PY撮影ノート Vol.06 露出とキホンを考える

写真撮影を語るのに避けては通れないのが「露出」。早くこのテーマを取り上げなければと思っていたのですが、どういう切り口がいいか考えがまとまらないまま、ここまで来てしまいました。とにかく基本中の基本を確認する事からはじめてみようと、露出の測光方式と方法を取り上げて、露出計の示す「基本の露出」を考えてみます。これから何回かに分けて、露出の話を掘り下げていきますので、どうぞお付き合いください。

( 写真/文 : A.Inden )

「露出」とは、光をフィルムやCCD/CMOSのような撮像素子に当てることです。ただし肝心なのはその "量" であって、受光素子に当たる光の量を決めることが「露出を決める」ということになります。PHOTO YODOBASHIの作例などを見ていただくと、少し明るめに写っているものや、暗めに感じられる写真があるかもしれません。現場の光を感じ、明確な意思を以って露出を決めることは、写真撮影における永遠のテーマです。どうしてこの露出にしたのかな、なんていう観点で写真を見てみると、また新しい発見があると思います。

さて「適正露出」というものを考える前に、まずは「カメラがどんな露出で撮ろうとするか」を知っておくべきです。露出計は、どのような露出を選んでくれるのでしょうか。まずはここから考えてみましょう。

そんなわけで今回は単体露出計を持ちだしてみました。白い球体部分の光を感知して「適正露出」の値を示してくれる、入射光式の露出計です(はじめて見る方のために、露出計の読み方も記載してみました)。カメラはCanon EOS1-Ds MarkIII、レンズはマウントアダプターを使ってMakro-Planar 60/2.8AE、三脚はジッツオG415。被写体としてイラストボードやシルクグレーカードを用意し、撮影中に光の具合が変わらないようにスタジオで、ライティングはボックス型を1灯。さあ、準備は完璧。つまらない写真が続きますよ。

 

入射光式露出計で、適正露出を測ってみる

まずは単体露出計を使って撮影してみます。入射光式露出計は「被写体に当たる光の量を測る」ものですから、被写体のすぐ傍に持っていって値を見ます。上の写真の場合は、ボードの上に露出計を置いてしまえばいいですね。露出計の出した値に合わせて撮影したものが、上の写真です。ISO100で絞り5.6半、1秒。白が白く、黒が黒く、グレーがグレーに写っています。被写体が自然に見えるこの光量が、露出計の示してくれる値。これを「基本の露出」と呼ぶことにしましょう。

さて、カメラに搭載される露出計は仕組みが違って「被写体から反射してくる光の量を測る」反射光式になります。この方式で気をつけなければいけないのは、被写体の色や質感、測る場所によって、値が変わってくるということです。一番狭いポイントで測ってくれる「スポット測光」 を使って、実際に試してみましょう。

スポット測光を使ってみる

真ん中、黒いカードの部分で光を測り、シャッターを切ってみました。黒がグレーに写り、目で見た色よりも明るい写りになっています。黒は光を反射せず、カメラに届く光が少ないので露出計が「暗いシーン」と判断したわけです。

白いカードで測光すれば、結果は逆になります。白がグレーになるように、シャッタースピードが速くなりました。もうお気づきかもしれませんが、露出計は測っている被写体がグレーに写るような値を「基本の露出」としています。

露出計が基準とするグレーを「18%グレー」と言います。ちゃんと18%グレーのカードが売られていて、これで測光すれば「基本の露出」が得られるというわけです。実際シルクグレーカードで測光すると、入射光式の露出計と同じ値で撮影されました。被写体に複雑な色と素材が混ざっていて露出を決めるのが難しい時、被写体の中に「18%グレー」を見つけられれば「基本の露出」を測ることができます。

こうしてスポット測光を使ってみると、どの被写体で露出を測るかをよくよく考えるべきだと感じます。逆に、これを十分に理解して使いこなせば、思い通りの露出を得られるようになるはずです。カメラ内蔵の反射式露出計を使いこなすのは少し難しいでしょうか? 大丈夫、カメラメーカーはできるだけ「難しいことを考えなくてもそれらしい露出が得られる」ように、様々な測光方式を用意しています。それぞれの違いを見てみましょう。

測光ポイントは画面中央部、上の写真ではグレーのカードを中心に、下の写真では黒のカードを中心に置きました。スポット測光はご覧いただいた通りですが、中央重点測光では下の写真の露出が少し改善していますね。中央の黒だけでなく、その周囲の色を評価しているためでしょう。カメラメーカーの技術が結集するパターン測光(評価測光)は画面全体を対象にするもの。上下の露出に変化が少なく、うまく露出を選択できていることがわかります。部分測光はスポット測光より広い範囲を対象にするものですが、黒のカードに収まってしまったのか、スポット測光と近い結果になりました。このように、お持ちのカメラの測光方式や露出選びの仕組みを事前に理解しておくといいですね。

忠実な色を出してみる

基本中の基本を写真で確認してきましたが、もう少し実践的な被写体で考えてみましょう。ここからの作例は愛車BROMPTONを被写体に、背景を変えて撮ってみます。夏でも静かな大磯で、撮影開始です。

この写真は中央部重点測光で撮影しました。潮風にさらされ白くなった防波堤と夕暮れの空。普通にオートで撮ってみると、明るい色や空の影響を受けてアンダーな描写になってしまいました。実際の色と比べると、ずいぶん暗くて重いイメージなんですね。このようなシチュエーションでは入射光式で露出を決めるのが一番いい方法ですが、カメラの露出計任せで撮影する場合は露出補正を使って+1から+2ぐらい露出をあけるとちょうどよくなると思います。でも露出補正の量というのは経験がものをいうものですから、簡単には判断できません。スポット測光を使ってみましょう。

スポット測光は白と黒の中間となる被写体を探すのがポイントです。防波堤や砂浜の色はグレーなのですが、少し明るかったので自転車のグリーンの部分を選びました。こんなときには目を細めて被写体を眺めてみる方法がオススメです。絞りを絞ったようになって、見え過ぎることなく、少し感覚的に捉えられるようになると思います。少し日の落ち着いた夏の夕暮れの光は、こんな具合でした。

先ほどとは逆に色の濃い背景を選んでみました。濃い茶色の柱・濃紺の暖簾の影響を受けて全体的にオーバーになり、色が浅い印象です。吉田茂の番記者らが通った元居酒屋も、だだの古いお家に見えますね。歴史を感じさせる良い雰囲気の建家を表現するべく、露出を調整してみましょう。背景の建家がしまって見えるまで目を細めていき、良い雰囲気になったところでグレーに感じる場所をスポット測光で測ります。

この作例では自転車手前の一番右側の敷石です。露出差は1段と1/3、背景の土壁、敷石の影響があって思ったより差は出てきませんでした。本当は京都辺りのお茶屋さんの黒い塀、水を打ったばかりの敷石の前で撮影すると露出差が出て良い作例になったのでしょうが(ついでに一杯なら最高でしょうね)、ちょっと背景が中途半端でしたね。

 

相変わらず技術の話になると恥ずかしい作例が並んでしまいます。どうしても頭で考えて撮影しているのですね。まだまだ修行が足りません。今回は測光方式による露出の違いをスタジオで撮影しました。そして入射式測光の値を「基本の露出」とし、カメラ(反射式測光)での測り方をスポット測光で考えてみました。前回のコンデジではライブビューを見ながら露出を決めるという方法も紹介しましたが、一歩進んで露出の道を精進したい方は「露出の話」を参考にぜひスポット測光で露出の沼に入ってみてください。こちらはレンズ沼と違ってお金はかかりませんから。

最後の作例は少しお遊び。本当は白くない大磯の砂浜を白い砂浜のように写そうと、+2の補正をかけてスポット測光で砂を測りました。南の島のように・・・見えますかね?

( 2014.08.05 )

<使用機材>
カメラ: Canon EOS 1-Ds MarkIII
レンズ: Makro-Planar 60/2.8AE
マウントアダプター: CANON EOS(EF)用
カメラ: LEICA X2
シルクグレーカード: GIN-ICHI シルクグレーカード
単体露出計: セコニック -L-398A- スタジオデラックス

<バックナンバー>
Vol.01: PHOTO YOKOHAMA 2014 -「写り込み」
Vol.02: 河津桜 -「順光、逆光」
Vol.03: 「ピント」のお話
Vol.04: 街角スナップでおさらい
Vol.05: コンパクトデジタルカメラ