PHOTO YODOBASHI

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エリア510
Volume 8

510のじどうしゃ事始

緊急事態宣言が解除され、徐々にではありますがかつての日常に戻りつつあります。ところで「日常」とは何ぞや。人によって定義はさまざまでしょうが、僕にとっての日常とはつまり、「皆で集まって酒を飲むことができる状態」です。独りで家飲みもいいかげん飽きましたって! あれは酩酊を目的とするただのアルコール摂取作業に過ぎず、人と人の間の、言葉や笑顔を媒介とした気持ちのやりとりがありません。実につまらんです。リモート宴会とやらもやってみましたが、僕にはピンと来ませんでした。しかし実際問題、宣言が解除されたからと言って「さあ皆の衆、大いに飲もうではないか!」とは行かないのですね。それがこのウィルスの嫌らしいところです。依然として感染者は発生し続け、お酒の場に関係している例が少なからずあるなんて聞くと、やはり慎重にならざるを得ません。僕も含めて飲み仲間たちはそれなりの年齢ですから、感染、即命の危険です。まだまだやりたいこと、やり残したことがいっぱいありますから、もうちょっと辛抱が必要なようです。ご同輩はもちろん、若いみなさんも引き続きお気をつけください。


僕が大のクルマ好きだということは、これまでにも何度か書いてきました。でも本当にクルマに興味を持ち始めたのは、実は社会人になってから。遅咲きなのです。

中学生の頃、自動車のカタログをせっせと集めていましたが、それは幼児が「ぶーぶー」に興味を持つことの延長のようなもので、かっこいいなあとは思っても、それを所有して自ら運転したいという欲求はまったくありませんでした。大学生になると周りはみな免許を取り、バイトをしてバイクやクルマを買って嬉々として乗り回していましたが、その期に及んでもまだ「いったい何が面白いのか」と、彼らのことを醒めた目で見ていました。当時からひねくれていたんですね。とにかく「自動車にはまったく興味がない」のが、22歳の僕でした。

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中学生の頃に集めたクルマのカタログ。

それがです。ニコンに入社して最初に配属された部署が、クルマ好きの巣窟みたいなところだったのです。これがいけなかった。始業前にクルマの話。昼休みにもクルマの話。仕事が終わってからもクルマの話。とにかく一日中ずっとクルマの話。彼らが乗っていたのもカローラレビンやスプリンタートレノ、チェリーX-1、マークII、発売されたばかりのセリカLBなど、ひとクセある、いわゆるマニア受けするような車ばかり。同期の一人もさっさと真っ赤なスカイラインGT-Rを買ったりして。みんなでよくツーリングに行きましたが、いつも僕だけ誰かのクルマの助手席。そりゃ「自分のクルマ」が欲しくなるのも時間の問題でした。しかし大きなハードルが。

実は運転免許を持っていませんでした。それまで興味ナシ、必要ナシだったんですから、そんなもの、持っているわけがありません。慌てて教習所に通い始め、期限ギリギリで卒業して次は本試験。試験と言っても計算問題があるわけじゃなし、論文を書くわけでもなし、ただ正解を選ぶだけでしょ? 常識で考えればあんなもの。周りを見てもだいたい一発で合格しているし、アレに落ちるヤツの気が知れん・・・落ちました。1点足りずに。ナメてました。まあそんな紆余曲折を経ながらもなんとか免許を取得し、いよいよクルマ探し。

「3万円でどうだ?」と会社の先輩に言われたのがスバルR2というクルマ。当時の軽規格で排気量はたったの360cc。スバルの360ccというと、その名もずばりのスバル360(別名:てんとう虫)が有名ですが、それに比べるとこのR2は当時からちょっとマイナー。それでも「空冷RR(リアエンジン/リアドライブ)はポルシェと一緒だぞ」という先輩の囁きにすっかり舞い上がって3万円を支払ったのですが、ところがこれが(笑)

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記念すべき人生最初のクルマ、スバルR2。

元は赤い色であったことが辛うじてわかる、あちこち凸凹だらけの色褪せたボディ。ボンネットだけ艶消しの黒で塗装されているのは当時のレース車を真似た流行でしたが、これが明らかに素人仕事でムラだらけ。みっともないのでヘラとヤスリで剥がしたら、さらに無残な赤黒のまだら模様になり、おまけに巧妙に隠蔽されていたサビまで現れる始末。これなら何もしない方がマシだった。さらにフェンダーのミラーはなぜか両方とも右側用がつけられていて、見にくいったらありゃしない。エンジンも調子がいいとは言い難く、長くて弱々しいクランキングの間に神様に祈るのが始動の手順。そのくせ走行中に突然止まるのには閉口したなあ。古いタイヤはパンクもしょっちゅう。そんな時でも慌てず騒がず、ひょいと外してコロコロ転がしながら近くのガソリンスタンドへ。「兄ちゃん、クルマ買ったんだって?」と見にきた弟に運転させたら見事に田んぼへダイブ。近所の人に手伝ってもらって引っ張り上げ(そのぐらい軽いということ)、泥だらけになったボディを洗ってあげてもあんまり変わらない・・・まぁそんなクルマでした。ポンコツ。みすぼらしい。手が掛かる。すべて運まかせ。それでも、これが夢にまで見た「自分のクルマ」。嬉しかったなあ。

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免許をとって3年後には競技ライセンスを取得したことからも、クルマへののめり込み方が分かるでしょう?