PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

2群6枚目  あなたは「でっこまひっこま」を知っているか
謎の写真用語・説をめぐるアレコレ

「でっこまひっこま」

おっ、最後にすごいのがきましたね。これは誰の言葉か、知ってます?

原田
3号

えーと、昭和を代表する有名な写真家の、木村・・・木村・・・

2号

木村庄之助!

3号

それは相撲の行司でござるよ。

2号

じゃあ、式守伊之助?

3号

それも行司。なぜそっちへ寄せるでござるか。

正解は、木村伊兵衛さんです。

原田
3号

ああー、そうでござった!

2号

惜しい。で、どういう意味なんですか?

はい、「でっこまひっこま」の意味を知ってる人?

原田
1号

知ってます。

4号

知ってますよ、もちろん。

聞いたことない。

馬橋所長

私も知らないです。

町田

やっぱり若い人たちは知らないのかあ・・・

原田

やだもう、そんな、若い人だなんて・・・

馬橋所長

まあ昭和30年代とかの話ですからね、わたしも後から文献で知っただけですが。で、「でっこまひっこま」というのは、像面湾曲のことを言っているんですよ。

原田
2号

像面湾曲? 確か収差の回で出てきましたね。本来は平面であるべきピント面がお椀のように湾曲している状態のことで、結果的に、平面物体を撮影すると中心にピントを合わせても周辺がボケるという・・・

でもこれは像面湾曲を悪く言ったのではなく、むしろ好意的に言ったのですね、木村伊兵衛さんは。

原田
3号

収差なのに好意的とはこれ如何に?

実は像面湾曲と非点収差には密接な関係があって、レンズタイプが固まった上で非点収差を補正すると像面湾曲が発生しがちになります。この非点収差を補正したレンズは、立体物を撮る場合には向いています。立体物を撮るのにピント面が平らである必要はあまりないですし、像面湾曲があっても非点収差が少ないほうが、被写体が飛び出てくるような、迫力ある写りをすることがある。

原田

なるほど。だから「でっこまひっこま」ね。それにしても、これも昭和の香りがぷんぷんする響きではあるわね。

馬橋所長

どんなレンズにも多少なりとも像面湾曲はあって、写すのはたいてい立体物なんだから、平面特性の数値だけでレンズの善し悪しは分からないよ、というスペック偏重のレンズ評価に対する戒めの言葉でもあります。これは現代にも通じる、重い言葉ですね。

原田
4号

重い言葉・・・なのに「でっこまひっこま」

実は現代のレンズ設計でも、この像面湾曲を微妙に残しても非点収差の補正を優先することがあります。設計手法が発達して、収差の全体量が減ったこと、また出し引きを細かくコントロールできるようになったので。

原田
3号

前に「レンズ設計では収差をどう残すかも大事」と言われていたでござるが、まさにそういうことなんでござるな。

いや、違うわね。

馬橋所長
原田町田1号
2号3号4号

違うって・・・何が?

でっこまひっこまというのはね・・・

馬橋所長
原田町田1号
2号3号4号

というのは?

それぞれが好き勝手なことをやって、まったく足並みが揃っていない、どこかの研究所の研究員みたいなことを言うんですよ。

馬橋所長
原田町田1号
2号3号4号

ギャフン!

2号

昭和の正しいエンディング。