PY撮影ノート vol.3

三度目の正直、3回目にして初めてテクニック解説らしい記事になりそうです。「やっと気合いが入ったのか」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、実は実写レビューで手にした機材がこのテーマにぴったりだったのです。今回のテーマは「ピント」。基本的なことですから、もともと早い段階でお伝えしたいと考えていました。今回はおやつを我慢して、がんばります。

( 写真/文 : A.Inden )

どこにピントを置くかというのは悩ましいテーマです。上の作例は猫の強いまなざしを表現しようと、左目だけを狙ってピントを合わせました。シャッターを切ったときにはうまく撮れたと思ったのですが、改めて見てみると右側の椅子にもピントが合い、余計なところにも目が行ってしまう写真になりました。椅子のステッチが大きな意味を持つわけではありませんが、焦点が2つになればどうしても表現が弱くなってしまうものです。

なぜこうなったのでしょう。それは「ピントは点ではなく、面で合う」からです。

写真を撮るとき、ピントを合わせたい位置だけに集中していませんか? 今回の「PY撮影ノート」では、この「ピントが面で合う」事を掘り下げてみたいと思います。少し説明的なカットが続きますが、「下手な写真」と言わずにおつきあいください。

今日使用した機材はFUJIFILM X-T1、XF56mmF1.2 R。この組み合わせ、クラシックな佇まいがいいですね。三脚はVelbon Sherpa Active 2+Manfrotto 323(クイックシュー)。スナップにはあまり三脚を持っていかないのですが、どうしても必要と考えられるときはこの三脚を使用しています。理由は、たたむとカバンの底にぴったりと入るコンパクトな長さ、軽さ、ワンアクションで脚を伸ばせることです。また、素早く取り外しが出来るようにクイックシューを使っています。このスタイル、三脚を持ってないような軽快な感じで撮影ができます。セッティングは、感度はISO200(最低感度)、ホワイトバランスはデーライト(晴天)、モードはマニュアル(M)、画質はRAW+JPEG Fine。

ピントの面を確認してみよう

ピントが面で合うことをわかりやすく確認できるのは、本のように平面の物を撮影するときです。F1.2という明るいレンズを絞りを開いて使えば、ピントの合う範囲(被写界深度)は大変に薄くなりますから、ピント面を確認するにはうってつけのはず。きちんと三脚を使って、撮影してみましょう。

正確な面のイメージを作るため、カメラを真ん中の黄色い本と平行に構えています。絞り開放でも文字は上から下までピントがきていますね。しかしそれ以外は面の中に入っていないためピントがきていません。(図1参照)

アングルやピント位置を変えずに、この面に被写体を置いてみましょう。手前にボケて写っているクラシックカメラを、黄色い本の隣に動かしてみます。

写真集とクラシックカメラにピントが合い、写真が好きな人の机だと言う雰囲気が伝わりやすくなりましたね。ピント面に対してすこし斜めに置いているので、右のダイヤルにはピントが来ていますが左のダイヤルはボケています。(図2参照)

さて次は机を上から見下ろすようにカメラを構えてみましょう。被写体に対してアングルがついてくると、面を意識することの意味がでてきます。

黄色い本との平行が崩れたので、文字の一部にしかピントが合っていません。また意図とは関係なく白い本の一部にピントが合ってきました。クラシックカメラもピントが合う面から外れました。(図3参照)

こちらの角度のほうが「机の上」という雰囲気が伝わりますし、クラシックカメラも「カメラらしく」見えると思います。しかしピントが来ていないのは少し気持ちが悪いので、クラシックカメラを手前に動かしてみましょう。

うまくカメラにもピントが合って、収まりのよい写真になりました。黄色い本の文字・白い本の文字・クラシックカメラの間にピントの面を感じられますでしょうか。

ピント面を意識して撮ってみる

ご覧いただいたように、ピントは面で合います。そしてその面は、カメラ(厳密に言えばフィルムやセンサーの面)と平行しています。これをしっかり理解しておけば、ボケがほしいときにも、きちんとピントを合わせたいときにも、被写体に対してカメラをどのような向きに向けるべきか、わかるはずです。いくつか実践してみましょう。

レンズ開放の優しい描写を生かして小物を撮ってみました。テーブルフォトの場合は小物を動かす事が可能なので、まず一番見せたい籠にピントを合わせ、陶器、コップはピントが合う面を意識しながら配置しています。実は面を意識する一番大事な所がここなのです。置いてある物にピントを合わせるのではなく、合う場所に移動させる。どうでしょうか、小物3点を浅いピントで見せる事が出来ましたね。テーブルフォトを撮る時など、頭の中に面のイメージが入っていると、少し動かしただけで合わせたい所にピントがくるのです。一点にしかピントが合ってない場合より、その場の雰囲気が伝わりやすくなりますね。

この車の特徴はポールスミスのマークとグレートブリテン島の形をしたグリーンのマーク。この特徴が際立つように浅いピントで撮影しています。動かせない被写体の場合は面を意識してカメラアングルを決めてください。マークが同じ面の中に入れば二つともピントが合ってきます。この写真ではマークを際立たせる事が目的のため、斜めから構えて車をぼかしていますが、車の真正面から構えても二つのマークにピントを合わせる事は出来ます。例えばラリーで走った後の泥跳ねがグリルについていたら、真正面からの方が状況の雰囲気が出ますね。

 

さて、慣れない事に頭を使ったので大好きなホットラムを夕日の中で一杯。沖縄で買ってきた日月のペーパーウエイトを肴にいただきましょう。どこに薄いピント面があるのか、もうお分かりになりますよね。

今回は「ピントの面」を考えてみました。開放で撮影する時、できるだけぼかしたい気持ちはあると思います。ただ単純にぼかすのではなく面を考える事によって、写真の中にうまくピントの合った被写体を配置し、その場の雰囲気を閉じ込める事ができるのです。普段何気なくやっている事も少し考える事で、何倍にも意味深くなっていきます。写真の世界は本当に面白いですね。

次回はホームグラウンドの江の電周辺を、最近思い切って購入したX-Pro1を持って散策してくるつもりです。
さてどんなテーマになる事でしょうか。

( 2014.04.01 )

<参考情報>
ホットラムのレシピ: マイヤーズラム(オリジナルダーク) ダブルくらい + お湯 適量 + クローブ 適量
ガラスのペーパーウエイト: 日月

<使用機材>
カメラ: FUJIFILM X-T1
レンズ: XF56mm F1.2 R
三脚: Velbon Sherpa Active 2 / Manfrotto 323 [長方形プレートアダプター]
バッグ: DOMKE F-802 オリーブ

<バックナンバー>
Vol.01: PHOTO YOKOHAMA 2014 -「写り込み」
Vol.02: 河津桜 -「順光、逆光」