PY撮影ノート Vol.10 被写体までは何センチ?

第10回、いい響きですね。さらにうれしい事にライカデビュー日記を追い越す事になりました。写真を撮るテクニックのようなものを考えてきましたが、「そろそろ構図の話が出てこないかな」と思っておられる方もいらっしゃったのではないでしょうか。記念の第10回は、このあたりの事を考えてみたいと思います。

( 写真/文 : A.Inden )

簡単に言ってしまうと「構図は自由、好きに撮っていい」のです。そういってしまうと元も子もないので、構図を考える上での大事なキーワードをひとつ。それは「距離感」です。子どもにカメラを持たせると、撮ったときの雰囲気がよく伝わってくる写真に驚かされることがよくあります。構図なんて気にしていないのですが、その時の気持ちがよく伝わってくるのですね。たとえば、大好きな猫は触れる距離まで近づいて、よく吠える怖い犬は遠くから。お分かりでしょうか、"距離"によって、撮り手と被写体との関係がストレートに表現されるのです。写真を撮るのは、感じたイメージを伝えようとすること。それを露出・色・構図等で表現していくのですが、距離感も大切な要素です。今回はその中でも2つのポイントに絞って考えてみましょう。さてうまく作例で表現できるか、頑張ってみます。

 

心の動きと距離感

まず撮り手の気持ちと距離感を考えてみます。先に述べた子供の例のように、可愛いと近づきたくなり、怖いと離れたくなる。被写体の息吹を感じたければ近づき、ゆっくりと静観したければ離れる。あまり意識はされてないと思うのですが、写真を撮る時の心の動きはこうではないでしょうか。そこで写真を撮る時に、この気持ちを意識して被写体との距離を測ってください。そして、被写体から感じた「距離感」で撮影してみてください。

ご主人を守っているのでしょうか、「近づいてきたら吠えるぞ」と目が語っています。少しプレッシャーを感じてしまい、これ以上は傍に寄りたくない雰囲気です。ズームレンズで寄るという選択肢もあると思うのですが、周りの状況を自然に取り込みたくて単焦点35mmでそのまま撮影しました。何ミリのレンズを選択するかは、レンズありきではなく被写体との距離を決め、周りを何処までいれるかで決めてみましょう。だんだんと自分の好きな距離感、レンズができてくると思います。

真っ青な海を見て何を話しているのでしょうか。こんなシーンに出会ったら遠くから眺めていたくなりますね。天気のいい日だったので、ゆっくりとスナップがしたくて50mmレンズをつけて散歩していました。もう少し近づいて、とも思ったのですが、最初に感じた距離感で撮影しました。水平垂直を出し、見たままの構図で撮影。なんだか優しく幸せな気持ちになってシャッターを押したのですが、そんな雰囲気が伝わりますでしょうか。

 

モノの形と距離

もうひとつ、距離と密接に関係していることを考えてみましょう。作り手が魂を込めたモノは「どう使って欲しいか、どう見て欲しいか」を考えて作られています。日本料理などをいただく際に注意してみると、座って食べる距離感で一番美しく見えるように盛り付けられていることがわかります。また茶器は手に取って愛でる距離で美しく、花器は少し離れると端正な美しさが見えてきます。究極は日本庭園で、「ここに座って見て欲しい」というピンポイントを感じることがあります。もちろんそこで撮らないといけない訳ではありませんし、形を崩すことも一つの表現方法。ただ、物には見え方が一番美しい距離があることを、頭の片隅に置いてみてください。

これからお客さんを待つレストラン。そのゆったりとした時間をコップで表現してみようと、テーブルにあるコップが一番自然な形で見える距離で撮影しました。実際テーブルに座っているより離れた距離ですが、物は少し遠くから見た方が、その場所にそっと置かれた雰囲気が出るように感じます。もしビールが注がれ泡がこぼれそうになっていたら、もっと近くにグッと寄って撮影したいですね。

ランボルギーニのグラマラスなリアスタイルを強調しようと近づいて撮影しました。露出を切り詰めていてわかりにくいかもしれませんが、遠近感がついてリアタイヤよりフロントタイヤが小さく写っています。レンズの焦点距離や被写体との距離によって、写る形はここまで変わるのですね。車が好きでよく撮影するのですが、全体を撮る場合、地面にぴったりと接地した雰囲気を重視するなら離れた距離から、今にも走り出しそうな雰囲気にするのであれば近くからと、自分なりに距離を考えて撮影しています。長く伸びる影の効果もあって、走りだしそうな動きを感じられませんか?

雲の形が面白かったので、空に突き抜けていくような形にビルを撮影。ビルは下から見上げれば見上げるほど空に突き抜けた感じが強調されます。逆に、できる限りパース(遠近感)がつかないように撮影するには、ビルとの距離が必要になってきます。

 

「構図」というテーマを取り上げてみようと思っていたのですが、「距離感」の話になりました。写真を撮るうえで一番大切なことは何かと考えると、実は「距離感」だと思うのです。その大切さをどう伝えられるかと四苦八苦してみたのですが、少しはヒントがありましたでしょうか。被写体との距離にあまり意識したことがなかったのであれば、ぜひこれからは被写体との距離を認識して、どのような「形」に写るか、自分の「心」がどう動いているのか、意識されるとよいと思います。「距離感」を理解することは被写体をじっくり見ること、なぜ撮りたいかを確認することに繋がっていきます。テクニックで写真を表現するのもいいと思いますが、原点にもどって何を伝えたいかを考える一つのきっかけになればと思っています。

( 2014.11.05 )

<おすすめ機材:単焦点レンズ>
Carl Zeiss Biogon T* 35mm f2.0 ZM
LEICA SUMMILUX-M 35mm f1.4
LEICA SUMMICRON-M 50mm f2.0
LEICA MACRO-ELMAR-M 90mm f4.0
OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL 17mm F2.8
SONY Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA
Voigtlaender NOKTON Classic 35mm F1.4


<バックナンバー>
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Vol.04: 街角スナップでおさらい
Vol.05: コンパクトデジタルカメラ
Vol.06: 露出の基本
Vol.07: ホワイトバランスと色の話
Vol.08: リュックにカメラを詰め込んで
Vol.09: 運動会撮影にチャレンジ