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vol.12 礼文島
Text & Photo by 中西 敏貴
北海道にはいくつかの島が点在していますが、それぞれに個性豊かで魅力に溢れています。その中でも、礼文島、利尻島の存在は、特に個性が際立っていると言えるでしょう。稚内あたりから望むことのできるこれら二つの島は、その立地から一緒に語られることも多いのですが、実は全くといっていいほど風景が異なります。利尻富士が聳え立つ利尻島はどちらかと言えば火山島らしさを感じられる場所。一方で、礼文島は高い山はなく、なだらかな丘陵地帯の連なりで出来上がっている島という印象です。今回の旅は、花の浮島としても有名な礼文島に絞り込んで、ゆったりと歩くことにしました。
旅の始まりは稚内港から。天気の良い日はサハリンが望める、日本最北の街です。筆者が住んでいる街からは6時間の道のり。東京を起点に考えると、浜松や新潟くらいまでは行けてしまう距離感。北海道は広いのです。
稚内を出港してしばらくすると、左後方にノシャップ岬が見えてきます。ここから約2時間の船旅。この日は天気も良く波も静かで、とても快適な船旅となりましたが、冬は欠航も多いとのこと。そんな海もいつか見てみたいと考えてしまうのは、写真家の悪い癖でしょうか。しばらくいくと、左前方に利尻富士が見えてきました。海から聳え立つ単独峰が島の大部分を形成している、特徴的な利尻島です。
稚内港から2時間の船旅を経て、いよいよ礼文島に上陸しました。フェリーターミナルから直接向かったのが、今回歩く予定の桃岩コースのスタート地点。夕方の到着だったのでこの日は様子見。少しだけ脚慣らしをして、翌日のトレッキングに備えることにしました。ご覧のとおり礼文島は歩く人のためのトレッキングコースが島中に整備されていて、その気になれば島中を踏破することだって可能なところ。言い換えれば、歩かなければ風景には出会えない、とも言える島なのですね。
ここからはそのトレッキングコースの写真を連続でお見せします。歩いている感覚で、どうぞご覧ください。
今回歩いた桃岩コースは、数ある礼文島のトレッキングコースの中でも屈指の絶景コース。車が通る道はほとんど見えず、ただひたすら海と丘陵と断崖だけが見え、歩いていると天国に来たのではと錯覚してしまいます。花の浮島と呼ばれるほどですから、島固有の野端が咲き乱れ、浮世離れした世界観を楽しめる稀有な場所と言えるでしょう。
時折現れる整備された木道にも感動します。土質の影響からか雨の日はぬかるみが多くなるようですが、そういった場所は丁寧に整備され、重登山装備がなくても気軽に歩けるのも礼文島のいいところです。
海ではウニ漁が最盛期を迎えていました。漁師の方は朝早くから小さな船で漕ぎ出し、黙々と手作業でウニを獲っています。天気の良い日しか漁には出られないらしく、漁期も短いので、ウニが高級になってしまう理由がよくわかります。
礼文島にはまだまだ沢山のトレッキングコースがあります。今回はこの桃岩コース以外にもいくつかの場所を歩いてみましたが、そのどれもが浮世離れした風景の連続。歩いて風景を探すというのがこの連載の趣旨ですが、その本質がこの島にはあるような気がしました。便利な車で撮影地を探すのではなく、足を使うことで、自分なりの風景が見えてくる。有名だからとか、人気だからといった外的な理由に左右されず、心の揺らぎのままに風景と出会えるのが、歩くことなのかもしれませんね。
トレッキングの疲れは島ならではのものをいただいて、元気回復。その土地で獲れたものを身体に取り込むと、より元気になれそうな気がします。
礼文島にいる間、ずっと強烈な存在感を発していたのが利尻富士。百名山にも名を連ねる名峰ですが、やはりその存在感は格別です。古来の人々が、遠くの海からこの山を見つけた時の感動はいかほどだったでしょうか。北海道の島々をこの連載でも巡ってみたい思いが湧き上がってきました。
( 2023.07.28 )
登山・ハイキングの必須アイテム。知床のほか礼文島や利尻島も収録されています。
写真家中西敏貴が風景写真のその先を撮った圧巻の一冊。