PHOTO YODOBASHI

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ご存知の通り、510さんはニコンという会社でこの役目を何台ものカメラでやってこられました。それは私も知っていました。でも、私にとってそれは510さんという人にまつわる予備知識の一つに過ぎません。実際にカメラの開発に携わった経験はないので、それがどんなに大変な仕事かは知る由もない、というのが正直なところです。ところが「なるほど、こういう人じゃないとカメラ開発の総責任者なんて務まらんのだな」と思わせることが、渡航前のやりとりの中にありました。

諸連絡は主にメールで行われるのですが、今回のウラジオストク行きに関して、510さんからこんな質問をいただきました。前出3つの事前情報(成田空港待ち合わせ/2泊3日/寒いところ)だけお伝えしてある状態での質問です。原文ママ。

もう少し防寒の目安になるヒントを頂けませんか?
マイナス10度ぐらいですか? 風はビュービューでしょうか? 雪や氷は?
逆に建物の中に入れば普通でしょうか?
僕はかなりの暑がり、厚着で暖かいと狂い死にするたちです。
(渡航1ヶ月前)

風がビュービューかどうかは行ってみないと何とも・・・
それにしても、く、狂い死にって・・・。

ところで来週末からのミステリーツアーに関して質問です。
2泊3日の2日目は終日極寒に震えることを覚悟していますが、
初日と最終日の格好もそのような備えが必要なのでしょうか?
日本から出る時、日本へ帰る時の服装を気にしています。
(渡航10日前)

つまり、飛行機を降りてからホテルに着くまでに(あるいはその逆の時に)どのぐらい外気に晒されるか? という意味だと思うのですが、そこまでは旅程表を見てもよく分からないでござる。

今晩は。
お尋ねです。
宿泊先にはパジャマ代わりのガウン、ドライヤーなどは
あるのでしょうか?
できるだけ荷物を減らしたいので。
(渡航4日前)

ううむ。(これは同じホテルに泊まった人が書いたレビューを参考にしてお返事しましたが、結果、まんまと間違っていました)

というわけでお返事に困る質問がいくつかあったのは事実ですが、これらのメールを読んで、私は「なるほど!」と思ったのです。「腑に落ちた」というか。「510さんだからこそ、あの仕事ができたのだ」とハッキリ分かったからです。私事で恐縮ですが(でも多くの方が共感してくれると思うのですが)、私も社会人になってだいぶ時間が経ちました。その間に分かったのは「仕事で大きな成果を上げる人は、例外なしに心配性である」ということ。ここで言う「心配性」というのは、弱気とか優柔不断とか、そういうネガティブな意味ではありません。「先々で起こり得ることを想像して、常に備えている」ということです。先のカメラ開発の話に戻りますが、「そん時ゃそん時。まぁなんとかなるっしょ」というタイプの人間には絶対に務まらず(人生にはそういう思考が必要な場面もありますが、それとこれとでは本質的に違います)、むしろ常に最悪の事態を想定し、それに対する備えができている。そういう人が「新しいカメラを開発する」という大プロジェクトを主導できるのです。「失敗を恐れず、思い切りやってみろ」という部下へのハッパは、この備えができているからこそのセリフなんですね。備えるためには正確な状況把握が不可欠。それにはまず情報収集。よってこのぐらいの質問、当然なのであります。

ちょっと持ち上げ過ぎましたでしょうか。でも本当のことです。