PY撮影ノート Vol.17 レンズを味わう

FUJIFILM X-Pro2, FUJINON XF35mm F1.4 R, Photo by A.Inden

祝!フォトヨドバシ書籍化。ここ数ヶ月は「極秘プロジェクト進行中」といった日々でしたが、無事に発売されてほっとしています。
(決して撮影ノートの原稿が進まなかった言い訳ではありません)

この書籍化を通して、様々なレンズで撮影できるという幸運に恵まれました。「最近のレンズはどれも優秀で、面白みがない」なんて固定観念もあったのですが、使ってみればそんなことはありません。料理のしかた次第で「いい味を出すんだなー」なんて、改めて色々な発見がありました。ここでいう面白み、いわゆる「レンズの味」なんて言われるものですが、人によってはなかなかピンとこないものではないでしょうか。突き詰めると難しいのですが、今回はひとつ「レンズの味」というテーマにチャレンジしてみましょう。

( 写真 / 文 : A.Inden )

FUJIFILM X-Pro2, FUJINON XF35mm F1.4 R, Photo by A.Inden

レンズの味とは

これまで「どのように撮るか」をテーマにしてきましたが、撮影者の腕前とは別のこととして「レンズがどのように描写してくれるか」というのも、やはり大事なポイントだと思います。同じ焦点距離のレンズを同じ絞りで撮ったとしても、描写は違うのですね。そんなレンズの個性を「味」という一言にまとめてしまうのが日本語の豊かさなのですが、その意味するところも、感覚的な話だったり、技術的な話だったりと様々です。今回は筆者の独断とご理解いただいて、レンズの味を「良い悪いも含めたレンズの個性で、写真表現に生かせるもの」と定義してみます。

PHOTO YODOBASHI

今回、焦点距離35mmのレンズからいくつか選んでみました。左から、 デジタル時代に生まれたFUJINON XF35mm F1.4 R
旧いLeitz(ライカ)Summaron 3.5cm F3.5
フィルム時代のCarl Zeiss Biogon T* 35mm F2 ZM
です。生まれた時代も異なり明らかに描写が異なると考えられる3本ですから、同じ条件で撮り比べることで「レンズの味」のようなものが見つかるのではないか、というわけです。

PHOTO YODOBASHI

逆光・露出オーバー・絞り開放

レンズの描写の差が出やすいのは「逆光・露出オーバー・絞り開放」。乱暴な言い方ですが、それは「逆光耐性(コーティング)・階調表現・残存収差(レンズ構成)」をテストすることができるからです。実際のところレンズの描写は、設計・ガラス素材・コーティング等の要素が絡んでくるのですが、難しいことを考えるよりも撮って確認するのがいいでしょう。

PHOTO YODOBASHI

実際に3本のレンズで撮り比べてみました。絞りは一番開放値の暗いレンズに合わせてF3.5にしています。開放がF3.5のレンズと、F1.4やF2のレンズをF3.5まで絞ったものではその時点で条件が違ってしまいますが、描写に違いがあり過ぎると逆に「味」の部分が判らなくなってしまうので、敢えてこうしました。並べてみると違いが歴然ですね。あまりの違いに何度もデータを確認したほどです。

感じ方は人それぞれ。どのポイントを重視するかも人によって違うでしょうし、余計な先入観なく写真を眺めてみてほしいと思います。
そんな前提のうえで筆者の感想を言葉にするなら、
左:画面全体で均質な描写。全体にハレーションを起こした感じが面白い。
中:クリアーで線の細い描写。ボケ味も自然で背景の崩れも感じない。
右:解像感は高くないけど立体感がある。後ろの椅子のボケが一番大きい。
となります。ちなみに一番左、Summaronはシリアルから調べると1951年製(なんと65年前!)ですが、オリジナルのコーティングが施されたものです。

順光・露出アンダー・F5.6

PHOTO YODOBASHI

先ほどとは逆の条件で撮ってみました。すなわち順光でコーティングの逆光耐性が図りにくくなり、露出アンダーでハイライト部分が出にくくなり、F5.6まで絞ることでレンズ性能が格段に良くなるはずなので、レンズの違いも分かりづらくなるはずです。敢えてレンズ名を記載していないので、どのレンズで撮ったものか想像してみてください。

難しいですね。実際撮るまではもう少し差が出ると思っていたのですが、小さい画像ではほとんど差がわからないかもしれません。

一番上の画像は全体に線が細く黒が締まった印象です。一言で表現すると「キリッとした描写」でしょうか。二番目は他の写真より手前の信号機の存在感を強く感じます。背景のビルが少しボケていて、距離感・立体感があるからでしょうか。湿気が少ない快晴の天気なのに「空気感を感じる描写」ですね。三番目は少しコントラストが低いのですが、それが幸いしてか全てを平等に写し出している印象。「自然な描写」と言ってもいいでしょうか。

この解説からなんとなく想像できると思いますが、レンズは上から FUJINON XF 35mm F1.4 R
Carl Zeiss Biogon T* 35mm F2 ZM
Leitz Summaron 3.5cm F3.5
です。

レンズの味を利用してみる

さて、3本のレンズの個性が感じられましたでしょうか。たった2つのパターンではピンとこないかもしれませんが、どのレンズにもそれぞれの味があります。さてこの味をうまく使いこなして写真を撮ってみたいと思います。使用レンズのデータは最後にまとめて掲載いたしますが、写真下のキャプションは筆者が写真を撮ったときのイメージです。では想像を膨らませながらお楽しみください。

PHOTO YODOBASHI

ペンキが剥げかかった滑り台の階段。ここに登るたびに懐かしい気持ちになります。

PHOTO YODOBASHI

都会の残照。画面上の被写体のディテールを細部まで写し出すことで、都会のクールさを。

PHOTO YODOBASHI

なぜか一枚だけピンクのビブス。その一枚が気になって、色々な想像が膨らみました。

PHOTO YODOBASHI

ありふれた日常生活、それが一番の幸せかなと思います。画も誇張せずサラッと表現してみました。

PHOTO YODOBASHI

花壇で咲いている花を一輪クローズアップで。梅雨の晴れ間の爽やかな空気が感じられました。

PHOTO YODOBASHI

梅雨の晴れ間の誰もいないコート。まだ少し湿気を感じますが、もうすぐ夏ですね。

PHOTO YODOBASHI

焦点距離が同じレンズでも「味」を考えて撮ることで、様々な表情を見せてくれます。面白いですよね。さて「絵画の雰囲気から学ぶ」「らしい光」でも書いてきましたが、写真を撮る楽しみのひとつは「被写体から感じるものを自分のイメージ通りに仕上げていくこと」だと思います。そのためにカメラの設定を選び、光を考えるということは基本ですが、その少し上に「レンズの味」を利用するというステージがあります。レンズは交換するだけでも面白いものですが、せっかくなら味わい尽くしてみてください。お手持ちのレンズも「味」という観点で見なおしてみると、いくつもの新しい顔を見せてくれると思います。その上で、もし別の味を楽しみたくなったら・・・レンズの沼をそっと覗いてみましょう。案内人はフォトヨドバシの完全レビューブック。誓ってみなさんを引きずり込もうというわけではないのですが。



( 2016.07.19 )

<使用機材>
カメラ:FUJIFILM X-Pro 2
レンズ:FUJINON XF35mm F1.4 R / Carl Zeiss Biogon T* 35mm F2.0 ZM / Leitz Summaron 3.5cm F3.5
マウントアダプター:フジフイルム M マウントアダプター / METABONES L39 to M (35/135)

<バックナンバー>
Vol.01: PHOTO YOKOHAMA 2014 -「写り込み」
Vol.02: 河津桜 -「順光、逆光」
Vol.03: 「ピント」のお話
Vol.04: 街角スナップでおさらい
Vol.05: コンパクトデジタルカメラ
Vol.06: 露出の基本
Vol.07: ホワイトバランスと色の話
Vol.08: リュックにカメラを詰め込んで
Vol.09: 運動会撮影にチャレンジ
Vol.10: 被写体までは何センチ? - 「距離感」
Vol.11: トリミングという“テクニック”
Vol.12: シーンセレクトから学ぶ
Vol.13: 家族旅行でスナップを
Vol.14: 絵画の雰囲気から学ぶ
Vol.15: フィルム撮影の楽しみ
Vol.16: らしい光 〜 四季篇