PHOTO YODOBASHI

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あるエピソード

実は、鍋屋横丁商店街を歩いている時に、ちょっとした出来事がありました。それをこうして後回しにしたのは、ちょっといい話だからです。このエピソードを紹介して、今回の締めくくりにしたいと思います。

510: この本屋さんだけど。

PY: ああ、この本屋さんなら知ってます。私もしょっちゅう漫画を立ち読みしに来てました。この本屋さんがどうかしましたか?

510: ちょっと寄っていい?

PY: ?・・・はい、どうぞ。

マンションの1階部分に新しく作り直され、明るく、きれいになっているものの、昔と変わらずこじんまりとした本屋さん。レジにいる年配の男性が、おそらく店主さんでしょう。

店主: いらっしゃいませー。

510: あの・・・つかぬことをお伺いしますが。

店主: はい、何でしょう?

510: こちらのお宅に、昭和25年生まれの女性がいらっしゃいませんか?あるいは、早生まれの昭和26年かもしれませんが。

店主: (しばらく510さんの顔を見つめて)どうしてそんなことをお尋ねに?

明らかに訝る店主。そりゃそうです。

510: 実はわたくし、こういう者でして(名刺を差し出す)、かつて中野二中に通っていた時、同級生にこちらの娘さんがおられたのです。ときどき手伝いでお店の番もされていました。

店主: その女性の名前は何といいましたか?(まだ警戒感強し)

510: それが、昔のことですっかり忘れてしまったのです。私は途中で転校してしまったので、卒業生名簿で確認することもできなくて。

店主: うーん、そうですか。

510: あ、ここに写真があります。この、一番右端に写っている女性なのですが。

店主: ちょっと小さ過ぎてよくわからないですね。

510: そうですよね。もっと大きな写真があればよかったのですが。私が転校した後、どうしてもこの女性が写っている写真が欲しくて、二中の友人にお願いしてやっと送ってもらえたのが、これだけだったのです。

店主: つまり・・・この女性のことを気にかけていたと?

510: はい、そういうことです。今回、仕事で数十年ぶりにこのあたりへ来ることになり、是非ともこちらにお邪魔して確かめようと決めていました。今でもお元気にされていますかと。

この言葉に、店主の警戒感が一気に解けます。

店主: (笑いながら)生まれた年から考えて、それは私の姉です。

510: そうでしたか。今でもお元気にされているのでしょうか?

店主: はい、元気でやっていますよ。実は今でもこの近くに住んでいます。

510: ああ、それは良かった。

店主: 残念ながら、連絡先をお教えするわけには行かないのですが。

510: いや、それはもちろんです。

店主: このお名刺を渡して、こういう方が訪ねてこられたよと伝えておきますよ。

510: もうお忘れになっている筈ですが、どうぞよろしくお伝えください。いつまでもお元気でと。

最後に「一緒に写真を撮ってもらえませんか」とお願いしたら快諾いただきました。「ああ、ヨドバシさんですか。私もしょっちゅうお世話になってます」とも。ありがとうございます。

PY: 苗字だけでも聞いておけば良かったですね。そうすれば、名前を思い出したかもしれませんよ。

510: いや、それは必要ないでしょう。名前なんていいんです。いまでもお元気でいらっしゃることが分かった。それでじゅうぶんですよ。すごくスッキリしました。

PY: 結構勇気が要りますよね?

510: 顔から火が出るかと思いましたよ。この歳になって初恋の人探しですよ? でも、ご健在ならちょっと会ってみたい気もするなあ。しかしあれから55年・・・可愛かったあの子も69歳かあ。美しい思い出のまま残しておいた方がいいかな。

PY: いやいや同い年でしょ? それは向こうのセリフかもしれませんよ。

510: ガビーン。

PY: でも、こうやって55年前に別れたっきりの初恋の人の消息がわかるなんて、素晴らしいですよね。ちょっと感動しました。

510: ちょっと待った。もしかして、この話も記事にしようとしている?

PY: しませんって。(ニヤリ)

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