PY撮影ノート Vol.15 フイルム撮影の楽しみ

「ノーマル、現ベタで。」
カウンターの女性がサッと表を確認し「中4日で仕上がります」と。

久しぶりのフィルム現像で少し緊張していたのですが、あっけなく、いつものように、普通に出すことができました。いまさらフィルム?と思われるでしょうが、数年間溜まっていたトライXのコンタクトプリント(ベタ焼き)をじっくりと眺めていると「フィルムって面白いな」と改めて感じます。今回の撮影ノートはフィルムでの撮り方・・・ではなく、撮影した後の楽しみ方を紹介したいと思います。

( 写真 / 文 : A.Inden )

フィルムで撮る楽しみの一つに、コンタクトプリントがあります。何かを感じてシャッターを押した瞬間が、撮った順番で一枚のプリントで見られる。コンタクトプリントを眺めていると、過ごしてきた場所と時間がタイムマシンのように蘇ってきます。写真が「真を写す」ものと考えた時、切り取られた瞬間から全く手が入っていない36カットの集合は、大げさかもしれませんが宝物のような感じがします。今回の撮影ノートを考えるにあたり、過去何十年ものコンタクトプリントを見直しました。大半は仲間と呑んでる写真でした(笑)が、その時代時代の自分が感じられて興味深い作業でした。写真を残す方法はいろいろあると思いますが、セレクトされてないカットの集合には格別なものがありました。

コンタクトプリントのまま飾ってみる

写真を上手く撮りたいと意識しだした時期、好きな写真のその前後が気になり、コンタクトプリントが掲載された写真集を探し求めたことがあります。「同じ場所でフレーミングを変え何枚も撮る」「潔く1シーン1カット、多くても2カットで撮り終える」など様々なパターンがありましたが、1ページに印刷されたコンタクトプリントからは、撮影時のライブ感が伝わってきてドキドキしたことを思い出します。そして、選んだカットにダーマトで丸印が着けられコメントでも書いてあろうものなら、撮り手の気持ちがダイレクトに感じられるようでした。 さて前置きが長くなりましたが、写真の上手い下手は置いといて、上がってきたばかりのコンタクトプリントを飾ってみました。いかがでしょうか、こんなに素敵ならば1ヶ月に一枚、家族旅行で一枚、季節で一枚ともう少し考えて撮っていればよかったですね。ちなみに横に積んである写真集はコンタクトプリントが掲載されているものです。

パーフォレーションを生かしてスキャニンング

Vol.11では "トリミングというテクニック" を紹介いたしましたが、正直に申しますと「記録写真ならノートリミングが良い」と思っています。デジタルになってからこのあたりの感覚が角が取れるように丸くなっていたのですが、フィルムを手にとって眺めていると、やはり写っている部分をできるだけ生かしたくなります。フィルムに並んだパーフォレーションの穴までスキャンした写真。少しルーズなフレーミングですが、「今!」と言う撮り手の心の動きが伝わってきませんか。

連続するカットで表現する

コンタクトプリントを眺めていて偶然発見したカット。隣り合わせのコマに時間の経過が写っていました。影の形が時間を、子ども達からは練習の様子が感じられます。一枚一枚でも好きなカットですが、こうしてプリントすることで写真としての意味が違ってくるように思うのです。今ではフラットベッドスキャナーを使って簡単にできるこのプリント方法ですが、引き伸ばし機でやっていた頃は6x9用の大きな機械を使いネガホルダーにマスキングをする等、かなり苦労したことが思い出されます。

ときには映画のように

横位置の連続したカットが並んでいるプリントです。フィルムで撮影されたことがある方なら「あれっ!?」と思われたのではないでしょうか。35mm判で撮影すると普通は縦位置の連続写真になってしまいますが、こちらはハーフサイズのカメラで撮影されたもの。まるで映画のフィルムのように見えるこのプリントも、高解像度のフラットベッドスキャナーが出てきた現代だからこそ楽しめるものです。

一つ現像出しの時点での注意点があります。コンタクトプリントを見てお分かりのように、現像に出すと通常は6コマずつにカットされて納品されます。連続した瞬間がカットされてしまう可能性を避けるためには「カットしないでロールで」とオーダーしてください。まるで35mm映画のようなロールで仕上がってきます。映画監督になったつもりで、カット割りを考えながら撮ってみてはいかがでしょうか

かなり時間が経っているので大丈夫かなと思いながら、クッキーケースに眠っていたトライXを現像に出してみました。お恥ずかしい話ですが、なんと約5年前の写真が発掘されました。本来なら自分で現像・プリントするのが筋だと思いますが、一度離れてしまうと自家処理はなかなか億劫になってしまい、撮影済みのフィルムが溜まる一方になっていたのですね。ただ怪我の功名と申しましょうか、印象的な雲、街並み、若かった仲間、小さかった子ども、美味しかった料理など、ともすれば忙しさで忘れてしまいがちだったシーンが蘇ってきました。一瞬で何年も遡れる写真の面白さを改めて確認できたことは、趣旨とは違いますが素晴らしい収穫でした。

さてたっぷりと写真を眺めると、毎日写真を撮ることがまた楽しみになってきました。
今日カメラに詰めた新しいフィルム、このタイムカプセルが開くのは何年後になるのでしょうか。

( 2016.01.07 )

<使用機材>
ボディ:LEICA MP
(参考)今も新品で買えるフィルムカメラ LEICA M-A
レンズ:LEICA SUMMLUX-M f1.4/50mm / LEICA SUMMICRON-M f2/35mm ASPH.
フィルム:Kodak トライX (400TX)
スキャナー:EPSON GT-X980

<バックナンバー>
Vol.01: PHOTO YOKOHAMA 2014 -「写り込み」
Vol.02: 河津桜 -「順光、逆光」
Vol.03: 「ピント」のお話
Vol.04: 街角スナップでおさらい
Vol.05: コンパクトデジタルカメラ
Vol.06: 露出の基本
Vol.07: ホワイトバランスと色の話
Vol.08: リュックにカメラを詰め込んで
Vol.09: 運動会撮影にチャレンジ
Vol.10: 被写体までは何センチ? - 「距離感」
Vol.11: トリミングという“テクニック”
Vol.12: シーンセレクトから学ぶ
Vol.13: 家族旅行でスナップを
Vol.14: 絵画の雰囲気から学ぶ