PY撮影ノート Vol.13 家族旅行でスナップを

新しい機材が欲しいけど、言い出せない。スナップに出かけたいけど一人では家族の目が怖い・・・よくある話ですよね。家族の理解を得るために大切なのは、自分だけが楽しまずに皆を巻き込んでしまうこと。そのうえで写真の趣味を共有できたら、きっと財布の紐も緩むはず・・・心おきなく写真を楽しむためにも、皆と一緒に旅行に出かけてしまうのはどうでしょうか。今回の撮影ノートは、そんなふうに企画した家族と一緒の撮影旅行を紹介してみたいと思います。大きなテーマはありませんが、撮影場所や機材選び、撮影のポイントなど、細かなヒントを散りばめたつもりです。とはいえあまりかしこまらず、ゆる〜い気分でお楽しみください。

( 写真 / 文 : A.Inden )

大事なことは無理なスケジュールを組まないこと。撮影を考えるといろいろな場所に行きたくなりますが、そこはぐっと我慢して、家族が楽しんでいる合間に撮影を楽しむという気持ちが大事です。おすすめは滞在型リゾートホテルに宿泊し、ホテルに着くまでと、その周辺で被写体を探すこと。行程は2泊3日、場所は沖縄です。春の沖縄は暑くもなく過ごしやすい陽気で、ツアーの料金も安く、ホテルも比較的空いていてゆっくりと過ごせました。少しシーズンを外すというのも、賢く遊ぶためのポイントですね。

その町の雰囲気を探しに

まずは沖縄らしさを感じに「牧志公設市場」へ。移動に使った「ゆいレール」では、短い時間ながら高い視点から那覇の街並みを眺めることができ、旅の気分も高まります。県庁前駅で降りたら、国際通りをぶらぶらと歩きながら市場へ。中は色とりどりの魚、元気すぎて水槽から飛び出る海老、豚の顔等普段あまり見慣れない食材がチャンプルー(沖縄方言で混ぜこぜにした)な感じで並んでいます。面白いのは、気に入った食材を2階の食堂ですぐに調理してもらい食べられること。一人だと沢山は食べられないですが、家族ならいろいろな食材が楽しめますね。

色とりどりのドレスが並んでいる狭いお店でお孫さんと買い物を楽しむ「おばあ」。真ん中の人物に目線を誘導しようと、広角でパースをつけ狭い通路を強調。他の要素を入れないように服と人物だけの切り取り方をしてみました。色鮮やかな南国に白黒しか撮れないカメラを持っていく、その心は・・・単に使いたかったのです。

もちろんカラーを撮れるカメラも持っていきますからね。アオブダイ、初めて見たときは「食べられるの?」と思いましたが、淡白な白身は泡盛に合います。色の面白さを表現しようと、余計なものは入れずに寄って撮影。この色と質感の表現力はさすがフォビオンです。

路地に無造作に置かれている花にまとわりつく、アジア独特の湿気を含んだ空気感。フォビオンセンサーを持っているとどうしてもこんな条件の被写体に目がいきます。花が包まれたセロファンのテカリに気をつけながらアングルを決めました。

ビーチで過ごす時間

バスケット好きの我が家、ホテルのチェックイン時間まで北谷にあるアラハビーチで過ごします。北谷町は米軍基地がすぐ近くにある関係で、街全体がアメリカという雰囲気です。イースターのこの時期、ビーチも町のカフェも人であふれていました。海沿いの青空でスカッと抜けた風景を撮影するか、社会派になって沖縄を切り取るか。あまり広くない地域にさまざまな被写体があふれ、お勧めの撮影スポットです。

南の島らしい上からの太陽を表現しようと、人物の影を考えながら撮影しています。影の長さ、強さは撮影場所と季節を表現する大事な要素です。普段から影を観察し、意識して撮影することで写真の幅を広げられます。

アメリカでネガフィルムを使って撮影された「ニューカラー」と呼ばれた写真を意識して撮影。少し黄色味を足して現像することで、アメリカ本国でプリントされた写真の雰囲気に近づけてみました。

広大な駐車場に雑然と並ぶイエローのバス。前ボケにフェンスと枯れ草を入れ少しアンダーに撮ることで、アメリカとの距離感を表現してみたつもりですが、伝わるでしょうか。

滞在するホテルこそ、被写体の宝庫

チェックイン時間に合わせて読谷にある「アリビラ」に到着しました。ウージー畑に囲まれポツンとあるこのホテルのよさは、西側に180度開けたニライビーチ。夕日が最高なのはもちろん、自然のまま残されたビーチは遠浅で1日2回大きく表情を変えます。今回の旅行は大潮のタイミングに重なったので、ずっと沖の方まで歩いていくことができました。磯だまりにはコバルトスズメ、クマノミ、ハコフグ、ハリセンボンなどがいて透明度も高く、水中カメラがあれば簡単に撮影することができます。家族がアクティビティーで楽しんでいる間は自由時間。カメラを持ってゆったりとホテル内を散策です。

まだ誰も泳いでいないプール。時折吹く気持ちのいい風を表現しようとプールサイドの写り込みを利用して撮影。少しオーバーにすることで、爽やかな朝の光を表現してみました。

手をつないで歩く親子の長い影が印象的です。色のないモノクロの撮影ですが、長くて強い影で夕暮れを感じさせています。

崖の上で一人たたずむ男性。アンダーにすることで緑をシルエットにして、白とブルーのシンプルな世界を創ってみました。人に目が行くように、いい塩梅の雲が流れてくる瞬間がシャッターチャンスでした。

その土地の仕事に触れる

ホテルのある読谷村には多くの窯元が点在しています。特に「ヤチムンの里」には多くの窯元が集まっており、沖縄らしい風景の中で器が作られていく様子を見ることができます。赤瓦の建物、売店で寝る猫、さりげなく置かれた小物等、魅力的な被写体にあふれていました。開放的な工房は被写体として魅力的なので、つい許可なく撮影してしまいそうですが、最近は観光スポットでも「撮影お断り」の看板が増えてきました。「撮りたい」と思った時には、一声かけて撮影するのがマナーですね。気に入った器が見つかったら「旅の思い出は器」、そんな気持ちで一つ持ち帰ってみてはいかがですか。

開け放された窓、抜けに見える緑。ヤチムンの里には自然と一体化したような建物が点在しています。広角で背景の様子がわかるようにボケ味をコントロールしながら、まだ火が入る前の陶器の質感を狙ってみました。

直売所の棚に堂々と寝ている猫。あまりの可愛らしさに寄ってみました。写真を見返すと、前ボケに手前の器を入れたほうが状況を説明でき、更に面白さが増したかもしれません。

水盆のように使われた読谷焼と、そこに生けられたハイビスカスと草花。水の中から浮き出るよう見せるため、フィルムモードをビビッド(コントラストと彩度が高め)、露出を少しアンダーにしています。ビビッドで撮ると鮮やかになりすぎるのですが露出を切り詰める事でバランスをとっています。

家族旅行最終日。下調べもなくまったくの偶然でしたが、皆既月食に出会うことができました。ISO感度をあげて手持ちで家族と見上げながら撮った月食。記念写真の域を出ない写真ですが、さりげない記録が家族のいい思い出になると思います。家族で時間と場所を共有しながらの撮影旅行。家に帰ってからは、スライドショーでもう一度盛り上がりましょう。「これいい写真だね」の一言が出れば、最高ですね。

( 2015.05.15 )

<使用機材>
ボディ:SIGMA dp3 Quattro / Leica M Monochrom / Leica T
レンズ:Carl Zeiss Biogon T* 28mm f2.8 ZM / Carl Zeiss Planar T* 50mm f2.0 ZM

<バックナンバー>
Vol.01: PHOTO YOKOHAMA 2014 -「写り込み」
Vol.02: 河津桜 -「順光、逆光」
Vol.03: 「ピント」のお話
Vol.04: 街角スナップでおさらい
Vol.05: コンパクトデジタルカメラ
Vol.06: 露出の基本
Vol.07: ホワイトバランスと色の話
Vol.08: リュックにカメラを詰め込んで
Vol.09: 運動会撮影にチャレンジ
Vol.10: 被写体までは何センチ? - 「距離感」
Vol.11: トリミングという“テクニック”
Vol.12: シーンセレクトから学ぶ