PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

3群4枚目  「単」とは言え複雑で奥深い
やっぱり単焦点が好き

レンズ=牧羊犬?

4号

単焦点レンズはズームレンズと比べて明るさを獲得しやすいという話が前回ありましたが、とは言え、簡単なことではないですよね。

簡単にできる方法があったら教えて欲しいですよ。

原田
4号

どストレートな質問ですが、明るいレンズを作るのって、どこが難しいんでしょう?

その質問、技術的にきっちりお答えするには3日かかります。

原田
4号

そこをなんとか3分でお願いします。

分かりました。ではこちらをご覧ください。

原田

新宿光学総合研究所

4号

おっ、ヒカリくんだ。

見ての通り、羊と牧羊犬です。

原田
4号

羊じゃないですけどね。

牧羊犬の仕事は「コントロールすること」です。何をコントロールするかというと、「羊の群れ」です。

原田
4号

ええ、そうですね。

羊の数が少ない時は、牧羊犬は1頭で済みます。今度はこちらをご覧ください。

原田

新宿光学総合研究所

4号

おや、羊の数が増えましたね。羊じゃないけど。

ところが羊の数が増えると1頭ではコントロールし切れなくなるので、複数の牧羊犬が必要になります。

原田
4号

うーん、それは分かるんですけど・・・牧羊犬がレンズとどう関係しているんでしょうか?

つまりこういうことなんです。

原田

新宿光学総合研究所

4号

ははあ、なるほどそういうことか。

「牧羊犬の数」ももちろん重要ですが、ここでいちばん大事なのは、「それぞれの牧羊犬が互いに協力し合って、連携している」という点なんです。

原田
4号

その結果、全体として見れば「ひとつのコントロール」になっているということですね。牧羊犬が何頭いようと。

レンズの径が大きくなると光の量はその二乗で増え、発生する収差もどんどん増えていきます。爆発的に増えた光と収差を適切にコントロールするために、牧羊犬たるレンズをどのぐらい、どのように配置すればいいのかを考える必要があります。もちろん、あまり大きく出来ないのでたくさん使うわけにはいきません。特に単焦点レンズの場合には。われわれ設計者が日夜戦っているのはそこなんです。

原田
4号

これから明るいレンズを使う時には、感謝の気持ちを込めてそこに羊と牧羊犬の姿を想像するようにします。

羊じゃなくてヒカリくんですけどね。

原田
4号

えっ?

新しい価値の創造

馬橋所長

前回、単焦点レンズは「より明るく」「明るさの割により小さく」の方向に進むという話がありましたよね。

しましたね。

原田
馬橋所長

でも今回のお話を聞いて、写りに「個性」を持たせやすいのも単焦点レンズの強みであることがよく分かりました。

単焦点レンズの方が、その余地はあります。でもレンズは今なお進化の途中。どうしても数値で表すことができる、分かりやすい価値が注目されます。もちろんわれわれもそこを頑張っています。でも今の数値的な価値は、それとはまったく違う「レンズの新しい価値」に、いずれ取って代わると思うんですよ。そうなったら、写真用レンズの世界はもっと面白くなるでしょうね。

原田
馬橋所長

原田さんが遠い目をし始めました。

たとえば演劇の世界。どんな役もソツなくこなせる器用な役者さんがいる一方で、演技はアクが強くて、できる役も限られているけど、何とも言えぬ味わいを醸す個性派の役者さんがいるじゃないですか。

原田
馬橋所長

その役者さんがいるだけでストーリーに深みが出る、みたいなね。

私がつねづね言っている、「ひとつだけ150点のところがあれば、あとはぜんぶ40点でもいい」というのはそういうことなんです。そういうレンズがあってもいい。というか必要。特にこれからは。

原田
馬橋所長

どんなものなんでしょうねえ、「レンズの新しい価値」って。

「レンズの個性をより際立たせるもの」であることは確かですが、まだよく分かりません。もしかしたらこれまでの進化に逆行するものかもしれないし、ぜんぜん違うところから来るかもしれない。ただ、それが写真の世界をさらに広げてくれることになるのは間違いないでしょうね。そして「レンズの新しい価値創造」にいちばん近いところにいるのは、われわれ設計者だと思っています。その新しい価値を、撮影される方に手渡すのがわれわれの役目です。

原田
馬橋所長

ええ話やないの。

あっ、町田さんゴメン! 今回は私がぜんぶ喋っちゃった!

原田

(何も言わずサムズアップ)

町田