PHOTO YODOBASHI
ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン
Find a landscape
vol.20 パキスタンへの旅 - バロチスタン編 その②
Text & Photo by 中西 敏貴
インダスの流れに翻弄されるように文明の繁栄と衰退を繰り返してきた古代文明。モヘンジョダロはその代表格とも言える遺跡で、川の氾濫によって衰退したとも言われています。ところが今はとても枯れた大地になっており、長い月日の中で風景が刻々と変わっていっていることを実感します。
さて、旅はいよいよバロチスタン州へ。まずは、これまで旅をしてきたシンド州とこれから向かうバロチスタン州の分水嶺を目指すことに。川を越え、崩れた道を迂回し、急な坂道をひたすら登り、数時間かけて到達した場所は、まるで天上のような世界が広がっていました。
まずは枯れた大地の中を直走ります。道路は現在進行形で工事が行われているようでそのほとんどは砂利も敷かれていない土の道。そんな道を色々な人が色々な乗り物で行き交う姿が印象的でした。車、乗り合いタクシー、自転車、動物。空は相変わらずの煙空。
途中、麦わらをトラックに積み込む場面に出会いました。いったい何キロの麦わらが積まれているのでしょうか。もう十分に一杯そうに見えますが、まだまだ作業は続く様子。この後トラックの荷台は風船のように膨れ上がっていくのです。
山岳地帯をひた走り、やっとの思いで到達。ここがシンド州とバロチスタン州の分水嶺です。到着したのが夕刻だったため、翌朝に撮影のため再訪。日の出前に到着すると、火を焚いている様子が見えました。この谷で暮らしているバローチの人々です。遊牧生活を続ける彼らの家も特徴的で、石などを使って自然に溶け込むように暮らしていました。
左はバローチの村で出会った子供たち。バローチの女性に特徴的な美しいデザインの服が印象的です。右側の男性は、分水嶺付近の管理をする男性。口数は少ないけれど、日本から来た僕たちを暖かく迎え入れ、美味しいチャイをご馳走してくれました。彼らはこの大地で遊牧の暮らしを続けながら、たくましく生きています。
ランチで立ち寄ったチャイハナ(食堂のようなところ)のナン職人。慣れた手つきで次々と焼き上げていきます。この時気温は30度を越え、タンドール窯の熱も伝わってここは灼熱。額に流れる汗がそれを物語っています。そして合わせるのはもちろん汗が吹き出る辛いカレーです。旅はここから一気にバロチスタンの南部へと移動するわけですが、現地のカレーは気温と共に辛さも増していくようです。暑い土地ほどスパイシー。北部の旅では辛さよりも野菜の甘みを感じるカレーが主流で、南部は肉や豆を使った辛いカレーがメイン。土地と食は密接に関係しているようです。
今回の終着地であるバロチスタンのヒンゴル国立公園は、ひとことで言えば泥と岩の大地。泥火山があちらこちらにあり、それらが現役で噴出しているため、大地のほとんどが灰色に覆われています。緑はわずかで、その枯れた大地にバローチの人々はひっそりと暮らしています。
国立公園で最も代表的な泥火山である「チャンドラグプ」。今もなお、こうして泥が噴出し続けており、まるで富士山のような山はその大きさを拡大しています。ここはヒンドゥー教徒の巡礼地としても知られ、泥で作られた沢山の仏塔が並んでいるのが印象的でした。
泥火山の活動によって形成された大地に溶け込むように暮らすバローチの子供たち。たくましく生きています。
ヒンゴル国立公園はアラビア海に面しており、この海の恵みがバローチの暮らしを支えているとも言えます。夜は一面の漁火が輝き、夜通し漁をしている姿を見ることができました。空には天の川。あまりにも雄大な光景が広がります。
波の音で目を覚ますと夜明けの時間。テントから抜け出し目の前のアラビア海に足をつけながら日の出を待ちます。北海道でも毎朝日の出は見ているけれど、やはり気分が違います。夜明け前は少しひんやりしていた空気が、日の出と共に気温が上がっていくのを実感するひととき。
僕たちが滞在していたキャンプサイト。アラビア海と天の川を見上げる最高のサイトは、ドゥラニさんという方の個人所有というから驚き。毎日波の音を聞きながら眠りにつくことが何よりの癒しでした。
標高4700mのクンジュラブ峠から海抜0mのアラビア海まで、3週間で縦断するという旅もいよいよ終わり。旅は日々刺激の連続ですが、いつもの暮らしでは見えてこない事、聞こえてこない音、味わったことのない物を感じられることが最高の贅沢。標高を変え、場所を変え、新たな視点を探すというロケハンの面白さが凝縮された旅となりました。北部から南部への旅日記はこれで一旦締めくくりますが、パキスタンへの旅はこの後も続きます。それはまた別の機会にお届けしたいと思います。
( 2024.06.28 )
荷物を減らしたい。それでも星は撮りたい。そんなあなたにこの一本。
どうしてもナンが食べたくなったら自分で作ってみるのも手。
折りたためるLEDランタンは海外旅にはピッタリ。停電時も安心です。
靴を脱ぎたがる日本の皆様の必需品。