PHOTO YODOBASHI

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今は若い人がクルマを買わなくなっていると聞きます。免許を取る人も少なくなっているんだとか。そのことの是非はともかく、クルマというものが「憧れ」とか「夢」の対象ではなくなっているのは事実でしょう。確かに都市部に住んでいる限り、どうしてもクルマが必要な場面などそうそう無く、必要な時だけレンタカーやカーシェアリングで事足ります。親のクルマを借りればさらに安上がり。免許なんて、仲間内に持っている人間が一人か二人いればいい。要するに「自分の」という部分へのこだわりが今は希薄なのかもしれません。まぁクルマなんて単なる移動や運搬の道具に過ぎませんから、それはとても健全だと思う一方で、やはり一抹の寂しさも覚えます。

これからクサいことを言いますよ。言い古された台詞ではありますが、「コイツに乗ればどこへでも行ける」というのは、あの頃の僕たちが感じていた真実でした。地図さえあれば、誰にも邪魔されず、行きたいところへ、行きたい時に行ける。ただそれだけのことが、とてつもなく魅力的に感じられたのです。目の前の分かりきった用事ではなく、遥か遠くにある未だ見ぬ景色。そこへ目を向けさせてくれるのが、相棒たる「自分のクルマ」だったのです。「自分の」じゃなきゃダメだったんです。

さすがに今は、だいぶ落ち着いた自動車生活を楽しんでいます。「未だ見ぬ景色」を求めて予定も決めずに出かけるなんて、むしろ今の方が遥かにやり易いのですが、実行には移していません。おとなしいもんです。たまにサーキットにクルマを持ち込んで草レースに出たりしていますが、これはれっきとしたスポーツ。ルールを守り、自分の力量を把握して楽しむ限り危険なことはありませんが、「どこへでも行ける」を感じる代わりに、「無事に家に帰る」ことだけを考えています。それでも現在の愛車ハチロクに乗り込んでエンジンを始動させる瞬間、あの頃のワクワクがほんの少し蘇るのです。これがレンタカーだったらどうでしょう? やっぱり「自分のクルマ」であるということが大きいんだと思います。

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フロンテクーペと記念撮影。小さくてキビキビ走る、まさにスポーツカーでした。

その後に乗ったのはスズキのフロンテクーペGXCF。これも軽自動車ですが、低く構えたデザインが美しい、本格的な2ストのスポーツカーです。今でもごく稀に見かけますが、あまりの美しさ、可愛らしさに見惚れます。このデザインをしたのが、かのジョルジェット・ジウジアーロ。そうです、僕が初めて関わったカメラ「ニコンF3」のデザイナーです。F3のデザインをジウジアーロ氏にお願いすると知った時は運命的なものを感じましたね。その後もニコンとジウジアーロ氏との関係は長く続き、その縁でご本人に会う機会が何度もありました。ちなみにジウジアーロ氏、自動車のデザインがいちばん有名ですが、その他にもありとあらゆる工業製品のデザインを手掛けています。中でも異色はパスタのデザインでしょう。そうです、あの茹でて食べるパスタ。しかも、まるで自動車の設計図のような「パスタの設計図」が残されています。これがマジなのかシャレなのか分かりませんが、笑えること請け合い。ネットで簡単に見つかりますので探してみてください。

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ジウジアーロの作品集に、関係者のサインを入れてもらいました。いちばん上がご本人のサイン。僕の宝物です。

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いすゞピアッツァのカタログにはご本人が登場していました。ジウジアーロは、日本はもちろん、世界中の自動車メーカーでその仕事を見ることができます。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に出てくるデロリアンも彼のデザインだって知ってました?

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そしてもちろんニコンとの仕事も。

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こちらはニコンのサングラス。この記事に出てくる、ドライブ中の写真で僕がかけているのもジウジアーロデザイン。車は買い替えても、サングラスは30年以上同じ。我ながらモノ持ちがよい。