PY撮影ノート Vol.12 シーンセレクトから学ぶ

「もうすぐ春(はーる)ですね〜」何て思っていたら、カメラの世界は新製品ラッシュで満開ですね。新しい機材は性能もアップし使いやすくなり、つい欲しくなってしまいます。まあそのあたりの物欲はPHOTO YODOBASHIで満たしていただいて、撮影ノートは地道に「自分らしい写真を撮る」を目指して行きます。

( 写真/文 : A.Inden )

「思ったように写らなかった」という経験はありませんか? さまざまな光景を失敗なく写せるように、メーカーは多くのカメラに「シーンセレクト」といった機能を搭載しています。例えば「ポートレイト(人物)」「風景」「夜景」「スポーツ」といった撮影シーンを選ぶことで、カメラ側がその場に合わせた設定を用意してくれるものです。今回の撮影ノートは「シーンセレクトを使ってみよう」という趣旨ではありません。シーンセレクトがどのような設定で撮影しているのかを見ていくことで、いろいろな条件におけるカメラの設定方法を学んでいきたいと思います。撮影の基本が、見えてくるでしょうか。

 

シーンを切り替えて撮影し、データを確認する

さっそくシーンセレクトを使って、シーンを切り替えながらどのようなセッティングで写真が撮影されるのかを確認していきます。ターゲットは少し逆光気味の条件で、色のバリエーションとして白、黄、青の車両。ピントはハンドルのマークに合わせ、条件が変化しないように三脚につけて撮影しました。まずは基本の条件で撮影をしてみます。

逆光気味なのでピントが合ったところが若干アンダーに感じられ、ホワイトバランスがデーライトのためオフホワイトの車のボディー色が少しグリーンがかっています。この条件でシーンを変えて撮影したのが下の写真です。

写真は小さくとも、選んだシーンによって撮影結果が変化していることはお分かりになると思います。花火以外はそれほど極端な変化ではありませんが、色や露出が細かく調整されていますね。詳しい撮影データを並べてみましょう。

シーン 露出補正 S.S. 絞り W.B. ISO コントラスト 彩度 シャープネス
ポートレイト ±0 1/100 F2.8 AWB 200 ±0 ±0 ソフト
風景 ±0 1/80 F4 デーライト 320 +2 +2 ハード
スポーツ ±0 1/320 F2.8 AWB 800 ±0 +2 ハード
夜景 ±0 1/400 F2.8 AWB 800 ±0 +2 ハード
キャンドル +0.3 1/80 F2.8 デーライト 200 +1 +2 ノーマル
夕日 -0.7 1/80 F4 曇り 200 ±0 +2 ハード
花火 -1 4s F11 デーライト 200 +2 +2 ノーマル
ビーチ&スノー +0.3 1/80 F2.8 曇り 200 ±0 +2 ハード

じっくり見みると、この表にはたくさんの撮影ヒントが隠されています。たとえばポートレイトは絞りを開けるのはもちろんですが、綺麗な肌色を表現するためにW.B.を自動(AWB)にして色かぶりを抑え、コントラストも彩度も上げずシャープネスをソフトにし最大限滑らかな階調を求めています。風景はW.B.をデーライトにしてその場の雰囲気を大事に、夕日はW.B.を曇りにしてアンバーを少し強調しています。一番面白いのが花火です。他の写真に比べて大幅に露出が違っているのは、夜空に打ち上げられる花火を撮る露出は予め決まっているということですね。そして遠景にある花火を撮るのにF11まで絞っているのは4秒というシャッタースピードが一番綺麗に光の線を表現できるからでしょうか。花火の季節に試してみたいですね。

 

シーンセレクトの設定を自分で試してみよう

部屋にこもってああだこうだと言っていてもつまらないので、カメラを持って試しに行ってみます。
まずはホワイトバランスの復習もかねて夕日の撮影から。

西湘バイパス酒匂入り口横の海岸へ。ここは車で海のすぐ側まで降りることができる貴重な場所です。この時期、太陽は山の方に沈み直接の夕日は見られませんが、伊豆半島から三浦半島まで見渡せる180度開けたロケーションに、西から東の空へ綺麗なグラデーションがつきます。上の写真はLeicaTで絞り優先モード、-0.7補正、W.B.曇り、彩度をあげるためビビッドのフィルムモードで夕日のセッティングを試した作例、下が補正の要素を排除した作例です。空の色のグラデーションがアンバーに強調され、夕日というイメージ通りの写真になったと思います。

 

大切なシーンによくあるキャンドル撮影

誕生日・結婚式・記念日等、キャンドルの光で撮影する機会はよくあるものです。カメラ任せで撮影するとピカッとストロボが光ってローソクの火が全く写ってないという経験はありませんか。さすがにストロボは光らせないまでも、なかなか雰囲気よく撮れない方も多いと思います。シーンセレクトの設定を参考にW.B.をデーライト、露出補正+0.3で撮影してみると、キャンドルの光の暖かな雰囲気が綺麗に写せました。

ホワイトバランスをオートにし露出補正をなくすという、ノーマルな設定に変えて撮影してみました。全く同じ条件で撮影しているにもかかわらず、背景やカメラの種類によって色が変わってきます。上記の3枚では背景の人物の服の色がかなり影響したようですね。最近のカメラはオートホワイトバランスでも良い具合に雰囲気を残してくれるようになりましたが、暖かいアンバーな色で撮影するにはW.B.デーライトが確実ですね。

 

海と空を「曇り」で撮影

「ビーチ&スノー」の設定には驚きました。海の青さを強調するホワイトバランスに設定しているのかと思ったら、逆に設定は「曇り」。確かにこんがり焼けた肌を強調するためにアンバーにするというのは理解できるのですが・・・青い海や空への影響はどうなるのでしょうか。早速撮影してみましょう。

実際に作例をご覧になって、いかがでしょうか。AWBで撮影した下の写真に比べると、曇り/+0.3EVの上の写真はヌケがよく気持ちのいい空の色に写っていると思います。こういったシーンでは当たり前のようにデーライトを使っていたのですが、敢えて曇りというセッティングは面白いですね。青が決してクールな印象にならず、少しアンバーがかかった空の色から降り注ぐやさしい光を感じました。これからの春の海を撮りに行く時は、迷わずW.B.は曇りですね。

 

ひとつひとつを試してみることで、引き出しが増えていく

シャッターを切れば写ってしまうのが写真というもの。しかし自由に、思った通りに表現するには、どのように設定すればどのように写るかという経験の積み重ねが必要です。写真をはじめたばかりの方なら、一体どのように取り組んでいったらいいかわからないのではないでしょうか。筆者自身、沢山の写真を見て、どうやって撮ったかを模索し、模倣してきたことを覚えています。写真に限ったことではありませんが、真似ることは学ぶことの第一歩。目の前の光景に合わせてお手本のような設定を選んでくれるシーンセレクトは、いつでも尋ねられる先生のようなものだと思います。シーンセレクトを分析して同じ設定で撮ってみることで、きっと撮影の基礎がよく理解できることでしょう。それはやがて自分らしく表現するための力となり、写真を一層面白いものにしてくれるはずです。

( 2015.03.12 )

<使用機材>
ボディ:Leica T / OLYMPUS E-P5
レンズ:Carl Zeiss Biogon T* 28mm f2.8 ZM / Carl Zeiss Planar T* 50mm f2.0 ZM / OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO

<バックナンバー>
Vol.01: PHOTO YOKOHAMA 2014 -「写り込み」
Vol.02: 河津桜 -「順光、逆光」
Vol.03: 「ピント」のお話
Vol.04: 街角スナップでおさらい
Vol.05: コンパクトデジタルカメラ
Vol.06: 露出の基本
Vol.07: ホワイトバランスと色の話
Vol.08: リュックにカメラを詰め込んで
Vol.09: 運動会撮影にチャレンジ
Vol.10: 被写体までは何センチ? - 「距離感」
Vol.11: トリミングという“テクニック”