PY撮影ノート Vol.18 RAW現像で味付けを

LEICA M-E, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/21 ZM, 1/16, F2.8, ISO 160, Capture One 9, Photo by A.Inden

写真表現に行き詰まってくると、何か抜け出す方法はないかと考えを巡らせる。写真集や絵画を眺めてみたり、カメラのシーンセレクトを分析したり、「藁にもすがる思い」でレンズの味を利用したりと。そんなあがきをPY撮影ノートでは紹介してきました。そんなあがきのひとつに「RAW現像」という“禁断”の方法があります。あえて“禁断”という言葉を使ったのは、現像に頼りすぎると「後でなんとかなるさ」と撮影時に何も考えなくなってくるからです。「考えなくてもいいのでは」という意見もあるかと思いますが、撮影時に仕上がりのイメージを思い描き撮影方法(セッティング)を考えることは、写真を楽しむ大事な要素ではないでしょうか。

今回の撮影ノートは「RAW現像」を撮影後に写真を作り込む方法と位置づけるのではなく、写真の味付けのためのひとつのツールとして考えてみます。

( 写真 / 文 : A.Inden )

LEICA M8, LEICA SUMMICRON-M F2/35mm ASPH., 1/64, F5.6, ISO 160, Photo by A.Inden

現像ソフトの違いを見る。

フィルム全盛の頃、フィルムの種類で写真の味付けを簡単に変えることができました。こってりしたアンバーな描写はコダクローム、クリアーで少し青い描写はエクタクローム、ビビッドならベルビアと。デジタルカメラでフィルムに当たるのがセンサーと考えると、マウントアダプターの種類が豊富になった今、「フィルムを変えるようにセンサー(カメラボディ)を変えること」は可能です。財力があれば…。

実は、写真の味付けを変えるには「現像ソフトを使い分ける」という方法があります。RAWで撮影される方は、カメラに付属の現像ソフトを使われている場合が多いと思いますが、汎用性のある多くの現像ソフトが市販されており、現像の味付けに個性がみられます。上の作例はCapture One 9 / Lightroom 5 / SILKYPIX Developer Studio Pro7 / Photoshop Elements 14の4つのソフトを使い、撮影時のままRAWデータを現像したものです。現像ソフトの違いでコントラスト、彩度、色の表現が違っていることがわかると思います。普段筆者が使っているCapture One 9はかなりこってりした仕上がりに、メーカー(Adobe)が同じLightroom 5とPhotoshop Elements 14は同じ傾向で暗部の調子を大事にしていることがわかります。

LEICA M-E, Voigtländer NOKTON Classic 35mm F1.4, 1/1500, F1.4, ISO 160, Photo by A.Inden

しっとりとした光の条件ではさほど大きな違いは感じられませんが、中央のドアの取っ手と格子の塀を見るとその描き方に違いがみられます。シャープネスの考え方だと思いますが、SILKYPIX Developer Studio Pro7で現像したものは線の細い描写に、Lightroom 5は柔らかさを感じます。

SONY Cyber-shot DSC-RX1RM2, 1/6, F11, ISO 100, Capture One 9, Photo by A.Inden

現像ソフトの味を利用する

シャッタースピードを少し長めに設定し、流れる水を糸のように表現してみました。撮影時に水の白さが際立つように露出はアンダーにしています。仕上げにコントラストが少し高く、黒がしまった味付けのCapture One 9でRAWデータを現像し、白さをさらに強調してみました。背景から浮きだすように感じられる水の流れが美しいですね。

SONY Cyber-shot DSC-RX1RM2, 1/6, F11, ISO 100, SILKYPIX Developer Studio Pro7, Photo by A.Inden

SILKYPIX Developer Studio Pro7は柔らかな調子で、しっとりとした山の中の空気感が感じられます。
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OLYMPUS PEN E-P3, M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8, 1/250, F2.0, ISO 100, SILKYPIX Developer Studio Pro7, Photo by A.Inden

春の少し霞んだような空気感の中、可憐に咲く桜の繊細さを狙ってみました。花びらの透明感を出すために逆光で露出は少しオーバー目に、ピントを奥に持って行き前ボケを作ることでピントピークの桜の細やかさを強調してみました。現像ソフトは、線の細い上がりを期待してSILKYPIX Developer Studio Pro7で。コントラスト・彩度が少し低めの味付けが、柔らかな春の日差しを感じさせますね。

OLYMPUS PEN E-P3, M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8, 1/250, F2.0, ISO 100, Capture One 9, Photo by A.Inden

Capture One 9のこってり感は桜の花の鮮やかさの表現には合っていると思いますが、春の柔らかさという点ではもう一歩でしょうか。
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Canon EOS 80D, EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM, 1/320, F5.6, ISO 100, Photo by A.Inden

「JPEG撮って出し」を参考に

デジタルカメラの画像記録方式にはRAWとJPEGがあります。RAWはセンサーに入ってくる光(情報)をそのままデータとして記録した状態。カメラ内の画像エンジンまたはパソコンによって見ることのできる画像に変換されたものがJPEGです。「JPEG撮って出し」とは初期設定のカメラから出てくるJPEG画像で、メーカー独自の画像エンジンにより味付けされています。RAW現像の話なのにJPEGと思われるかもしれませんが、メーカーが作り込んだ画(JPEG撮って出し)は味付けの方法として参考になります。上の作例を見ると「JPEG撮って出し」は色が綺麗に出ており爽やかなイメージです。色をこの方向に持ってくると爽やかなイメージになるという例ですね。十分これで綺麗だと思いますが、白い穂が輝いた印象に見えるSILKYPIX Developer Studio Pro7、写っている植物に重さのようなものを感じるCapture One 9も表現としては面白いと思います。(※画像のクリックで大きな画像を表示します)

Canon EOS 80D, EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM, 1/320, F5.6, ISO 100, SILKYPIX Developer Studio Pro7, Photo by A.Inden

上の作例は「JPEG撮って出し」の色味を参考にSILKYPIX Developer Studio Pro7で色味を調整して現像したものです。白い穂の輝きに爽やかなグリーンがプラスされたことで、春を待つ空気感がうまく表現できたように思いませんか。

FUJIFILM X-Pro2, XF23mm F2 R WR, 1/1250, F2.0, ISO 200, Photo by A.Inden

全く同じデータからここまで違う雰囲気の画像ができてくることに驚いてしまいました。このように4カット並べてみてわかることですが、色味、コントラストの違いでふたりの関係が違って感じられるから不思議ですね。X-Pro2にはフィルムシュミレーションがあり画像も味付けを何種類か選ぶことができますが、この作例はスタンダードで撮影しました。Photoshop Elements 14のコントラスト、シャープネスを強調しているわけではないのに、真ん中のふたりが浮いてくる描写は素晴らしいですね。

FUJIFILM X-Pro2, XF23mm F2 R WR, 1/1250, F2.0, ISO 200, Photoshop Elements 14, Photo by A.Inden

「JPEG撮って出し」を参考に夕方らしい雰囲気にするため、少しマゼンタを足してPhotoshop Elements 14で現像しました。放課後の光の中、まだ初々しい雰囲気のふたりが感じられませんか。いやー筆者にもそんな時代がありましたねー。

Canon EOS 5D Mark III, EF200mm F2L IS USM, 1/350, F2.8, ISO 200, Photoshop Elements 14, Photo by A.Inden

最後の香り付け

写真を料理にたとえてみると、材料が被写体、調理器具がカメラ、味付けがレンズセレクトも含めたカメラのセッティング、そしてレシピ本が技術解説書でしょうか。料理は決められたレシピに沿って調理していくと失敗のないものが出来上がってきます。でも、いろいろな場所でさまざまな料理を味わっていくうちに、同じ材料でも味に差があることがわかってきます。そして再現しようと、テフロン加工のフライパンを鉄製のものに変えたり、砂糖を黒糖に変えたりと工夫を重ね経験を積むうちに、独自の一品にたどり着いていくのではないでしょうか。PY撮影ノートでは、料理でいう味付けの方法、味付けの学び方を紹介してきました。レンズセレクト、露出、ホワイトバランスが撮影時の味付けとしたら、RAW現像は撮影後の最後の香り付けのようなものかもしれません。

本来RAW現像ソフトは、撮影後に撮影時の味付けを変えるために使うものです。多分多くの方はそう考えていると思います。筆者もそう思い、ひとつの気に入ったソフトを使い続けていました。今回、4つのソフトで撮影時のまま現像してみて、自分では調整できないイメージ、考えられない味付けに仕上がってきたことに驚きを感じました。そして、過去に撮った写真をもう一度違うソフトで現像し直すことで、その時点では突き詰められなかったことが実現できました。料理も写真も、味付けの方法がたくさんあるのに越したことはありません。最後の一手のための新しい方法を手に入れて、自分らしい一品に仕上げてみてはいかがでしょうか。



( 2016.05.25 )

<現像ソフト>
Capture One Pro 10 / Adobe Photoshop Elements 15 / Adobe Photoshop Lightroom 6 / SILKYPIX Developer Studio Pro7

<調理用品>
STAUB / 鉄のフライパン

<有機野菜>
生産者直送ストア・有機野菜セット

<有機黒糖>
国産有機黒糖 ふんまつ

<バックナンバー>
Vol.01: PHOTO YOKOHAMA 2014 -「写り込み」
Vol.02: 河津桜 -「順光、逆光」
Vol.03: 「ピント」のお話
Vol.04: 街角スナップでおさらい
Vol.05: コンパクトデジタルカメラ
Vol.06: 露出の基本
Vol.07: ホワイトバランスと色の話
Vol.08: リュックにカメラを詰め込んで
Vol.09: 運動会撮影にチャレンジ
Vol.10: 被写体までは何センチ? - 「距離感」
Vol.11: トリミングという“テクニック”
Vol.12: シーンセレクトから学ぶ
Vol.13: 家族旅行でスナップを
Vol.14: 絵画の雰囲気から学ぶ
Vol.15: フィルム撮影の楽しみ
Vol.16: らしい光 〜 四季篇
Vol.17: レンズを味わう