PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

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エリア510
Volume 11

ニコンF3ターヘル・アナトミア

最近ではすっかり不定期連載となっているこの「AREA510」ですが、みなさまお元気でしょうか。

2019年11月から始まった本連載、当初の予定では「510さんと一緒に遊ぶ」という大きなテーマの下、ロケ物を中心とした企画で2020年10月に全12回が終わる筈だったのですが・・・ご存知の通り2020年になった途端に世界はコロナ禍に見舞われ、まず「ロケ」という取材形態が困難になってしまいました(予定通りできたのは2020年1月のウラジオストクが最後)。当初は3、4回と考えていた510さんの寄稿を大幅に増やしていただき、途中で休載を挟みつつも、なんとか続けてこられた、というのが実情であります。

そんなわけで、ここらでいっちょう企画物をやるか!というわけで510さんに編集部までおいでいただき(もちろん感染対策はしっかりとった上で)、ちょっとした動画を撮りました。題材は「ニコンF3」です(動画はいちばん下にあります)。

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ニコンF3。1980年(昭和55年)発売の、今となっては立派なクラシックカメラですから、当時これを新品で買ったという人は、若い人でも現在60歳ぐらいでしょう。なので「PYの読者でF3を知っている人なんているのかなー?」なんてちょっと思ったりもしたのですが、ところがところが。今またフィルムカメラの魅力に嵌まってしまった若い人がたくさんいるのはもちろん知っていますが、そういう人たちの間では「あこがれのF3」みたいな感じで、中古市場での人気も高いのだとか。へええ。まぁでもそれは頷けますね。

クラシックカメラ(およびそのファン)にもいろいろありますが、まず安定的な人気を誇るのは、やっぱりライカ。ただし、ひとくちにフィルム時代のライカと言っても、バルナックがあったり、Mがあったり、はたまたRだ、みたいな枝葉がいろいろあるのですが、そういう話は長くなるので割愛。とにかくライカ。

あるいは中判も人気ですね。ローライを筆頭とする二眼レフは若い女性が首から提げているのをよく見かけますし、プラウベルマキナ(この名前を聞いてドイツ製の方を思い出した人はお大事に)とか、バケペン(ペンタックスの6x7)みたいな、シブい方に行っちゃう人もいるでしょう。カメラもさることながら、あの「ブローニー」と呼ばれるロールフィルムもなんだか魅力的。

オリンパスPEN(裏蓋がガバッと開くやつね)とかローライ35(あ、これも裏蓋ガバだ)、リコーAUTO HALF(あ、これもだ)あたりの「可愛い系」だったら、今持ってても何の違和感もありませんしね。

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そんな中で、やはり「ニコンの一眼」というのは、日本のカメラの発展と完全にイコールの存在として、今でも不動の地位を築いているわけです。とりわけF3はそれまでのなんとなく野暮ったいデザインから(私はF、F2好きですけどね)一転してスタイリッシュになり、また中身に関しても電子制御で使いやすく、それでもちゃんと「クラシックカメラっぽさ」が残っているので、今なお求める人が多いのも分かります。

で、どうして今回F3かというと、510さんのニコンでのカメラ作りのスタートが、このニコンF3だったからです。510さん曰く「今でも思い出したくない」というほど開発は熾烈を極めたようですが、つまりは510さんにとっていちばん特別なカメラだということ。と同時に、電子制御によって、それまでのカメラのあり方を根底からひっくり返してしまったという、カメラ発達史の中でも重要な存在です。もちろん、ショーウィンドウのF3を指を咥えて眺めた、当時のたくさんの写真ファンにとっても。

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そんなわけで「F3のことならぜんぶ知ってる」という510さんにF3を分解してもらいました。「F一桁台」として最初の電子制御カメラ。当然、現代のカメラから見れば、笑っちゃうほど原始的ではあるのでしょう。でも中身を見て、「電子制御の初号機で、もうこんなことやってたんだ」というのが、私の正直な感想です。極薄のフィルムに複雑な回路がプリントされ、米粒のような電子部品がびっしりと貼り付いた、いわゆる「表面実装」がこの時代にあったというのは、ちょっとした驚きでした(同時に古臭いタンタルコンデンサーが使われてたりするのが微笑ましい)。一方で上蓋や底蓋を開けた時の「メカ感」は、それまでのカメラと同じ匂いがします。要するに「フィルム」という100年以上変わらないアナログと、「電子制御」というデジタルのご先祖の、同棲生活の始まりがこれなのです。そこが興味深い。

カメラを回していた時間は4時間近くに及びましたが、編集した動画はわずか10分です。F3というカメラの構造や仕組みをすべて説明できているわけではありませんし、そもそもそんなことは不可能です。しかし、この動画を見て、1980年にこのカメラが世の中に出てきた時のインパクトを、ほんのちょっとでも想像してもらえれば幸いです。

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