PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
写真集をつくる、ふたりの男の話
「写真を組む」という表現の面白さ
自分が意図して撮った写真を、自分が意図した通りにセレクトし、自分が意図した通りに並べ、そしてこればかりは自分が意図した通りとは行かないまでも、それらの写真を通して、自分の思いを他人に伝える。「写真を誰かに見せる」とは、つまりそういうこと。
かつて、撮った写真を他人に見てもらう方法は二つしかありませんでした。一つは、見る人の手元に写真を届ける方法。もう一つは、写真がある場所まで見に来てもらう方法。言い換えれば、前者は写真集、後者は写真展。どちらにも共通しているのは「実際に手に取れる」ものであること。そう、写真というのは物質なのです。いや、「物質だった」というべきか。インターネットとデジタルカメラの組み合わせが、この「写真を見せる」という行為のあり方をすっかり変えてしまいました。
自分が撮った写真を、いつでも、どこからでも、誰にでも見せられるというのは、本当に素晴らしいことです。自分の前に運ばれてきた料理にナイフとフォークを入れる時にはもう、「おいしそう!」とか「どこのお店ですか?」とか、そんなやりとりが成立している。自分が見たものを瞬時に伝えられるということが、どれだけ人々のコミュニケーションを円滑にし、正確な状況把握を促し、感動の共有を確かなものにしてきたことか。ネットとデジタルがわれわれの生活にもたらした恩恵は、まったく計り知れません。
しかし、写真を撮る人たちの中には、あくまでも「物質であること」にこだわる人たちがいます。つまり紙にプリントしたもののこと。写真なんて、ネットでいくらでも見てもらえるこのご時世にですよ? 誤解のないように言っておくと、紙が忘れ去られたメディアだというのではありません。紙の本や雑誌は相変わらずたくさん売られています。写真の話に限定しても、オンデマンドでプリントや写真集を作ってくれるサービスはたくさんあり、時にはそのクオリティに目を剥くことさえあります。しかし、ここで言っているのはそういうもののことではありません。これをお読みになっている方の中に、真面目に(というのは、そこに自分の意思を込めながら、納得いくまで妥協せず、という意味ですが)写真のプリントをしたことがある人がどのぐらいいらっしゃるか、分かりません。でもその経験がある人は知っています。時間、コスト、労力の点で、これが本当に大変な作業であることを。知りたいのは、どうしてそこまでして「紙」なのか? 何が魅力なのか? ということ。
ここに二人の人物を紹介します。一人は高橋俊充(たかはしとしみつ)さん。もう一人は中西敏貴(なかにしとしき)さん。お二人とも「自分の写真集をつくる」ということにひとかたならぬ情熱を傾けている、PY編集部の卒業生。しかし、写真集づくりに対するアプローチや方法論、そもそも写真集というものに対する考え方は大きく違います。話を聞いて、とても面白いと思いました。おそらく100人の写真家がいれば、100通りの考え方があるのでしょう。お二人の話が「自分の写真を誰かに見せる」という行為について、今一度思いを巡らせる機会になれば幸いです。
それぞれにとっての「写真集」
感じる魅力とアプローチの方法
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デザイナーであり写真家 少し角度の違うアプローチ
高橋俊充の場合READ »高橋 俊充 (たかはし としみつ)
写真家。1963年、石川県小松市出身。数年間に渡りイタリアやモロッコへ通い、「SNAPS」というテーマで複数回の写真展を開催。同時に写真集も出版。カメラメーカーのプロモーションや広告写真にも携わる。写真家としてプリント作品にこだわり銀塩バライタプリント制作にも取り組み、写真集においてはアートディレクターとしての観点からデザインも含め自身で全て創りあげる。元フォトヨドバシ編集部員。
https://www.toshimitsutakahashi.com/ -
写真集は「向こう側」へ行くためのもの
中西敏貴の場合READ »中西 敏貴 (なかにし としき)
写真家。1971年生まれ、大阪府枚方市出身。1990年頃より北海道へ通い続け、2012年より美瑛町を拠点に北海道から海外まで風景写真のジャンルを超えて活躍している。元フォトヨドバシ編集部員。2020年、キヤノンギャラリーSにて写真展「Kamuy」を行う。同名の写真集が最新作となる(詳しくはこちら)。
https://www.toshikinakanishi.com/
( 2021.09.30 )