苦労があることがわかりました。そんな中でも「あれは大変だった」というレンズは何ですか?

うーん、なんかあったかなあ。いろいろあったはずなんだけど(笑)

大島
2号

思い出してください(笑)

試作をやっている時は、パーツの番号を言われただけで「ああ、アレね」とすべて頭に入っているんですけど、無事に量産に入った途端、自動的に脳内が初期化されてぜんぶ忘れてしまうんですよ。なので大変だった記憶も、みんなきれいさっぱり・・・

大島

個別の商品のことではないですが、やはりコロナ禍は大変でしたね。

神山

あー、あの時は大変だったね。

大島
1号

やはりコロナの影響は大きかったんですね。

ニコンはタイに持っている工場でもニッコールレンズを生産していますが、タイで生産するレンズの場合にも、われわれが現地へ行って、向こうの人と協力して量産の準備を整えるんです。無事にラインに乗って出荷されるまで。

神山

PHOTO YODOBASHI神山さん

ところが2020年3月に非常事態宣言が出て、人の行き来ができなくなりました。

大島
2号

それでもニコンのレンズ作りは止まりませんよね。

もちろんです。それなのに、もうその時点でスケジュール通りに物事が進んでおらず、キャッチアップの計画も立てられない。これはいったいどうしたものかと。生産開始の遅れは出荷の遅れに繋がりかねませんが、そうなると大問題です。

神山
3号

で、どうされたんでござるか?

問題は、いつになったらタイに行くことができるようになるか? ということでした。しかし非常事態宣言が解除される見通しは一向に立たず、もう待てないところまで来てしまいました。よし、こうなったら「あの手」を使うしかない、と。

神山
4号

「あの手」とは?

今みなさんとこうしてお話をしているように、オンラインで繋いで作業を進めることにしたんです。

神山
2号

ひゃあ、たいへん!

4号

今、こうやってお話をしているだけでもオンラインの煩わしさを感じてしまうのに、レンズ生産のシェイクダウンの準備をすべてオンラインでされたんですか?

実際にやってみると、これが想像より遥かに大変でした。ビデオカメラで手元を写したり、結果をやりとりして一つ一つ確認しながら作業を進めていくのですが、フェイス・トゥ・フェイスの場合に比べて、気が遠くなるほどの時間がかかりました。現物が必要になって送ってもらっても、待てど暮らせど届かないですしね。

神山

「目の前にある」と、「画面越し」では大違いなのは分かっていたつもりでしたが、それにしても・・・という感じでしたね。

大島

それでもなんとかやり切りました。現地の人たちも大変だったと思います。

神山
4号

今のお話をお聞きすると、「めげない」「屈しない」という言葉がぴったり当てはまるような気がします。

確かにその気持ちはありました。その気持ちだけで乗り切ったようなものです。でも、あの時は世界中の多くの会社が、同じような状況で戦っていたと思います。

神山

栃木ニコンで試作を担当されているみなさんから

1号

では最後に、ニッコールレンズをご愛用のみなさんにメッセージをいただけますか。

自分たちが携わった商品が実際に世に出て、多くの方に手にしていただけるというのは素晴らしい体験です。さらにそれが高い評価をいただけると、本当に励みになります。みなさんにご満足いただくためにQCDやFL活動があるので、これからもしっかりやっていきたいと思います。

大島

ニコンは高い技術力を持っていますが、その一端をこうして担えていることに幸せを感じます。これからもニコンがさらに技術力を高めていけるよう、自分も精進していきたいと思います。

神山

原田さんのレンズに限らず、設計からの高い要求精度をクリアするための工夫や努力を日夜しています。その結果、ニコンのレンズは写りが良いと言ってもらえた時には、すべての苦労が報われます。ずっとそう言っていただけるように、これからも頑張っていきたいと思います。

山本

レンズの製造現場では毎日、相当な数のレンズを作っていますが、現場のみなさんが仕事をしやすく、そして同時にレンズの性能・品質を高めていける、そんな製造環境を創っていきたいと思います。えーと、これは個人的な話なんですが、実は私の奥さんが同じ栃木ニコンの製造現場で働いていまして・・・

井上
2号

なんですと! 同じ職場に奥様がいらっしゃるのですか? そこもっと詳しく!

3号

職場結婚ということでござるか!

1号

周りの人たちは知っていたんですか?

4号

なんだこの盛り上がりは。ここから先はプライベート過ぎる話が続いたので、今回はここまで。じゃあ、またね!



※貴重な時間を割いて取材にご協力いただいた株式会社栃木ニコンのみなさまに、あらためてお礼申し上げます。まことにありがとうございました。