PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

3群7枚目  設計図と完成品のはざまで
試作のプロフェッショナルたち (前編)

暑サニモ負ケズ、寒サニモ負ケズ

もう一つ、「堅牢であること」という要件の中で、衝撃と同じぐらい重要視しているのが「温度」です。

今榮
1号

ニコンのカメラは、地球上のあらゆるところで使われますからね。

例えばニコンZ 9が動作保証しているのは「-10~40度」という範囲。もちろんレンズもそれに準拠するように開発を行います。でも実際には、上も下も、もっと幅広い温度域で問題なく動くようにマージンを取って設計しています。

今榮
4号

ホントにその範囲でしか動かなかったら、もはや日本では使えなくなっちゃいますもんね。

温度に関しては、求められる要求が低くなることはなく、逆にどんどん厳しくなっていきますね。あるレンズでは、「それって、標高の高いところだと水が沸騰しかねないよね?」なんていう温度を求められたこともあります。

原田
2号

そのテストってどうやるんですか?

低温/高温を人工的に作り出す装置の中に試作品を入れて、そこに手だけ差し入れて問題なく動くかどうかを確かめるんです。

今榮
2号

もちろん手袋をして。

いや、手袋をしてしまうと微妙な感触の違いが分からないので、素手です。

今榮
2号

素手!

そのテストをしている期間は、私の両手はいつも真っ赤ですよ(笑)。

今榮

金属にしても、プラスチックにしても、熱が加わると膨張して変形しますよね。エアコンを切って炎天下に停めた車の中なんて、簡単にそういう状況になります。温度に対する対処で難しいのは、それでも正常に動かないといけないのはもちろんですが、冷えた時に「ちゃんと元に戻るか」ということ。

原田
1号

車の中に置きっぱなしにして、もしそれが理由で壊れてしまったら、「何もしていないのに壊れた」と言われてしまいますね。

そうなんです。昔のレンズは金属とガラスだけで作られていましたが、今はいろんな素材を組み合わせて、それをミクロン単位の精度で組み立てています。素材が違えば膨張率も違ってくるのに、「それでも性能が変わらないように」と、より厳しい組み立て精度を求められるのです。

今榮
4号

膨張率がそれぞれ違うパーツを組み合わせる・・・それは確かに大変だ。

最初の頃は手探りでしたが、今ではその勘どころが分かっています。これまでの試作や検証によって、「壊れないようにするためには、このくらいマージンを取っておけば大丈夫」というのが分かるようになっています。部材の膨張の影響で、「ピントが合わない!」なんてことが無いように、シミュレーションを用いた検証なども行います。

今榮
1号

実際に使って壊れたものをご覧になったりもしますか?

お客様からお預かりした修理品も、開発にとっては大事な分析対象です。特に重要なのは、われわれが想定していなかった箇所で起きた故障。そういうものは故障を再現して検証し、原因を探って対策を見つけるようにしています。それが以後の製品開発の新たな基準に加えられることもあります。

今榮