PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

3群4枚目  「単」とは言え複雑で奥深い
やっぱり単焦点が好き

単焦点レンズの設計だってむずかしい

馬橋所長

前回、ズームレンズを設計するむずかしさをひとことで言うと「登場人物が多いこと」と言われていたけど、じゃあ単焦点レンズはどう? ひとことで言えばどこがむずかしいのかしら?

答えは簡単です。それは「登場人物が少ないこと」です。

原田
馬橋所長

ん? どういうこと? 矛盾しているように聞こえるけど。

単焦点レンズでは大きさなどの兼ね合いでズームレンズほどレンズ枚数を使えませんが、レンズが少なければ少ないで、これまたむずかしいんですよ。

原田
馬橋所長

雑だなあ。もう少し詳しい説明をお願い。

たとえば、仕事であるプロジェクトが生まれたとします。それを20人で進めるのと、5人で進めるのとでは、ゴールは同じだとしても仕事の進め方はまったく違ってきますよね。さあ、どっちが簡単だと思いますか?

原田
1号

人数が多ければ、細かく役割分担をして、着実に仕事を進められるよね。

2号

その代わり、まとめ上げるのが大変。意思疎通もしづらくなるし。

3号

まさにそれがズームレンズ設計のむずかしさだったでござるな。

4号

一方、人数が少ないと意思疎通はしやすいけど、一人一人の守備範囲を広くして仕事を進めなきゃいけない。つまり1枚のレンズに求められることが多くなる。

1号

それもまた大変だよなあ。

要するにどっちも、それぞれむずかしさがあるんですよ。

原田
馬橋所長

相変わらず雑だけど、なんとなく分かった。

2号

結局、ずーっと大変なお仕事ってことですね! レンズの設計って。

そんな、身も蓋も無い言い方を・・・その通りですが・・・それに加えてレンズの「キャラ」も、単焦点レンズでは大事な要素になってきます。

原田
1号

「キャラ」というと?

ズームレンズの性能がこれだけ良くなっても、依然として単焦点レンズが好まれ、使われ続けている・・・そのいちばんの理由は、「いろんなキャラを味わえること」だと思うんです。

原田
3号

逆に言うと、ズームレンズにはキャラはない、ということでござるか。

いやいや。どんなレンズにもそれぞれのキャラがあって然るべきですし、われわれもそういう考えのもとにすべてのレンズを設計しています。ただ、ズームレンズは使われ方がオールマイティですよね。

原田
4号

それ1本でいろんなものを撮るためのレンズですからね。

そういう使われ方をするレンズだと、強いキャラは却って邪魔になります。

原田
2号

その点、単焦点レンズは・・・

キャラを立たせちゃってOK。それがあえて単焦点レンズを選ぶ最大の理由でしょう。「小さい」「小さい割に明るい」のが単焦点レンズの長所。それだけでも単焦点レンズを選ぶじゅうぶんな理由になりますけど、「キャラ」はさらにその向こうにある、個々のレンズが持つ個性のこと。

原田
4号

つまり、単焦点レンズはズームレンズに比べて、より「趣味性が高い」という言い方ができるのかな?

そうですね。もちろんキャラにもいろいろあるわけですが、その中からじぶん好みの1本を探し出して長く愛用する。そのレンズでしか得られない写りを愛でる。そんな出会いができたら写真を撮る者として最高じゃないですか。レンズを次から次へと買ってしまうのだって、結局その「出会い」を求めているわけです。

原田
馬橋所長

なんだか、ずいぶん美しい言い方をしたなー。

3号

設計する時には、どんなキャラを目指すのでござるか。

それはレンズによっていろいろです。せっかく世に出すなら「愛されキャラ」で、みんなに愛されて幸せになって欲しいのが親心ですが、でもそれだけじゃつまらない。使っているうちにだんだん良さが分かるキャラもあるし、殆どの人には理解されないけど、一部の人からは大絶賛されるキャラだって必要。

原田
2号

面白い。人間と一緒ね。

馬橋所長

原田さんが個人的に好きなレンズは、最後のやつでしょ?

え? なんで分かったんですか?

原田
馬橋所長

この期に及んでその逆質問がすごい。

まぁ、あくまでも商品ですから、実際にはあまりアバンギャルドなレンズは作りづらいですけどね。でも本当は写りの選択肢を思いっきり広げて、「こんな不思議な写りをするレンズもあるのか!」と驚いたり、あるいはこちら側から「もしかしてこんな変わり種レンズお好きじゃないですか?」って提案できるのが理想ですよね。

原田
馬橋所長

つまり、まとめると?

えーと、何でしたっけ? あ、そうそう。つまり、少ない人数で仕事を進めつつ、最終的には狙い通りのキャラを発揮させないといけないのが単焦点レンズの設計のむずかしさということです!

原田