PY撮影ノート vol.1

2009年に静かにオープンした「PHOTO YODOBASHI」(以下PY)。最初の頃は、満足できる写真が撮れずに試行錯誤の日々でした。「撮り直し」「再撮」「撮り足し」が乱舞するなか、当初はヘロヘロだった編集部員もだんだんと鍛えられ、少しは皆さんにお見せできるかなと思えるようになってきました。当然写真の撮り方のコツやポイントが徐々に蓄積されていきます。そこで皆さまの期待に添うべく(?)PY的テクニックコラムを連載したいと考えました。幸か不幸か担当は編集部で一番ユルい A.Inden。「写真は楽しく、無理なく」がモットーです。技術書のようにイチからテクニックを解説するのではなく(そもそもできませんが)、面白いイベント、撮影場所、美味しいお店などを紹介しながら、何を考え、どんなアイデアを使って撮影しているかを紹介していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

( 写真/文 : A.Inden )

ところで1月から3月にかけて横浜市内各所で開催されている「PHOTO YOKOHAMA 2014」をご存知でしょうか。商業写真の発祥の地といわれる横浜で、CP+を含む沢山のパートナーイベントで写真と町の魅力を伝えていこうという企画です。公式サイトを覗いてみると面白そうなイベントが沢山ありましたので、今回はその中で気になった写真展を訪ねてみることにします。ジャズの町になったり写真の町になったりと面白い町、横浜。さてどんな出会いがあるでしょうか。

今日のお供はNIKON D3200と単焦点レンズ3本。コンパクトなボディとレンズで、気分も軽やかなパッケージです。初めてカメラを手にした時に欠かせないのは、メニューを開いてセッティングをいじること。私たちの場合は機材がどのような設定になっているか理解し、そして機材本来の性能を見極めるという意味もあります。初期設定のまま使えば確かに失敗のない写真が撮れますが、その仕上がりはカメラメーカーによる画作りの結果です。例えて言うなら市販のカレールウのようなものでしょうか。各メーカー味付けも違って十分美味しいのですが、味のコントロールには限度があります。スパイスを調合して本格的に(筆者は最近挑戦して子どもに「美味しくない」と言われ玉砕しました)とは言いませんが、自分なりの好みを見つけていきたいですよね。カメラがどんな設定になっているか、ぜひ意識してみてください。次第に、設定による違いがわかってくると思います。

さて感度はISO100(最低感度)にして、ホワイトバランスはデーライト(晴天)、モードは絞り優先(A)、画質はRAW+JPEG Fine、ストロボは発行禁止。最後に、よく使う露出補正やAFポイントの切り替えボタンを確認。これで準備OKです。では出発。

「スティーブ・マッカリー」展へ

最初の目的地は、三渓園で開催されている「スティーブ・マッカリー」展です。展示されている点数は多くないですが、旧燈明寺本堂の中、ライティングで浮かび上がる写真は、被写体の持つ意味を何倍にも高め、心に直接訴えてきます。写真はイメージに合った見せ方がいかに大事かと、改めて考えさせられます。それにしてもよくお寺の中で展示できましたね。横浜という町が、いかに写真を大事にしているか分かります。

場の雰囲気を伝えたいとそのままデーライトで撮影。「デーライト撮影」というと難しい感じがしますが、普通に売られているカラーフィルムと考えてください。蛍光灯で撮るとグリーンに、白熱電球ではオレンジに、日陰ではブルーに写ります。フィルムを使っていた方にはごく自然ですし、同じ光なら同じように写ってくれるので、オートホワイトバランスよりも「目に見た光がどのように写るか」理解しやすいのではないかと思います。

さて上の写真では"歴史を感じさせる床の質感"を出すため、ライティングされた壁を「写り込み」として利用しています。「写り込み」はこれからよく使う言葉なので少し説明しておきます。被写体はすべて鏡のように反射角の風景が写り込むものだと考えてください。池に建物が写っている例を考えると分かりやすいですね。この「写り込み」を利用する事によって雰囲気や空気感を演出する事ができるのです。



奥の壁に照明があたって明るいことはお分かりになると思いますが、その壁の光が床に写り込んでぼんやりと明るくなっていますよね。見る角度によって光のあたり方も変わり、床の木目やエッジが際立ちます。これが一番いい具合のところを探して、シャッターを切っているのです。図を参考にしていただきたいのですが、奥の壁の光をうまく使うにはローアングルで構える必要がありました。長年にわたって磨きあげられた床がうまく表現され、歴史を感じさせると思うのですが、いかがでしょうか。

とても寒い日だったので暖をとりたいところですが、写真を・・・
火をオートで撮ると浅い(薄い)色になった経験はありませんか。それは露出オーバーになっているからです。火は人間の目には明るく見えますが、実際は暗い所でしか目立たない。暗い所で明るいものを撮るときは露出補正をマイナスにしてください。ここでは液晶で画像を確かめながら-3EVで撮影しています。火の表情がうまく出ましたね。

ここで満足せず、もうひとひねりしてみましょう。被写体は使い込まれた家財が美しい古民家。囲炉裏の周りの雰囲気を出すために、先ほど説明した「写り込み」を使ってみます。奥の床や囲炉裏の縁に明るい写り込みが入って、木に表情が出てきました。しかし単純に背景を明るくしてしまうと、湯気が見えなくなります。鉄瓶の背景は暗くなるように、扉に遮られて光が写り込まない角度を探しました。明暗差がはっきりとした「写り込み」によって、火も湯気も際立ち、建物の雰囲気も伝わる写真になったかと思います。明るいだけ・暗いだけの写真より、全体に広がりが感じられませんか。

「エリオット・アーウィット in YOKOHAMA」展へ

バスを降り桜木町から関内まで撮影をしながら、次の目的地「エリオット・アーウィット in YOKOHAMA」展に。アーウィットといえば"車のサイドミラーに写っている女性の写真"が有名ですが、計算されたユーモアのある被写体選びは、いつかこんな写真を撮ってみたいと憧れる大好きな作家の一人です。開催場所の「GALERIE PARIS」は明治44年に建てられた、日本で一番古いオフィスビル。建物のディテールが良い雰囲気なので、窓越しに写真展の会場を撮影してみました。曇っていたのでモノクロ、ロートーンで冬のヨーロッパのような空気感を狙います。もうお分かりだと思いますが、これも「写り込み」ですね。三渓園での撮影2点は被写体の質感を生かすために光の強弱を使っていますが、この写真では窓に写る風景や形あるものをぼかす事がポイント。表情のない窓ガラスに街の風景が写り込みますが、はっきりと写っていないことで見るものに色々なイメージを抱かせます。パリのイメージを思い描いてくれればしめたものなのですが、さてどうでしょうか。
もう1カット最後に合わせ技です。

ウインドウ越しに置かれたミニチュアのエクスプレス。さてどう「写り込み」を使っているかお分かりでしょうか。まず窓ガラスに写っている風景。列車の所は暗く、上に行くに従って少しずつ空を感じさせるように明るくし、背景に奥行きを生み出しています。列車の表現は、自動車を撮影する時のテクニックを応用してみました。車を撮影する時に一番気をつけるポイントは、金属の質感を表現しつつ、背景から浮き出してくるようにすること。そのため車のサイドに明るい景色を写り込ませ、少しアンダーに撮るのです。列車に対するアングルが少し下からなのは、列車への明るい写り込みを最大限利用するため。いかがでしょう、一枚の写真の中に込められた思いとアイデアを見抜いていただければ、撮り手としても嬉しい限りです。写真を見るとき「どうやって撮ったのかな」と考えてみるのも、楽しみかたのひとつに加えてみてください。見逃していた写真にも、新しい面白みを感じられることと思います。

 

さて第1回「PY撮影ノート」いかがでしたでしょうか。今回は写真の雰囲気作りに大事な「写り込み」について考えてみました。なかなか一度に理解は難しいかと思いますが、これからたびたび出てくるキーワードなので気楽に頭の片隅にでも置いてください。「写り込み」が面白いなと感じた方は、撮影時に少し考えてアングルを決めてみてください。いつもと違う写真が撮れると思います。そしてもっと写真が面白くなってくるはずです。ではテーマは未定な次回を、どうぞお楽しみに。

(2014.02.24)

<参考情報>
PHOTO YOKOHAMA 2014
三渓園(「スティーブ・マッカリー」展は2/26まで)
GALERIE PARIS(「エリオット・アーウィット in YOKOHAMA」展は終了)

<使用機材>
カメラ: Nikon D3200 (後継モデルD3300が発売されています)
レンズ: AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G / Ai AF Nikkor 35mm F2D / AF Nikkor 24mm F2.8
バッグ: DOMKE F-802 オリーブ