PY撮影ノート Vol.11 トリミングという“テクニック”

紅葉の季節ですね。今回は紅葉の撮り方をと思ったのですが、基本は桜の撮り方と同じで「色を出すには順光で、影で立体感を出す」こと。ピークは西へと移りつつありますが、復習をかねて撮影ノートVol.2を見ていただき、続いてインターネットで紅葉のタイミングと場所を決定、カメラで紅葉狩りに出かけてみてください。今回は、前回に引き続いて構図の話を掘り下げてみたいと思います。

( 写真/文 : A.Inden )

最近、新聞で見かけた書評に惹かれて「ブルーノート・レコード―妥協なき表現の軌跡」を手に入れました。各レコードの解説がなされているのはもちろん、興味深いのは35mm・6x6のフォーマットのコンタクトシートが並び、プレイヤーの自然な仕草、そして、どうトリミングしてジャケットに仕上げているかがわかることです。自宅にある写真集をめくってみると「Looking In Robert Frank’s The Americans」にもコンタクトシートとトリミングが。一番驚いたのは「HENRI CARTIER-BRESSON SCRAP BOOK」に、あの有名な決定的瞬間のトリミング前の写真が掲載されていたことです。構図の神様もトリミングをしていたのですね。確かに、撮影後トリミングで構図を整えていくのは、構図を学んでいく良い方法かもしれませんね。前回は「距離感」をポイントとしてあげてみましたが、今回の撮影ノートでは「トリミング」について考えてみましょう。

 

トリミングかズーミングか

「トリミングで構図を整える」と書いてしまったのですが、どうしても引っかかることがあります。同じ位置から撮ると「トリミングした写真」と「ズーミングした写真」は同じなのでしょうか。画素数は当然違ってくるとして、「被写体同士のかかり具合」「ボケ方」「遠近感」はどう変わってくるのでしょう。この点を検証しておくことで、好きな「距離感」を決めたあと、もう少し被写体を大きく撮りたい場合にレンズをズームさせるか、あるいはトリミングしてしまえばよいのか、判断できるようになると思います。またつまらない作例が続きますが、検証にご協力ください。

上下の二枚の写真は同じ位置から撮影しています。上がその場でのズーミングしたもの、下が撮影後にトリミングしたものです。壁に並んでいる帽子の大きさ、帽子と窓枠のかかり具合をみると、「遠近感」「被写体同士のかかり具合」はほぼ同じだとわかります。ただ「ボケ方」は明らかに違っていますね。その場でズーミングしたほうが、より大きく前後がボケています。これはレンズの焦点距離による描写の違いなのですが、同じレンズをセンサーの小さいボディにつけて撮影した状態と似ています。「小さいセンサーはピントが深い、ボケ方を大きくしたいのであれば、より大きなセンサー」と言われていますが、トリミングとはセンサーサイズを小さくするということなのですね。

 

画素数とトリミング

ボケ具合が重要な場合でなければ、トリミングという手段も大いに使えそうですね。もちろん広角レンズや画面の端を使うと被写体の形が変わってくることがありますが、画面の中心部分なら大きな問題はないと思います。さてトリミングで考えなければいけないことは、画素数の問題です。たとえばプリントで出力するならば、印刷したいサイズを満たすだけの画素を確保しなければいけません。ヨドバシデジタルプリントのプリントサイズと必要画素数を見てみると、2Lサイズは推奨画素数が「300万画素以上」となっています。単純に言って600万画素のカメラで撮った写真なら、半分のサイズにトリミングしても2Lサイズに印刷できるということになるわけです。

画素数1620万画素のLeica X2で撮られた写真はピクセルとしては4928×3264という情報量を持っていますが、300dpi(1インチの中に300ピクセル)というプリントに一般的な解像度で417mm×276mmの大きさにプリントできます。

最終的な出力方法とサイズが決まれば、どこまでトリミングできるかも決まってきます。1620万画素で撮影された上記の写真に、300dpiの解像度でプリントするための最低限必要なサイズを図示してみました。この枠より大きく切り抜く分には、十分な品質で印刷できるわけです。画素数がより多い方が、トリミングの自由度もあるということですね。解像度が全てではありませんが、高解像度だからできることもやはりあるということになります。

 

トリミングしてみよう

商品撮影などの場面では、構図が決まった後でピントを深くするために焦点距離を少し短くし、最初に決めた構図にトリミングするテクニックがあります。それはここまで検証してきたことが経験としてわかっているからです。逆に、今覗いている雰囲気(遠近感、ボケ方等)を大事にするために、少し寄りたい場面も敢えてズームせず、トリミングで処理するというケースもあります。「距離感とトリミング」も関係してくるのですね。

何を言いたいかと言えば、トリミングも立派な撮影技法のひとつということです。写真にひと味加えるために積極的に行っても面白いでしょうし、もちろん現場で詰め切れなかった構図を整えたっていいではないですか。さて特に解説はありません、最近手に入れてしまったLeicaT(1630万画素)の写真を、ちょっと気に入っているビスタサイズのトリミングで仕上げてみます。

 

大学生の頃、映画のワンシーンを切り取ったような写真に憧れました。ただその頃はライカ判の3:2の比率の中で考えていました。映画のスクリーンがビスタサイズ(1.85:1 アメリカンビスタ)の比率になったことで、何気ない風景を映画の比率でトリミングすると、写真に時間を感じさせやすくなったように思います。トリミングはテクニックでありイメージを伝える手段でもあります。積極的にトリミングして、「風景の切り取り方=構図」を学んでみてください。そもそも3次元の世界を2次元に切り取ったものが、写真なのですから。

( 2014.12.03 )

<使用機材>
ボディ:Leica T
レンズ:Carl Zeiss Biogon T* 35mm f2.0 ZM / Leica ELMARIT-M 28mm f2.8 ASPH

<書籍>
ブルーノート・レコード―妥協なき表現の軌跡

<バックナンバー>
Vol.01: PHOTO YOKOHAMA 2014 -「写り込み」
Vol.02: 河津桜 -「順光、逆光」
Vol.03: 「ピント」のお話
Vol.04: 街角スナップでおさらい
Vol.05: コンパクトデジタルカメラ
Vol.06: 露出の基本
Vol.07: ホワイトバランスと色の話
Vol.08: リュックにカメラを詰め込んで
Vol.09: 運動会撮影にチャレンジ
Vol.10: 被写体までは何センチ? - 「距離感」