PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

3群7枚目  設計図と完成品のはざまで
試作のプロフェッショナルたち (前編)

「壊れ方」が問題

さて、機構ごとやパーツ単位での試作を経て、設計も終盤になると、製品の完成形が見えてきます。やはりここにも試作があります。

今榮

「ほぼ完成形」の試作を使って、まず最初に行うテストは何だと思います?

原田
4号

何だろう?・・・操作感とか、そういうことかな。

実はですね、衝撃のテストなんです。

今榮
4号

おお。「ニコン=頑丈」のイメージは確かにある。

衝撃的でしょ?

原田
4号

ええ、まあ。はは。

一番最初に衝撃のテストを行う理由は、不具合があった場合、対処するのが一番大変で時間もかかるからです。ニコンとしては堅牢性をとても重要視しています。その部分を担保するためにもまず最初にぶつけてみるということです。

今榮
2号

いくら気をつけていても、ぶつけたり、落としたりはフツーに起こり得ることですもんね。
(編集部注:フォトヨドバシでは、各メーカー様からお借りした機材は極めて大切に扱っております)

大切に、丁寧に使ってもらうのがいちばんですが、実際はそうとは限りません。特に職業として写真を撮られている方にとっては仕事の道具。腫れ物に触るような扱い方では仕事になりません。すべてのレンズで耐衝撃性能のテストをしていますが、特に報道機関でハードに使われることが想定されるレンズでは、より厳しい基準で頑丈に作っています。

今榮

そういったテストはあらゆる状況を想定し、開発チーム総動員で行います。実際に試作品を何本も壊してみて、「どういう衝撃を加えると、どこが、どう壊れるか」を検証し、対策を練るんです。

原田
2号

何本も!

理想はどんな衝撃を受けても壊れないことですが、それは不可能。問題は、衝撃を受けた時にどこが壊れるか。いきなり使い物にならなくなることだけは避けたい。だから光学性能に影響しないところだけが壊れて衝撃を吸収する、という発想が生まれます。

今榮
4号

自動車のクラッシャブルゾーンと同じ考え方ですね。

その最たるものがフード。衝撃を受けるとレンズ本体に影響せずに外れたり壊れたりするよう、設計をしています。

今榮
2号

レンズを守るという意味でも重要なんですね、フードって。

われわれにとって大事なのは「ここまでやると壊れる」という限界を知ること。それを知ることで初めてコントロールできるようになります。闇雲に頑丈さだけを追求してしまうと、ユーザーの皆さんが求める軽さや小ささを実現できませんから。

原田
4号

軽さと頑丈さのバランス・・・その最善ポイントを探るためにも、試作と検証の繰り返しが大事なんですね。