PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
- 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
- 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
- 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。
2群2枚目 とっても収まらない話
だから「収差」というのです。
コマ収差(こま・しゅうさ)
さっき、所長が「ハレー彗星みたいな」と言っていましたが、コマ収差の「コマ」は「コメット(彗星)」から来ているので、まさにその通りなんです。本来は丸い点として写らなくてはいけないものが、尾を引いたような形に広がってしまうものです。 |
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ちょっと所長、ここから先はぜんぶ同じ場所で撮ってますよね? それなのにちゃんと収差を撮り分けている・・・もしかして天才ですか? |
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うーん、何をしてこうなったのかまったく覚えてないけど、「私って天才!」とはよく思う。 |
ここから先の写真は、すべて周辺部分を拡大したものを見てみます。 |
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- <発生理由ざっくり>
球面を持つレンズに、斜め下から光線を当てた時、光線の上半分と下半分ではレンズ面と光線が接する角度(入射角)が非対称となり、ピント面に到達する光線も非対称となることによって起こる。 - <人に例えると>
ヒトの内臓は左右非対称
非点収差(ひてん・しゅうさ)
このへんからだんだん分かりづらいものになります。非点収差というのは、現象としては点が線になって(非点)写るというもので、多くは二つの線が十字に重なって見えます。 |
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- <発生理由ざっくり>
光軸を含んだ平面の光線と光軸を含まない平面の光線がレンズの異なる断面を通過し、2つの光線の集光するところが異なることによって起こる。 - <人に例えると>
夢と希望に目を輝かせている(昭和の少女漫画)
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発生理由をイメージするのが非常に難しいでござるな…。 |
3次元で考えないといけないので、説明が難しいんです。 |
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像面湾曲(ぞうめん・わんきょく)
像面湾曲は読んで字の如く、本来は平面であるべきピント面が湾曲している状態。ピントの合う位置がお皿のようになっていることを想像していただけるとよろしいかと思います。結果的に、平面物体を撮影すると中心にピントを合わせても周辺がボケるというものです。よーく見ないと分かりませんが、画面の中心と周辺部で、ピントの合い方が違っているのが確認できると思います。 |
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- <発生理由ざっくり>
画面周辺に向かう光がレンズに対して角度を持って入射するため、画面中心に向かう光のピント面と画面周辺に向かう光のピント面がずれることによって起こる。 - <人に例えると>
金属製のボウルを覗き込むと、ヘンな顔の自分がいる
球面収差(きゅうめん・しゅうさ)
そして最後は、収差の王様、収差中の収差、球面収差です。全体的にフレアがかかったようになり(=うっすらと霞がかかったような感じ)、かつピントがハッキリしないというもの。 |
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- <発生理由ざっくり>
レンズの中心を透過する光線はまっすぐ進むが、中心からずれたところを透過する光線はふちに近づくほど大きく曲げられ、一点に集まらないことによって起こる。 - <人に例えると>
約束に5分遅れ、しかも待ち合わせ場所を微妙に間違えている
最後に参考までに・・・これが収差がほとんどない状態の写真です。 |
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とまぁ、そういうことなんですが、分かりましたか? |
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うーん、分かるような、分からないような。 |
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でも、人に例えるのが面白かったわ。 |
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えー? そうですかぁ? あんまり的を射ていなかったような。 |
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面白いことを言いたかっただけではござらぬか? |
残念です。 |
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で、前回(第2回)の最後で「どうしてこんなにたくさんのレンズが入っているのか?」という質問をしたけど、その答えは何なのかしら? |
要するに、今まで説明したような収差を取り除こうとして、あーでもない、こーでもない、ってやっているとあのレンズの枚数が必要になるってことですよ。でも収差って確かに悪者ではあるんですけど、必要なものでもあるんです。 |
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というと? |
「写りの味」ってありますよね? 単純な性能のことではなく、その向こうにある「写りの好き嫌い」の部分。それこそが現代の写真レンズにおけるもっとも重要な点でもあるんですが。 |
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それと収差がどう関係しているのですか? |
「写りの味」の正体が、実は収差なんです。だから「収差をどう取り除くか」と同時に「収差をどう残すか」を考えて、レンズの設計はされているわけです。少なくとも現代のレンズ設計では。なので、収差そのものは人に例えると善玉コレステロールですかね。 |
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やっとしっくり来るのが出た。 |
編集部注:
ストーリーの中では、すべての収差作例を「ヨンサンハチロク」で撮ったことになっていますが、実際にはヨンサンハチロクを含む、何種類かのレンズを使い分けて撮影しています。
- 1群1枚目 設立趣意書
- 2群1枚目 凸に始まり、凸に終わるのであります。- レンズとは、なんじゃらほい
- 2群2枚目 だから「収差」というのです。- とっても収まらない話
- コラム:原田研究員からのメール - 「例のレンズタイプの件」
- 2群3枚目 焦点距離のナゾ- それはいったいどこからどこまでじゃ
- 2群4枚目 エフチの「チ」 - あの数字の並びはいったいどこから来たのか
- 2群5枚目 ガラス作りとコーティング - レンズの要を忘れるべからず
- 2群6枚目 謎の写真用語・説をめぐるアレコレ - あなたは「でっこまひっこま」を知っているか
- 2群7枚目 続・エフチの「チ」 - レンズの開放F値ってどうやって決まるの?
- 3群1枚目 レンズ設計ことはじめ - 設計者の描く理想とは
- 3群2枚目 シミュレータと設計者 - 完成レンズを見通す、見極める
- 3群3枚目 ズーム再考(最高) - そもそもは航空用語だったらしいです
- 3群4枚目 やっぱり単焦点が好き - 「単」とは言え複雑で奥深い
- 3群5枚目 続・やっぱり単焦点が好き - レンズに込められた設計者の想い