PY撮影ノート vol.2

差し込む光に冬とは違う柔らかさが感じられるようになってきました。春はもうすぐそこですね。第2回は一足早く春を写真に収めようと、満開の河津桜を撮影してきました。桜はカメラを手にしたときから撮り続けているのですが、未だに納得できる写真が撮れません。今回の「撮影ノート」、桜を被写体にいろいろな撮り方を試しながら、魅力的な表現を探ってみます。うまくいくかな。

( 写真/文 : A.Inden )

河津桜は静岡県賀茂郡河津町で毎年2月上旬から3月上旬にかけて咲く早咲きの桜です。駅のポスターなどで興味はあったのですが、今回初めて訪ねてみました。河津駅のすぐそばの川沿いにびっしりと色とりどりの屋台が並び、それは美味しそうな匂いに包まれていて気分もあがります。おっと、今日の主役は桜でしたね。屋台の物色は程々にして、桜を愛でに行きましょう。駅から川の上流に向かって約3.5km続く桜並木は、川の両岸を飾ったり、トンネルになったりと、場所により違った雰囲気を楽しませてくれます。

今日のお供はOLYMPUS E-P3に、ズームレンズ1本、単焦点レンズ2本。アクセサリは単焦点の開放撮影を考えてND8(光量減光フィルター)とステップアップリング。はじめは単焦点レンズを3本手に取ったのですが、人の多い場所では自由な撮影位置に動けないかもしれないと思って、1本をズームレンズにしました。カメラバックはどうしても桜色にしたかったので、普通のショルダーバッグにインナーを入れて使っています。スタートのセッティングは前回と同じく、感度はISO200(最低感度)、ホワイトバランスはデーライト(晴天)、モードは絞り優先(A)、画質はRAW+JPEG Fine、ストロボは発行禁止。桜団子片手に、いざ出発です。

太陽を背に、上流へ

桜並木に到着したのは11時過ぎ。北から南へ流れる河津川沿いの並木道なので、昼前後の時間帯は上流に向かって順光、下流に向かって逆光になります。撮影する時に考えるべき要素は色々ありますが、屋外にある桜を撮るなら「太陽の位置=光の方向性」が大事。せっかくなのでこの条件を生かして、順光と逆光で桜の表情がどう変わるかを試してみましょう。

被写体に真正面から光が当たる「順光」のメリットは、「被写体の色が綺麗に出ること」「空が青く写せること」です。ということは「青空に映えるピンクの桜」にチャレンジできるのが、このコンディションというわけですね。桜の色、草の緑、空の青さに白い雲。うまく色が出てくれました。

さて撮影時の太陽の位置(図1)とあわせて写真を見てみてください。順光撮影で気をつけるのは、真正面から光があたって立体感に乏しくなる事。そこで「影」を意識してみます。ほぼ太陽を背にしていますが、高い角度まで登っているので影は比較的短めに。この「影」が、立体感を生むわけです。

太陽の光は被写体と同じように自分に降り注いでいるはずですから、例えば手のひらを花びらに見立てて「影」を確認してみるのは良い方法ですね。被写体を見ればわかることなのですが、影のつき方を意識するだけで、写真がまた一歩おもしろくなってくると思います。

太陽に向かって、下流へ

桜団子につづいて桜餅、桜ソフトクリームと、舌と目で桜を楽しみながら約一時間で "河津いでゆ橋" に到着。ここから下流に向かう撮影では、太陽の位置は図2のように変わります。逆光では基本的に、被写体の光の当たっていない側(陰)を写すので、順光と同じように桜の色を出そうとすれば露出オーバーになるはずです。案の定、全体的に白っぽい写真になりました。でもこれ、失敗でしょうか? なんだか春らしい優しい光に包まれていると思いませんか?

逆光のメリットは「柔らかい光」と「ハイキーな表現」。順光のように素直にシャッターを切ればいいわけではない難しさはありますが、光そのものや空気感を表現していける面白さがあります。上の作例は、少し人の気配を感じさせようと思って階段を入れてみました。やさしい光に包まれた桜の下、中学生くらいのカップルが階段にいたら、淡い恋心を感じてしまいそうですね。

狙いに合わせて、露出を変えてみる

「順光/逆光」でイメージが違う写真が撮れることは、うまくお伝えできましたでしょうか。ではもう一歩進んで、同じ光の条件で露出を変えて撮影してみます。露出の話はまた別の機会にと考えていますが、今回は露出でずいぶんとイメージの違う写真になるというサワリだけでも、感じていただくとしましょう。どちらも、桜の向こうに太陽を見上げるような逆光のシチュエーションです。

まずハイキー(露出オーバー)な写真、露出補正は+3EVです。陰になっている桜の花に露出を合わせているため、暗い部分がほとんどない写真になりました。画面を斜めに走る黒い枝が少し気になり、できるだけ全体を桜色の世界にまとめてみたいと思って、前ボケで桜の花を重ねています。やり方は決して難しいものではなく、黒い枝が桜色になるように被写体を前に入れ、液晶を見ながら少しずつカメラを動かしていくだけ。ライブビューは、こういう時に便利ですね。逆光で露出オーバーなので青空は白くなり、白い紙に淡い調子で桜を描いたようなイメージなのですが、いかがでしょうか。

次はローキー(露出アンダー)な写真。光が透けている部分に露出を合わせているので、全体的に黒く、少し濁った発色になっています。被写体にもよりますが、深い色合いやシリアスな世界を表現するにはローキーが向いていますね。春らしく心おどるこれまでの写真から一転して、単純な "美しさ" だけではない桜の姿が、見るものに色々なことを考えさせます。ハイキーでは気になった枝が、ローキーでは逆に良いアクセントとなるのですから面白いものです。明るい背景に墨でスッと描くような、水墨画のような表現にチャレンジしてみたくなりました。

 

さて、なんとか第2回目をご用意できた「PY撮影ノート」、今回は「順光/逆光」に絞って光を考えてみました。「桜を撮るならこうしよう」というテクニックを示すものにはなりませんでしたが、光の方向を選ぶことで表現が変わってくるという点は、桜に限らず撮影のヒントになるのではないかと思います。同じ道でも行きと帰りでは違った写真が撮れる。こう考えるだけで、楽しくなってきませんか?

もうしばらくすれば日本列島を桜前線が北上していきます。一年に一度訪れるこのチャンスを、カメラ片手に楽しんでください。
次回のテーマは、やっぱり未定です。それでは。

( 2014.03.10 )

<参考情報>
河津桜まつり情報局

<使用機材>
カメラ: OLYMPUS E-P3 (後継モデルE-P5が発売されています)
レンズ: M.ZUIKO DIGITAL 12mm F2.0 / M.ZUIKO DIGITAL ED14-42mmF3.5-5.6 IIR / M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8
NDフィルター: Kenko 46mm PRO ND8
ステップアップリング: Kenko デジカメリング 37-46
バッグ: Stream Trail MARCHE DX-3 & インナーケース

<バックナンバー>
Vol.01: PHOTO YOKOHAMA 2014 -「写り込み」