PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

2群5枚目  レンズの要を忘れるべからず
ガラス作りとコーティング

馬橋所長

はーい、こちらでーす。

PHOTO YODOBASHI

このグラフは、屈折率(縦軸)とアッベ数(横軸)に対応する各光学ガラスの種類をドットで示した「アッベ図」というものです。アッベ数とは、光の波長(紫外線~赤外線)による光の分散度合いを評価する指標で、左に行くと分散は小さくなります。

町田
1号

ふむふむ。

以前に解説した収差との関係でこの座標軸を見ると、上に行く(屈折率が高い)ほど色収差以外の収差に影響があります。例えば球面収差やコマ収差、像面湾曲などの発生を抑えられ、左に行く(アッベ数が大きい)ほど色収差の発生を抑えることができるのです。〈収差の解説はコチラ

町田

ちなみにドットをよーく見ると、まるで日本列島のように分布していますが、ちょうど北海道あたりの丸囲みが「高屈折率ガラス」に分類されます。

原田
2号

北は高屈折率(笑)

次に南の方を見てもらうと、沖縄本島と宮古島あたりまでが「EDガラス」、そして石垣島が「蛍石」という感じでしょうか。

町田

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4号

確かに!島同士の距離感もピッタリ!!

蛍「ガラス」ではなく、「石」とはいかに?

3号

蛍石は結晶なので名称が「石」となっていますが、不純物を極限まで減らした人工蛍石が生産されています。

町田
1号

北と南のドットは黄色しかないですね。

いいところに気付きましたね。青が1969年当時の光学ガラス、黄色は2022年のものを表しており、50年ほどの間に高屈折率ガラスやEDガラスといった特殊ガラスが登場したことがこれで分かります。ニコンでは、新しく開発したSRガラスも小笠原諸島あたりに登場していますね。

原田
2号

ガラスって遥か昔からあるものだけど、こんなに進化しているとは。

馬橋所長

新製品が開発されるように、こんなに多くの種類のガラスもまた開発されてきたのですね。

まだまだこれから先も、様々な用途やニーズに応えるべく研究・開発は現在進行形です。もっと北へ、もっと西へと。。。

原田
4号

アッべ図にあった、北に行くほど収差の発生を抑えられ、西に行くほど色収差の発生を抑えられるというやつですね。もっと北、例えば宗谷岬あたりとか、西だったら与那国島あたりとか、そういうガラスがあればごく少ないレンズの枚数で済むのですか?

極端な話、日本列島から地球の裏側目指して屈折率とアッベ数を広げていくことで補正の効果は上がりますが、単独の特殊ガラスの性能だけで収差を解消するまでには至らないのです。

原田
1号

お~、目指す方向はわかっているのに、永遠に解決できない。

だからこそ、ガラスの進歩に助けられつつも凸レンズと凹レンズを組み合わせて収差補正することが不可欠なのです。ま、収差がゼロになっても面白いことなんて一つも無いですけどね(笑)。

原田

まあまあまあ。ところで皆さん「ED非球面ガラス」って知っていますか?

町田
4号

さっきの沖縄の「EDガラス」を非球面レンズにしたものですよね。

2号

「非球面レンズ」という名前はよく聞くけど、具体的にはどんなレンズのこと?

そうでした。凸レンズと凹レンズについては以前説明しましたが、非球面レンズについてはまだでしたね。ではここで簡単に説明しましょう。

原田

片面あるいは両面が球面ではない曲面を持つレンズのことを非球面レンズと言います。断面図を見た方が早いでしょう。

町田

PHOTO YODOBASHI

あえて「球面にしない」ことで何か利点があるのでござるか?

3号

下図のようにレンズの中心から縁まで一定の曲率を持つ球面レンズの場合、レンズの中心を透過する光線は直進しますが、縁に近づくほど光線は大きく曲げられるので、一点に集まらずに「球面収差」が発生します。

町田

PHOTO YODOBASHI

一方、光線を一点に集めるために、レンズの縁に向かって異なる曲率を持たせたのが「非球面レンズ」です。

町田

PHOTO YODOBASHI

4号

一本のレンズでは何枚もの球面レンズを組み合わせて収差補正をしているけど、その必要がないと?

非球面一枚で収差すべてが解決するわけではありませんが、球面レンズ数枚分の効果が一枚の非球面レンズで得られるので、レンズの小型化や軽量化に貢献するのです。

町田
1号

これまたいいことずくめのレンズですね。

ムムムッ、非球面レンズを拙者が自作するのは難しそうでござるな。

3号
2号

ちょっと、またそんなこと考えてるの? 聞こえてるわよ。

まずは高精度な金型が必要になりますね。金型で直接ガラス素材を非球面形状に形成する「ガラスモールド非球面レンズ」や、ガラスレンズの上に樹脂を非球面形状に形成させた「複合型非球面レンズ」があります。また、金型を用いず研削で非球面形状を作る「研削非球面レンズ」もあります。

町田
1号

やはり、作るのは難しそうですね。

「ED非球面レンズ」に話を戻しますと、色収差の補正効果が高い(アッベ数が大きい)EDガラスを非球面とすることで、球面収差や歪曲収差など各収差も補正することが可能となります。

町田

EDガラスと非球面のいいとこ取りでござるな。

3号
2号

合わせ技!

使用する特殊ガラスをどんなレンズにするかというアプローチがあるということも覚えておいてください。

町田
馬橋所長

ガラスから色々と話が広がりますね。

4号

今回は盛りだくさん。

2号

得した気分ですね。