PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

  • 本稿は、写真用レンズについてより深い理解が得られるよう、その原理や構造を出来る限り易しい言葉で解説することを目的としています。
  • 本稿の内容は、株式会社ニコン、および株式会社ニコンイメージングジャパンによる取材協力・監修のもと、すべてフォトヨドバシ編集部が考案したフィクションです。実在の人物が実名で登場しますが、ここでの言動は創作であり、実際の本人と酷似する点があったとしても、偶然の一致に過ぎません。
  • 「新宿光学綜合研究所」は、実在しない架空の団体です。

2群3枚目  それはいったいどこからどこまでじゃ
焦点距離のナゾ

今日は「焦点距離」について考えてみましょう。「焦点距離」と「開放F値」、この二つはレンズに必ず書いてあるのでみなさんにも馴染みが深いと思います。早速質問ですが、焦点距離について知っているのはどんなことですか?

町田
2号

焦点距離の数字が大きければ望遠、小さければ広角、とか?

そうですね。さらにその間には「標準」と呼ばれる領域があったり、標準と望遠の間あたりを「中望遠」と呼んだり、数字の大きさによる分類があるのもご存知だと思います。焦点距離の単位はミリメートル。古いレンズではセンチメートルで表記されていたり、米国のレンズにはインチ表記のものがあったりしますが、今はミリメートルで統一されています。

町田
1号

素朴な疑問ですが、何ミリ以下が超広角とか、何ミリから何ミリまでは中望遠とか、分類の仕方に決まりはあるのですか?

決まりはありません。そもそも焦点距離の数字からだけでは望遠や広角といった判断はできませんからね。例えば同じ90mmのレンズでも、センサーサイズがAPS-Cのカメラだったら35mm版換算で135mmぐらいのれっきとした望遠レンズですが、昔の大判4×5につければ24mmあたりの広角レンズです。なのでセンサーサイズごとに慣習的な呼び分け方があるだけで、厳密なルールはないです。

町田
1号

いずれにせよ焦点距離って、そのレンズが写せる広さ、つまり「画角」を表している・・・でいいんですよね?

おっ、早くも核心を突いた発言が出ました。みなさん、今の表現は正しいと思いますか?

町田
3号

拙者もそういう認識でおったでござるが・・・違うでござるか?

「画角」と「焦点距離」の考え方はちょっと違います。焦点距離が何を表しているかというと、ひとことで言えば「非常に遠くの被写体に対して、そのレンズが作る像の大きさ」なんです。これはとても大事なことで、あとでもう一度出てきますので覚えておいてください。

町田

焦点距離とは=非常に遠くの被写体に対して、そのレンズが作る像の大きさを表す数値

つまり、「焦点距離の数字が大きいほど大きな像を作り、焦点距離の数字が小さいほど小さな像を作る」ということなんです。

町田
2号

なるほど。画角ではなく、像の大きさのことなんですね、焦点距離って。

ではここからが本題です。「焦点距離」というからには、それは「ある部分からある部分までの長さ」を指しています。それは具体的にどこからどこまででしょうか?

町田
4号

レンズに入った光が焦点を結ぶまでの距離のことでしょう? だから「1枚目のレンズからセンサー面までの距離」だと思うけど・・・違うの?

拙者もそう思って、定規を当てて測ったみたんでござるよ。そうしたら、そこに国家的陰謀が・・・

3号
2号

まだ言ってる。4号の答えが正しいとすると、さっき3号が測っていたレンズのように、書いてある焦点距離よりレンズ自体の長さ+バックフォーカスの方が短いレンズの説明がつかなくなりますよね。

1号

反対に、焦点距離よりレンズ自体の長さの方がぜんぜん長いレンズもある。

4号

あー、確かに広角レンズにあるね、そういうの。

2号

コレって、いったいどういうことなんですか?

実は焦点距離って、カメラの中のある部分の実測値ではなくて、もっと概念的なものなんですよ。

町田
馬橋所長

ガイネンテキ、ガイネンテキ。

理解できないのは承知の上で、まず正解を言っちゃいますね。焦点距離というのは「主点と焦点の間の距離」のことです。

町田

焦点距離はどこの距離?=主点と焦点の間の距離

1号

「焦点」は分かりますが、「主点」というのが分かりません。

ですよね。焦点とはセンサー面のこと。これは大丈夫ですね? では「主点」とは何か。今からそれを説明しますから耳の穴をかっぽじってよーくお聞きください。

町田
馬橋所長

「かっぽじる」って、久々に聞いたわ。

かっ―ぽじ・る 【掻っ穿る】

つついて穴をあける。また、穴の中をつついて、つまっているものを取り出す。
「耳の穴を―・ってよく聞け」

レンズの中にごく薄い凸レンズが1枚だけ入っていて、焦点に像を結んでいるとします。この時、焦点距離というのは「凸レンズの厚みの中心からセンサー面まで」を指します。つまり、凸レンズの位置が「主点」というわけです。さっき4号さんが言った答えは、この場合に限れば正解です。

町田

レンズが1枚の場合の焦点距離

レンズが1枚の場合の焦点距離

4号

というか、それ以外に思いつかないですよ。多くの人がイメージしている焦点距離って、コレじゃないかなあ。

しかしこの例は「ごく薄い凸レンズが1枚だけ」の場合だけに通用する話なんです。言い換えると、光の屈折が1回だけの時(厳密に言えば2回ですが)。でも今時そんなレンズはありません。では、何枚ものガラス玉が組み合わさって、光が複雑に屈折している現代のレンズではどこが主点になるのか。先ほど「概念的」と言ったのはここからの話です。

町田
2号

「概念」なんて言われると、途端に難しく感じちゃう。

焦点距離の一方の端は、センサー面。そしてもう一方の端、つまり主点がレンズの光軸上のどこかにあるはずなんです。さて、それはいったいどこか?

町田
1号

うーん・・・

はい、ここでさっきの「焦点距離とは」を思い出してみましょう。

町田

焦点距離とは=非常に遠くの被写体に対して、そのレンズが作る像の大きさを表す数値

それと、先ほどの凸レンズ1枚だけの場合の焦点距離の例を考え合わせると・・・何か見えてきませんか?

町田
3号

うーむ、さっぱり分からぬ。何かヒントはござらぬか。

ではヒントです。「あたかもそこに1枚の凸レンズがあるかのような・・・」

町田
馬橋所長

あ、わたし分かっちゃったかも!

1号2号3号4号

おおーっ。

馬橋所長

ちょっと、なんでみんな半笑いなん?

4号

いやいや、いちおう聞きますよ(笑)

馬橋所長

ポイントはレンズ構成が違っても「像の大きさが同じ」ということなのよ。だから、そのレンズが焦点に作っている像と同じ大きさの像ができるように、1枚の凸レンズを置くとしたら、それはどこなのか。そこが主点なんじゃない?

4号

ほう、いかにもそれらしい答えですが・・・もちろん違いますよね? 町田さん。