PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

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2021年春 機材動向

昨年夏に総括して以来約9ヶ月が経ちましたが、世の中が元通りになるにはまだまだ時間がかかりそうです。フォトキナはついに70年の歴史の幕を閉じました。CP+2021はオンラインのみでの開催。「タッチアンドトライ」ができない状況で、どのような盛り上がり方をするのか、はじめはちょっと想像ができませんでした。そしていざ蓋を開けてみると、各メーカーのセミナーやバーチャル展示には、それぞれの「らしさ」が等しく画面上に滲み出ていました。いつものように会場の音や雰囲気に影響されなかったからかもしれませんが、じっくりと興味深く拝見いたしました。そして、カメラ界はこれまで以上に元気印なのだなと、嬉しくなった次第です。今回は、そんな業界の動向について、少しばかり考えてみました。

ムービーの風

ソニーのFX6やFX3はプロ御用達のCinema Lineに属する映像制作用のカメラで、ワンオペレーションでの撮影さえ身近にしてくれました。パナソニックのボックススタイルのBGH1もプロ仕様そのものですし、2018年発売のGH5Sは今でもトップクラスの性能を誇っています。この2社は元々映像で名を馳せてきただけあって動画機能の強化にも積極的。ZV-1やG100といったVlog特化型の小型カメラもその象徴でしょう。

もちろん銀塩以来の老舗も黙ってはいません。キヤノンは長年業務用にもビデオカメラを手がけてきましたし、2011年からは映像に特化した「CINEMA EOS」システムを投入。現行のデジタルシネマカメラだけでも7機種を揃え豊富なEFシネマレンズ群も自家製ですし、ミラーレスのEOS R5は8K動画もサポートしています。ニコンのZシステムは、デビュー当初から外部レコーダーによるProRes RAWフォーマット記録にも対応。ブリージング抑制など動画撮影にも配慮した、超高性能のNIKKOR Zレンズを送り込んできました。富士フイルムもまた、長年シネレンズや放送用レンズを提供しています。XマウントのX-E4はあれだけ小型でありながら、FHD/240pの超ハイスピード動画撮影だって可能です。シグマは2019年の時点で映像向けのカラーモードや熱処理対策を施したモジュール型カメラfpを出しており、このほどfp Lにて高画素化を果たしています。

こうして見てみると、カメラ界にムービーの新たな風が吹いていることは事実です。ムービー専用機はもちろん、ミラーレスカメラの動画機能もかつて無いほどの大きな進化を遂げているのです。ちなみに、私の初めてのデジカメは2002年発売で200万画素。動画記録は320x240ピクセルで20秒間まででした。20年足らずで、ここまで来たということですね。

中判カメラや一眼レフの動き

大型センサーを搭載した中判デジタルカメラが元気です。富士フイルムのGFXシリーズ、ライカのSシリーズ、ハッセルブラッドのXシリーズといったミラーレスカメラ。これらは、35mm判をはるかに上回る大型センサーを搭載した、超高画質カメラというカテゴリーを確立したように思います。高精細はもちろん、中判ならではの繊細な階調、色深度、立体感はこれからの静止画を価値づけていくかもしれません。

面白いのはペンタックスです。国産初の一眼レフを生み出した張本人として、これからも一眼レフで行くとのステイトメントを発表。フレームレートの概念すら不要な光学ファインダー。その魅力は、改めて述べるまでもありません。と同時に、顔認識や瞳AFといったミラーレス関連の技術はちゃんと取り入れている所が興味深い。一眼レフも、これまでとは違った進化を遂げるのかもしれません。その一眼レフが出る前はレンジファインダーが主流でしたが、その元締めはライカです。そして、M型ライカはフィルム/デジタルを問わず、今なお様々な場面で必要とされているのです。様々なタイプのカメラが存続しながら、時には新たなものがポンと出てくる。今後も面白くなりそうです。

「1段」と進化したレンズ

近年リリースされたレンズを振り返ってみましょう。まず、一眼レフ用としてカールツァイスのOtusシリーズやシグマのArtラインが登場したことで、超高性能大口径というジャンルが花開いたように思います。その後、Eマウントなどミラーレスカメラに対応したモデルもリリースされましたが、次第にミラーレスネイティブのレンズが主流に。絞りリングのデクリック機構もスタンダードになってきました。収差補正へのアプローチも、大型化を承知で光学系で補正してしまうものもあれば、カメラによる補正に委ね小型化を図ったものもあります。カメラ内補正も賛否両論あるかもしれませんが、以前に比べれば随分と浸透してきています。

さらにここ1〜2年では、ミラーレスならではのショートフランジバックを活かした新世代の超高性能レンズが、次々と送り込まれています。写真界での「ハイスピード」と言えば長らくF1.4が代表格でしたが、F1.2やF1.0、さらにはF0.95やF0.8といった数字さえ見かけるようになりました。現時点でキヤノンのRFシステムやニコンのZシステムにはF1.4自体が存在しませんし、富士フイルムの最速も長らくF1.2でしたがついにF1.0が登場しました。こうした超ハイスピードのレンズは以前も存在はしていましたが、開放の描写が心もとなく冒険の域でもありました。それが新世代の大口径は、F1やF1.2であっても開放から安定した描写が得られます。ハイスピードの代名詞であったF1.4は、今やセーフティゾーンです。また、F2ともなれば光学性能を極めつつ小型化も図れることを、ライカやフォクトレンダーのアポクロマート仕様レンズが示しています。まとめると、以前の基準から1段分ほどレンズ性能が上がったと言えるのではないでしょうか。同じ明るさでも、昔と今とでは中身が違うのです。

もちろん、「明るくシャープ」以外の「正解」もあります。トキナーのXマウントレンズは、カメラの画作りに合わせて意図的に収差を残して味わいを追求。シグマのIシリーズは写りに加えてデザインや作り込みを追求。タムロンの28-200mmは高倍率でありながらF2.8始まりで、手ぶれ補正を非搭載として小型軽量化を達成しています。また超望遠ズームでは、オリンパスの150-400mmのように、テレコンバーターを内蔵したタイプも出てきています。このように「正解」が多様化してきた最大の要因の一つは、光学技術の進化でしょう。文字通り1段と成熟してきたからこそ、それ以外の選択肢も生まれたのではないでしょうか。

こうして見てみると、実に多種多様な機材がテーブルに並んだものだと感心します。カメラや光学の技術も新たなステージに到達したことで、見える景色が増えてきたことは間違いありません。そしてやはり、ミラーレスが主たる現象の鍵となっていることは間違い無いようです。物事が細分化しつつ融合し、互いを高め合い、新たなスタンダードが生まれる。そんな歓迎すべき循環が生まれています。というより、各メーカーが考える「本質」がぶつかり合うことで、自然とそうなっているのでしょうか。その意味でも、各メーカーが魅力的な製品を生み出し、切磋琢磨を続けられる環境が必須です。我々ができることは清きクリックであります。新旧様々なキャラクターを持った製品をとっかえひっかえして、新たな世界をとことん楽しむ。これこそが、メーカーにも写真界にも最大のエールとなるでしょう。それでは、各メーカーの動向をご覧ください。