PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

3群3枚目  そもそもは航空用語だったらしいです
ズーム再考(最高)

そもそも「いい写り」とはいったい何か? という問題がありますが、これはメーカーによって考え方が違うし、もっと言えば設計者によっても違う。もちろん撮影者によってもぜんぜん違う。その話をし始めると3年ぐらいかかるので、ここでは単純に「収差がどれだけ適切に取り除かれているか」という面から話をします。

原田

まず、取り巻く状況だけを簡単に言うと、ズームレンズの技術革新には目覚ましいものがあって、むしろ単焦点レンズがそれを追いかけている、とも言えるような構図になっているんですよ、今や。

町田
1号2号3号4号

え! そうなんですか?

早合点しちゃだめですよ。逆転して今ではズームレンズの方がよく写ると言っているんじゃなくて、あくまでもそこに注ぎ込まれる技術力と、進化スピードの話。でもその結果として、収差のあり/なしで言えば、もはや遜色ないと言い切れるレベルにあります。

町田
2号

へええ、そうだったんだ。

でも考えてみれば、それは当然のことなんですよ。

原田
4号

当然?

長いレンズの歴史の中で見れば、ズームレンズが市場に投入されたのなんて「わりと最近」のこと。偉大なる先人たちの試行錯誤によって設計の手法がある程度確立している単焦点レンズに対し、生まれたばかりのズームレンズにはあらゆる可能性があった。まさにブルーオーシャン。

原田

それに加えて、前回説明したシミュレータのような新しい技術も同時に発達していったので、近年はその技術革新がさらに加速したわけです。

町田
1号

なるほどねえ。じゃあ、さっき言っていた「単焦点レンズが追いかけている」って、どういう意味?

それが2号さんが言っていた「存在意義」のことなんです。

原田
2号

そこ、ぜひ聞きたい。

かつて、焦点距離を自由に変えられるズームレンズは「夢のレンズ」でしたが、従来の光学設計では実用化というところまではなかなか至らなかった。しかし、新しい理論や計算機の進歩、動きを実現するメカの進歩など多くの技術開発とともに急速に発展した結果、今に至っているわけです。ズームレンズは、まさに人類の英知の結集なんです!

原田
3号

人類の英知・・・

ただそんなズームレンズでも、単焦点レンズに対して苦しいのが「明るさとサイズのバランス」なんです。

原田
2号

ええ、そうですよね。

もちろん作ろうと思えば作れますよ? F1.2通しの24-70mmとか。でも、もはや手で持てる大きさじゃなくなる。明るいレンズが大きくなる話はF値の2回目でしましたが、さらにそれがズームレンズとなると、単焦点レンズの比ではないんです。

町田
4号

実用的な大きさに抑えることを考えると、「明るさ」という点で、依然として単焦点レンズに優位性があるんですね。

そういうこと。だから「もっと明るく」あるいは、「明るさの割に小さく」が単焦点レンズの進むべき方向として、ますます重要になってくるわけです。

原田
3号

単焦点とズーム、それぞれの得意なところを突き詰めて差別化を図る、ということでござるな。

馬橋所長

明るいってことはつまり、ボケ味に直結する話でもあるわよね。

そこです。大きなボケを期待するなら、やはり単焦点レンズに分があるわけです。とは言え、いたずらに明るさだけを追求するんじゃなくて、それによってどれだけ美しい写真が撮れるか。使う人に「ああ、これいいレンズだなあ」と思ってもらえるか。つまり「レンズとしての完成度」が伴っていないと意味がありません。それは商品として世に出る以上、レンズの種類や価格にかかわらずですけどね。

町田

その通り!

原田

実用的な大きさと明るさを両立しつつ、理想の写りを追求しようとすると格段に難易度が上がります。NIKKOR Z 50mm f/1.2 Sを見ていただければその苦労が分かる思います。原田さんにNIKKOR Z 50mm f/1.2 Sを語らせるといくら時間があっても足りないので、細かい話は次回にでもしましょう。

町田

時間の心配までしていただきありがとうございます(笑)。それにしても、レンズなんて結局は使う人の好みなんだけど、それは時と場合によって変わるものでもあるので、「ズーム派」「単焦点派」みたいに分けて括る必要はないと思うんですよね。それぞれが持つ欠点を、それぞれの利点で補いながら、道具として使い分ければいいだけの話なので。

原田

実際、多くの人はそうやって使ってくれていると思いますし。

町田
4号

ズームレンズってさ、「単焦点レンズを何本も持ち歩く手間が、これ1本で済む」みたいな価値の換算をついしがちじゃない? でも、本当はそういうことじゃないと思うんだよね。

2号

というと?

4号

例えば、24mm、28mm、35mm、50mm、70mmという5本の単焦点レンズを持っているとして、それと24-70mmズームレンズ1本が同じ価値であるかというと、それは違うじゃない。

馬橋所長

「その間」の話ね。

4号

所長、冴えてますね〜。そう、結局ズームレンズの最大の価値って、焦点距離が「無段階に」変えられることだと思うんだよね。荷物が減るとか、そういうことよりも。

2号

あー、それ分かる! 写真を撮っていて、ほんの少しだけ焦点距離を調節することって、よくあるもん。それこそわずか1mmか2mmの違いでしかないと思うんだけど、それで構図が完成することが本当にしょっちゅうある。

1号

ズームレンズだからこそできる芸当だよね。「1mmの違い」を実際に感じ取って、ちゃんと使い分けられる。

3号

つまり24mmから70mmまで、1mm刻みの単焦点レンズを47本持って、やっと同じということでござるな。

4号

それでも足りないけどね。何しろこっちは「無段階」なんだから。

馬橋所長

要するに、「較べられない」ってことね。

そういうことです。「フォークとスプーン、どっちが使い勝手がいいか?」みたいな話なんです。あとズームレンズの楽しみ方としては、「焦点距離によって写りの味わいが変わる」というのもある。

原田
1号

ああ、確かにそれありますね。私、実は「AF NIKKOR 28-85mm F3.5-4.5」という古いズームレンズを今でも時々使うんですけど、それはコレの50mmあたりの写りがすごく好きだからなんですよ。ふわっとして。それでいて立体感があって。あれは素晴らしい。

2号

で、その前後の焦点距離ではどうなの? 写りの味わいはどう変わるの?

1号

うーん、他は使わないからよく分からない。

2号

だめじゃん。

まぁとにかく、そういう使い方ができるのもズームレンズのいいところ。ズーミングで画角を変えるだけじゃなくて、描写を変えて選ぶ楽しみ。実は私、各社の古いズームレンズをたくさん集めていてですね、そういう描写によって単焦点レンズ的に使い分けるオールドズームレンズ道を追求していてですね、(以下2万字割愛)

原田
3号

おんや? ズームレンズって、どの焦点距離でも同じく写るように設計するのではないのでござるか?

いや、そんなことはないですよ。もちろんそれを目指すこともありますが、焦点距離が変わるってことは被写体が変わるってこと。特に標準ズームや高倍率ズームでは、ありとあらゆるものが被写体になります。

町田
2号

そういう使い方をしてもらうためのレンズですものね。

なので「このあたりの焦点距離だったら、こういうシーンで撮ることが多いだろう」という想定のもとに写りの特性や雰囲気を調整するのは、むしろ当然のことです。

町田

とは言え、ズームレンズって単焦点レンズとは比較にならないぐらい複雑な機構が中に入っているので、どの焦点距離でも狙い通りの写りにすることはすごく難しいのも事実です。

原田
馬橋所長

ズームレンズの設計って、やっぱり単焦点レンズよりも難しいのかしら?