PY撮影ノート vol.5

暑くなってきましたね。ホームグランドの湘南では、そろそろTシャツと短パンが正装といったシーズンになります。「軽い装いに大きなカメラはちょっと・・・」と思われる方、性能が格段と良くなってきたコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)を持ち出してみるのはいかがでしょうか。きっと多くの方がはじめて手にするのはコンデジではないかと思いますが、「うまく撮れない」なんていう声もよく聞きます。今回の撮影ノート、コンデジでの撮影にチャレンジしてみます。

( 写真/文 : A.Inden )

はじめに答えを書いてしまうと、うまく撮れないというケースの多くは「ブレ」「ピント」「露出」の3点が原因です。コンデジは軽くて持ち運びに便利、そして手軽に撮れる事が良さですが、その手軽さがラフな操作に繋がっているのかもしれません。どれも写真撮影の基本ですが、この3点に気を使うだけでずいぶんと写真のレベルが上がると思います。ひとつひとつ、考えてみましょう。

 

機材は「コンパクト!」のカテゴリーを見て選びました。STANDARDからはCANON IXY 140、CREATIVEからはCANON PowerShot SX700 HS、HIGH-ENDからはLEICA X2。一般的なコンデジとしてCANONから2機種を選んでみましたが、どちらも十分な画素数を持ち、光学10倍以上のズームレンズを搭載。昔では考えられない高スペックですね。大きなセンサーを搭載したものもひとつと思って、APS-CサイズをLEICAから。若干趣味も入っていますが、ポケットが3つあれば持ち運べるトリオです。

手ブレを抑えるのが、第一歩

最近のコンデジはズームの倍率も大きく、気軽に望遠域に突入してしまいます。今回手にしたCANON PowerShot SX700 HSに至っては35mm判換算で750mm相当という超望遠。本来三脚を使うべき焦点距離なのですが、つい手持ちで撮ろうとしてしまいますよね。そして1000万画素・2000万画素はあたり前という高画素数のセンサー。ブレずに撮るのは難しいはずです。ブレを抑える一番の解決方法はもちろん、しっかりとした三脚を使うこと・・・でも、これは本末転倒ですね。

まずは撮る姿勢です。一眼レフのようにファインダーを覗くカメラなら必然的に脇が締まりますし、目(顔)もカメラを固定するポイントになりますが、コンデジは液晶を見るために腕を伸ばしがち。結構不安定な姿勢で撮っていると思います。脇をしっかりと締めましょう。銃を構えるイメージなんて言ったら、伝わりますでしょうか。

次に持ち方。脇が締まっていても、指でつまむような持ち方では意味がありません。できるだけカメラと手が接触する場所を増やして、しっかりホールディングしましょう。下の写真のように、左の指をL字型にするのがおすすめです。

左手の使いかたが違うのがわかりますでしょうか。右手の形が全く同じところに構え方の安定感が出ていますね(自画自賛)。ぜひお家でシャドーシューティングしてみてください。構えやすいやり方で良いと思います。それでは、撮影に出かけましょう。

まずは素直に撮ってみます。日中の屋外・広角から標準くらいの画角は、実はコンデジが一番得意とするシーンです。Pモードで、絞りもシャッタースピードもカメラ任せの撮影ですが、1/250にF9.0とブレる事もピントを外す事もない数値ですね。あたりまえ・・・そうです。光が十分に当たった被写体を選ぶというのは、うまく写真を撮るための基本なのです。

練習中怒られたのかな、うまくいかなかったのかな、がっくり肩を落として歩いていますね。かなり離れた場所から、一気にズームして撮影しました。35mm判換算で600mm相当ですので、ブレを防ぐためにシャッタースピードを稼ぎたいところです。撮影モードが選べるカメラだったら、自分はこんな場面でSモードではなくAモードを使います。絞りを開放にしておけば、必然的にシャッタースピードは一番高速になるというわけですね。スナップでブレを防ぐためにAモードで開放、お試しください。

ピントをしっかり合わせる

いざ撮るとなれば、必要になるのはピント合わせ。これが意外にうまくできないケースが多いと思います。ピントを外す一番の原因は、そもそも合わせたい場所にAFのポイントがないこと。例えば2人並んだ写真を撮るとき、ちょうど真ん中にあるフォーカスポイントが2人の間を抜けて背景にピントを合わせてしまう、なんていうケースがよくあります。あるいはせっかくピントが合ったのに、シャッターを切る瞬間にボタンから指が離れて、別のところにピントが合ってしまうなんていうことも。ちょっとしたことに気を使うだけで、解決できるはずです。

近年のコンデジは賢くなって、あまり考えなくても全面にピントを合わせようとしてくれます。ただしカメラ任せのAFでは、意図したところにピントが合うとは限りません。この作例は、カプチーノの泡にピントを合わせたいと思いました。普通の操作では「カプチーノが画面の中央に来るように構えてシャッターを半押しし、ピントを合わせたまま構図を変えてシャッターを切る」なんていう方法を取るのですが、構図を変えたときにピントがずれる事を理解していないと、ちょっとピンぼけな写真になってしまうことがあります。近くにある被写体ほどピントもシビアになりますから、余計に目立つはずです。

ではどうするか。基本的には「最初に構図を決めて、ピントを合わせたい場所にAFのポイントを移動して、ピントを合わせてシャッターを切る」という方法をおすすめします。少し面倒かもしれませんが、ピントの位置を考えながらじっくりと1枚の写真を撮るという行為そのものを、味わってほしいのです。最近のカメラは大抵AFポイントを動かせますし、中にはタッチパネルに対応しているものもあります。

ブルーのハートが浮かんでいるイメージで撮影しようと、絞りを開放にしてピントをできるだけ浅くしてみました。この作例のように写り込みがある条件では、思った位置にピントを合わせるのは難しいですね。いくらAFのポイントを置いてもそこが真っ白な壁や透明なガラスだったら、ピントは合ってはくれません。AFをうまく合わせるには、コントラストのある場所を選ぶのがコツ。例えばこの作例なら、ブルーのハートと白い布地の境目のあたりです。うっかりするとガラスに写り込んだ樹木にピントが合ってしまうので、うまくいかないときは何度かピントを合わせ直してみましょう。地道な作業は良い写真への近道です。

撮りたい明るさで撮る

ブレを抑えてピントをしっかり合わせたら、きちんと写真は撮れるはず。それでも「見たように撮れない」とか「イメージと違う」写りをしてしまうのは、きっと露出の問題です。

「露出」というのは専門用語ですが、要するに「どのぐらいの明るさで撮るか」ということです。奥の深いテーマですから、今回はあくまで簡単に「露出補正を使ってみよう」ということだけご紹介したいと思います。カメラのどこかに+と−が組み合わさったようなボタンがありませんか? 見つからなければ、カメラの説明書を読み返してみましょう。どこかに「露出補正」の方法が書いてあるはずです。液晶画面で確認しながら、この値を変えてみてください。+なら明るく、−なら暗くなってくるはずです。

猫のしっぽがゆらゆらとしていたので、テーブルに置いてあるカメラでさっと撮ってみました。構図を決めてピントを合わせたら、液晶モニタ上でも明るさが決まります。暗いと思うなら+に動かし、明るすぎると思うなら−に動かせばいいのです。やってみると、実に簡単なことなんですよね。「なぜ見えているように写らないんだろう」と難しいことは考えず、「目で見ているより暗いから明るくしてみよう」ぐらいの気持ちで調整してください。カメラが明るく写そうとする場面・暗く写そうとする場面は、経験的にわかってきます。

自分の感じた雰囲気を表現するためにも、露出補正を使うことができます。この草に覆われたボート、優しい色合いを表現したくて、画面を見ながらイメージした色になるように露出を決めました。結果として少しオーバー気味(=目で見たものより明るい状態)ですね。実際の被写体はもう少し濃い色でした。

例えばオーバー目なら軽く・やわらかく、アンダー目なら重く・シリアスに。液晶画面で確認しながら撮れるのですから、それほど難しく考える必要はありません。このあたりが自分で追い込めるようになると「これほんとにコンデジで撮ったの?」なんて言う写真を撮れるかもしれませんよ。

ポケットに入れてぶらぶらしているうちにいい時間になってきました。いつものバーで一杯ひっかけていくとしましょう。さて酔っ払う前に、もうひと仕事。光量の少ない店内はそのまま撮ってもうまく撮れませんし、フラッシュなんて焚いたら雰囲気が台無しです。フラッシュはオフにして、脇を締めてしっかりカメラをホールドしましょう。壁やテーブルに身体の一部をつけるのもいいですね。そうして構図を決めてピントを合わせたら、露出補正をマイナス方向へ。こんなシーンは、ブレ・ピント・露出補正のすべてが試される絶好の機会です。ひとつひとつ試してみてください。

 

コンデジというと初心者向きだとか簡単に撮れるイメージがありますが、実は撮影者の腕の差が顕著に出てくるカメラです。腕前といってもセンスや芸術性ということではありません。手ブレを抑える・ピントを合わせる・露出を合わせる、という基本的なことを確実に行うことが、結果に大きな違いを生むのです。このあたりを抑えると、昨今のコンデジは本当によく写ります。今回紹介したことはコンデジに限らず大事なことですから、身体が自然に意識するまで徹底してマスターしてください。それを踏まえたうえでいい写真を撮るには・・・この連載で色々なヒントをお伝えしたいと思っています。

ところで最後のワンカット、日付を入れて撮ってみました。個人的にこの機能、すごく好きなのです。
フイルム時代のコンパクトカメラには必ずついていた機能で、一昔前ならどのご家庭のアルバムにも日付の焼きこまれた写真が並んでいましたよね。日付を入れた写真を撮ると、きちんとプリントしてアルバムにしておきたくなります。色々とテクニックの話をしましたが、写真の楽しみの基本は忘れないようにしたいですね。

( 2014.06.12 )

<参考情報>
カプチーノをいただいたお店: 「Beach Muffin」
いつもの呑んだくれバー: 「ロックフィッシュ」

<使用機材>
カメラ: CANON IXY 140
カメラ: CANON PowerShot SX700 HS
カメラ: Leica X2

<バックナンバー>
Vol.01: PHOTO YOKOHAMA 2014 -「写り込み」
Vol.02: 河津桜 -「順光、逆光」
Vol.03: 「ピント」のお話
Vol.04: 街角スナップでおさらい