FUJIFILM GFX100S × GF110mmF2 R LM WR
二十歳を迎える君へ

生まれた頃から日々息子を撮り続けてきました。私が最もレンズを向けてきた相手ですが、それも一区切り。この春から息子は一人暮らしを始めるため、これまでのように撮る機会は少なくなるでしょう。そんなときに、GFX100SとGF110mmF2 R LM WRで「息子を撮る」というお題ですから、この節目にこの上ないような嬉しい機材を手渡されたものです。

整理されていない日々の記録をアルバムにまとめて息子に渡そうと膨大な写真を見返していると、頭の中の記憶が急速に色を帯び立体的に立ち上がってきます。まるでその頃に引き戻されるかのようです。写真の力って凄い。改めてそう思いました。自我が芽生え、カメラやレンズを向けるとそれから逃れる時期も。時を経て、今ではレンズを向けると一発芸なのかギャグなのか笑わせてくるように。私の見立てではサービス精神7割、テレ隠し3割な感じです。身長はゆうに私を超え、毎朝髭を剃っている姿が馴染んできた反面、時折無垢さが入り混じった表情をする。そんな素の表情を不意打ちでなんとかとらえようとする私と、ボケて「笑い」にはしる息子。高校3年生の最後の登校日、いつものように玄関先まで見送りました。私は隠し持っていたカメラで背後から狙ったのですが、振り向くと目・鼻・口をマスクで覆うという先手が。これには「やられた」の一言です。脊髄反射的な彼の一発芸は見事なもので、速写にちょっぴり自信のある私でもかなりの確率で負け。さながら喜劇でも見ているかのような写真が量産されていました。それもこれも全ては日常の愛しい一コマなのですが。あらたまって撮影を申し入れると照れるので、今回は一層のことモデルになったつもりで一発芸は無し！と伝え、いつもより少し離れたところから「彼の今」を写し込めないかなとレンズを向けました。

時がきたら飛び立っていくのだろう。その時がきたら、繋いでいた手をパッと離せるようにと、彼が幼い頃から漠然とそんなことを考えていました。その時がくるまでは「そばにいるよ」と、いわゆるスタンドバイユーを一番大切にしてきたような気がします。虫やザリガニ、時には野菜や果物をとりにいったり、観察したり、育ててみたり。道端にさく草花で逐一足を止めたかと思えば、私はポケット植物図鑑を手に可能な限り質問に答える。一緒に笑い、泣き、育て、育てられてきました。とにかく「待つ」という経験もさせてもらいました。大学進学から1年。相変わらずサークル活動やアルバイトにと毎日忙しそうです。初めて彼女ができたことも知らせてくれました。そして「一人暮らしをしてみたいかも」という彼。どうやらその時がきたようです。覚悟はしていたものの寂しい気持ちもあり、でもそれ以上に前途洋々！君に幸あれ！という気持ちで送り出しました。何年か先に今回撮影したカットを眺めることが楽しみです。

( Photography & Text : TA )

( 2022.05.23 )