PY撮影ノート Vol.08 リュックにカメラを詰め込んで

この連載も気がつけば8回になりました。八は末広がり、さらに加速していきたいですね。これまでPY撮影ノートで考えてきた「写り込み」「ピント」「露出」「色」。この4つの基本をマスターする事は、写真を面白くする一歩だと思います。ただ堅い話ばかり続いては面白くありませんし、テクニックを覚えたら写真を撮りに出かけるのが第一だと思います。今回は復習も兼ねて、少し遠くまで撮影旅行に出かけてみましょう。

( 写真/文 : A.Inden )

「旅に出る」というだけで心が踊りますよね。いつも過ごしている町から離れ、流れていく景色を見ているうちに、気分はいつしか非日常へ。知らない町を訪ねると色々なものが新鮮に見えてきて、シャッターの数も自然と多くなるものです。ところでいざ旅に出ようと思ったとき、目的地はどんな風に決めているでしょうか。どこかで見た写真、誰かの土産話、歌や小説の舞台など、きっかけは些細なものでよいのではないかと思います。今回は、雑誌を見て気になっていた三重県伊勢市のとある場所を目指して、旅をスタートすることにしました。

長時間歩く事と、両手を自由に使えるよう、機材はリュックひとつにまとめました。

  1. FUJIFILM X-Pro1、XF35mmF1.4 R、XC50-230mm F4.5-6.7 OIS
  2. PENTAX Q-S1、02 STANDARD ZOOM、06 TELEPHOTO ZOOM
  3. Leica M (Typ240)、Planar T* 50mm F2.0 ZM
  4. Velbon Sherpa Active 2
  5. CRUMPLER KO2001-G1213A
  6. DOMKE F-10
  7. Apple iPad mini
  8. MOLESKINE QP513
  9. B&O イヤフォン
  10. USB充電器
  11. SDカードケース(12枚入り)

ちょっとカメラが多いですね。筆者の場合、撮影旅行の荷物は(機材以外は)大体こんな感じです。泊まりの時は、小さなバッグも持っていくと便利です。

 

松阪市で途中下車

JRは片道100kmを超える乗車券は途中下車ができます。車中、携帯でいろいろ調べてみると手前にある松阪市の駅周辺がおもしろそう。TVタイトルをまねて「ぶらり途中下車の旅」というわけです。さて初めての町には何が待っているのでしょう。

松阪牛で有名な町だけあって、至る所にA5(肉の品質)の看板が並んでいました。到着時間を昼頃にして本場で松坂牛もよかったなと思いつつ駅から松阪城跡に向かって歩くと、三井家発祥の地・松阪商人の館・本居宣長旧宅などが綺麗に整備された町並みに点在しています。そして歴史ある町だけあって素晴らしい枝振りの松が随所に見られます。この第一印象を大事にしたいと、松の枝を前景にして、長い塀と瓦屋根が印象的な長谷川邸を撮影。露出は青空をスポット測光で測り、日陰になる松の枝や建物をアンダーにし、端正な建物のラインを強調してみました。ピントはきりっとした印象になるように絞っています。センサーサイズの小さいカメラのメリットは少し絞るとパンフォーカスになる事ですから、F5.6でも十分に目的を果たせるのですね。長谷川邸は普段は中に入る事ができませんが、松阪もめんフェスティバルにあわせて10/13に特別公開されるそうです。

懐かしい形のポストが現役で使われています。こういう細かなところまで気遣って古い町並みが保存されているのを見ると、うれしくなってしまいますね。何度も上塗りされた赤いペンキの質感、手前の少し歪んだ窓ガラスの表情を出すため写り込みを意識しながらアングルを決めてみました。存在感を出すため、露出は日陰にあるポストを測って町並みをオーバーにしています。

松坂はその町の一角が、古い時代の雰囲気を損なわないようにきちんと整備されています。写真を撮る時に写り込みを意識される方は、この状態がいかに撮影しやすいかお分かりですね。窓ガラス等に写った風景も写真の一部として利用でき、写真に奥深さが出てきます。上の写真はお店の中に置いてある花を撮影したものですが、ガラスに写り込む道路が面白い効果を生んでくれました。道路にラインがあったりガードレールがあると、ここまですっきりとはまとまらないものです。さて電車2本分約2時間の散策でしたが、初めての町は面白いものですね。

 

伊勢神宮へ

昨年、20年に1度の神宮式年遷宮が行われた伊勢神宮。伊勢には何度か行った事があるのですが、実は伊勢神宮は初めてでした。広大な敷地をイメージしていたのですが、外宮・内宮あわせても2-3時間で回れそうです。内宮前にある赤福で氷を食べてから、お伊勢参りに向かいましょう。

神社仏閣で撮影する一番の注意点は「ルールを守る」という事です。決まり事はそれぞれ違うので、受付・案内所などで確認すると良いと思います。伊勢神宮は撮影禁止場所には立て札が立っていて、撮影可否が明確にわかるのはありがたいですね。気持ちよく撮影できるという事はとても大切ですから、このルールが変わらずに済むよう撮影禁止場所ではカメラをバックにしまう、手から離すなどさりげなく気配りをしたいものです。上の写真は緑に囲まれた神宮を感じさせるように撮影してみました。水面の写り込みで緑を、露出をアンダーにして写り込みと柄杓の濡れた部分を強調しています。参拝者が今まさに柄杓を使い終えたというライブ感が伝わりますでしょうか。

夫婦こんな感じで末永く暮らしていきたいものですね。伊勢神宮は世代を超えて人気の場所、沢山の方が訪れています。メインの参道は人で溢れかえっているのですが、少し離れたところは人もまばらでゆったりと時間が流れています。お昼時の上から降り注ぐ光が、木の陰と橋のコントラストを作り出していました。光と影をさらに強調するため、スポット測光で橋の明るい部分を測っています。この雰囲気にぴったりのご夫婦が通ったところで、すかさずシャッターを切りました。撮影意図が決まってあと少しのアクセントを待つ時は、露出をマニュアルにして待つと良いと思います。露出オートの場合、特にスポット測光では、カメラアングルが少し変わるだけで大きく露出が変わる事があるからです。方法は簡単、まず一枚撮ってみてカメラの再生で確認、露出が思った通りであれば、その通りに絞りとシャッタースピードを設定すればよいのです。

 

伊勢市を巡る

内宮前の「おかげ横丁」は、江戸から明治にかけての建物を再現したテーマパークのような町並みですが、観光客で賑わっていて楽しい世界です。反面すこし喧騒を離れると、生活に密着した路地裏やゆったりと流れる川、昭和の雰囲気を漂わせるお店など、撮影したくなるポイントが随所に見つかる面白い町でした。

伊勢市駅から参道に入ってすぐの店「若草堂」。なかなかに年季の入った外観で、時間帯のせいか店内には誰もおらず、ゆっくりと一休みを楽しむことができました。注文したのは伊勢うどん。ぶれないようにISO800で絞り開放、WBをデーライトにして、更にイエローとレッドを少し加えてレトロな雰囲気で撮影してみました。センサーが小さなカメラなのでお店の雰囲気を残しつつ、よい感じに背景がボケてくれています。麺が極太でフワフワした食感の伊勢うどん、元々参拝客のために用意されたものだそうですが、なかなか病み付きになる味で1泊2日の滞在中に3回も食べてしまいました。

さてホテルに到着して荷物をおろしたら、夜用の黒ドンケ(撮影機材6)にライカを入れて、いざ旅の目的の店を目指します。お店の周辺をiPad miniで確認すると川に沿って古い町並みがありそうですから、およそ20分程度の距離、ぶらぶらと散策しながら向かってみます。勢田川に沿ってのびる道の周りには、丁寧に使われた民家に混じって古い建物や倉を改築したお店が点在しています。伊勢神宮から見ると駅の反対側にあたる地域なので観光客があまり来ないと思いますが、生活に密着した面白い被写体の宝庫で、カメラを片手にぶらりと散歩するには最高だと思います。上の写真、西日が強く当たっている建物が川に写り込んでいますね。そのままでも画になる風景ですが、お店のオープンまで時間もある事なので、露出をマニュアルに固定して少し待ってみる事に。川風を楽しんでいたらいい感じに自転車が走ってくれました。

開店と同時に旅の目的の店「虎丸」へ。倉を改装したお店は天井も高く居心地の良い空間、お店の人の佇まいも素敵で期待に胸が高鳴ります。撮影旅行では予備知識なくフラッと店にはいる事が多いのですが、入った時にほんの少し緊張感を感じられるお店は外れる事がないですね。日本酒は伊勢市と三重県がメインの品揃え、壁に貼ってあるお品書きも魚を中心としたものが多く目移りしてしまいます。まず純米冷やでさんまを軽く酢で締めたものを注文。お店の人に「写真撮って良いですか」と断って、器を少し回しながら、さんまがきらっと光るところで撮影しました。WBはお店の雰囲気を生かすためデーライトで、絞りは締めたさんまがボケすぎないように少し絞めて(笑)います。あとはお酒を熱燗にして、サバの塩辛(初めて食べましたが絶品です)、キュウリの唐揚げ(コロンブスの卵ですね)・・・最後にさんまのお寿司を。実にいいお店で、はるばる訪ねてきた甲斐がありました。

 

気になった一軒のお店を訪ねる旅。旅の目的はいろいろあると思いますが、こんな撮影旅行も素敵かなと思って実行してみました。実は日本中に気になるお店があるので、こんな企画でも面白く感じてくれる方がいれば、またふらっと出かけてみたいと思います。復習というより旅を満喫してしまったPY撮影ノートですが、筆者は楽しませていただきました。

さて最後のワンカット、伊勢市の若草堂で注文をした後に「暑いでしょ」とお店の方が回してくれた扇風機です。ちょっとした一言が旅のアクセント、そんな暖かさを忘れないようにシャッターを切りました。ISOを上げてコントラスト強調し少しオーバーに撮影してみましたが、緊張感が解けた雰囲気が感じられませんか。旅のひとコマひとコマにシャッターを切っておくと、その時に感じた気分まで蘇ってくるようで楽しいですね。今度のお休みにはカメラを持って、ぶらりと旅に出てみるのはいかがでしょうか。

( 2014.10.01 )

<参考情報>
メモ帳:MOLESKINE モレスキン QP513 ブラック ハード 無地 ポケット

「若草堂」三重県伊勢市本町5-1
昭和の香り漂う食堂で、朝6:30から営業しています。朝一の外宮撮影の後にいかがですか。

「虎丸」三重県伊勢市河崎2-13-6
訪ねられる方は是非ご予約を。平日でしたが開店と同時に予約でいっぱいでした。

<使用機材>
PENTAX Q-S1 / PENTAX 02 STANDARD ZOOM
FUJIFILM X-Pro1 / XC50-230mm F4.5-6.7 OIS
Leica M (Typ240) / Carl Zeiss Planar T* 50mm F2.0 ZM
カメラバッグ:CRUMPLER KO2001-G1213A / DOMKE F-10

<バックナンバー>
Vol.01: PHOTO YOKOHAMA 2014 -「写り込み」
Vol.02: 河津桜 -「順光、逆光」
Vol.03: 「ピント」のお話
Vol.04: 街角スナップでおさらい
Vol.05: コンパクトデジタルカメラ
Vol.06: 露出の基本
Vol.07: ホワイトバランスと色の話