PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

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エリア510
Volume 4

510氏、連れ去られる

ニコンという世界中の人が名前を知っているカメラメーカーの執行役員まで務め、役員を退かれてからも「フェロー」という肩書とともにニコンのDNAを守るべく、カメラの研究・開発に邁進されてきた輝かしい経歴をお持ちの510さん。モノづくりという土俵で各メーカーがお互いに刺激し合い、ライバルに負けじと切磋琢磨を重ねた結果が現在の日本のカメラとするならば、510さんはニコンという枠を飛び越え、「日本のカメラの発展」に大きく寄与してきた、そういう言い方ももちろんできるわけです。

そんなすごい510さんを、こんなグダグダな、行き当たりばったりの企画に付き合わせていいのだろうか?

そんな一抹の不安が無いわけではないのですが、われわれのおバカなアイディアを笑って許してくれるだけでなく、積極的にノッてくれ、時にはもっとバカバカしくなるように意見までしてくれるその姿勢に、510さんの懐の深さ、マインドの若々しさ、言うなれば「真の凄さ」を感じるのであります。なので、改めて上の疑問に自答すると、

「いいのだ。」

ということになります。まぁ度が過ぎれば「いいかげんにしろ」と言ってくれるでしょうから、そこまでは頑張りたいと(何を?)思います。

というわけで前回予告した通り、510さんを国外へ連れ去りました。事前に伝えてあったのは、

  1. 指定の日時に成田空港へパスポートを持って来てください
  2. 2泊3日です
  3. めっちゃ寒いところへ行きます

の3点だけ。本当は2も3も黙っていたかったのですが、さすがに準備がありますし、空港まで来て「えっ?ハワイじゃないの?」なんてことになると面倒なので、これはやむなく。で、どこへ行ったかというと・・・

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エアのチケットを見て驚愕する510さん(多少の演出あり)。

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じゃーん。行先には「VLADIVOSTOK」とあります。

そうです、ウラジオストクです。ただし、ここで「なんでウラジオ?」「どうして連れ去り?」とは訊かないでいただきたい。冷静にそれを尋ねられても、「いや・・なんていうか・・うーん・・・面白そうだったから?」と、若干フテ気味に答えるしかないのであります。でもこれが結構大変だったんですよ。ペレストロイカは遠い昔の話になったとは言え、そこはロシアですからハワイやサイパンへ行くのとは違って、いくつか独自の手続きがあります。例えば向こうのお国に提出する本人自署の書類があるのですが、これをそのまま渡したら行先がバレます。そのほかにも旅行会社からの郵送物がご自宅ではなく編集部に届くようにしたり、電話連絡(渡航前の最終確認)がご本人に行かないようにストップかけたり。

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黒い紙を貼ってスミ塗りした渡航関係の書類。わざわざPY編集部の忘年会にお呼びして目の前でサインだけしてもらい、すぐに取り上げました。

さて、無事にウラジオストクに到着〜!・・・と行きたいところですが、その前にきっちり書いておかなければならないことがあります。

まずカメラの話からさせてください。例えばデジタル一眼レフですと、1台のカメラはおよそ千点におよぶパーツが複雑に組み合わさって出来ています。ボディシェルのような大きなものから米粒より小さなネジまで、その一つ一つが過不足なくきっちり自分の仕事をして、初めてカメラとして機能します。もちろん精度だけじゃありません。耐久性がなくてはカメラとして成り立ちませんし、じゃあとにかく頑丈に作ればいいのかというと、それを小さく軽く作る必要があります。メンテナンス性も考えなければいけませんし、使う素材の安全性も考慮する必要があります。最高の技術を注ぎ込む一方で、製造コストは抑えなければなりません。開発のスタートから店頭に並ぶまで、いくつもの相反する条件をひたすらクリアさせ続けてやっと世に出る。それがカメラという製品です。

どうしてこんな話をしたかというと、こういう「一大プロジェクト」であるカメラ開発の全体を指揮し、そこに関わる膨大なヒト、モノ、カネをまとめ上げ、最終的にゴールまで導く人間というのはいったいどんな人なのか、ってことです。