PY撮影ノート Vol.14 絵画の雰囲気から学ぶ

東京で展覧会が開かれているからでしょうか、雑誌、TV等で「モネ」の絵画を見かけることが多くなってきました。印象派と呼ばれているモネの作品を見ていると、なんとなく優しい気持ちになってくるのは筆者だけでしょうか。絵画と写真は違いますが、作家の持つ「作風」を考えていくことで、絵画が醸し出している雰囲気を上手く写真の中に取り込むことができるかもしれません。ひとつ、チャレンジしてみましょう。

( 写真 / 文 : A.Inden )

モネの絵画をよく見てみる

まず、同じ雰囲気の写真を撮ると言う視点からモネの絵画を分析してみます(美術的に分析するのは無理です)。モネの作品はそれぞれにご覧いただくとして、筆者に感じられた特徴を書きだしてみました。

  1. 影の部分があまりない(影と思われる所にも色がある)。
  2. 全体の色調は抑えめ。
  3. 描かれているモチーフの輪郭がシャープでない。

特徴の捉え方は人それぞれで良いと思うのですが、要素をはっきりさせると手がかりが見えてきますね。

ここで、おさらいの意味も兼ねて撮影時にできる事を確認しておきましょう。カメラによって異なりますが、基本的には「絞り」「シャッタースピード」「露出補正」「ホワイトバランス」「彩度」「コントラスト」「ISO感度」、そしてレンズ交換による焦点距離の変化と、レンズ自体の描写の違いがあります。普段何の気なしに撮っていますが、改めて確認するとできることは沢山あるのですね。図にして少し整理してみましよう。

モネの絵画に感じた特徴をどのように表現するか、考えてみます。

  1. 影を目立たなくするには・・・曇りの日に撮る/逆光で影に露出を合わせて撮る(露出補正をオーバー側に)/コントラストを低くして影の輪郭を目立たないようにする。
  2. 色調を抑えめにするには・・・コントラスト、彩度を低くする/逆光で露出オーバーにして、色の乗りを悪くする。
  3. 被写体の輪郭を甘くするには・・・絞りを開放にしてボケの量を増やす/逆光でハレーションを利用する/解像度の低いレンズを利用する。

思い浮かぶのはこのあたりでしょうか。露出を明るめにして、コントラストや彩度は低め、というのが基本になりそうです。

セッティングと撮影時間を考える

絞り シャッタースピード 露出補正 ホワイトバランス コントラスト 彩度 太陽の位置
影が目立たない 低め 低め
色調が抑えめ 低め 低め 逆光
輪郭あいまい 開放 遅くしてブラす 逆光

試してみたいセッティングを表にまとめておきます。頭の中だけでは机上の空論ですから、あとは実際に撮影に出てみましょう。逆光のほうが良さそうなので、これを活かしやすい太陽の高度を考えてみます。太陽が高いと影が下に落ちてしまいますが、太陽が低すぎても被写体が建物等の影に入ってしまい、キラッと被写体のエッジが立ってくる逆光の効果が薄れますね。イメージとして45度から30度の間ぐらいでしょうか。

いつも過ごしている場所であれば季節や時間帯による光の角度を覚えていると思いますが、どこかに出かけて撮影をするなら、事前に太陽の位置を調べておくと良いでしょう。日時と場所を入力すると太陽の動きが表示されるHeliosというアプリケーションを使ってみました。13時前には撮影場所に着くようにして、太陽の傾いてゆく時間のなかで撮影を試みてみます。基本のセッティングは、表を参考に絞り開放F2.0、影の部分が暗くならないように露出をオーバー目に、太陽が反対側にくる位置(逆光)にカメラを構えます。

考えたセッティングで撮影にチャレンジ

最初の左の作例。レンズは、ライカの現行品。コントラスト、彩度はノーマル設定です。影の部分の色が出るように露出を決めたため、全体的に少しオーバーになっています。このセッティングでも彩度、コントラストは低く感じますが、鮮やかなピンクが目立ってしまい落ち着いたトーンとは言い難いですね。順光で見ると濃い緑の葉が暗く見えたのですが、逆光では、太陽の光をいい感じで反射し、白っぽくなっているのが、うれしい誤算ですね。


次に彩度、コントラストをカメラメニューから下げてみます。いかがでしょうか、ぐっと雰囲気が落ち着きましたね。今回撮影で使ったライカTでは、フィルムモード標準、彩度を2段、コントラストを2段、シャープネスを1段低くしています。撮影場所でモードを切り替えながら撮影したのですが、あらかじめユーザープロファイルに登録しておくと2タッチで切り替えることができ、ストレスなく2種類の描写を楽しめました。


最後の一枚は、昔発売されていたKONICA HEXARというフィルムカメラのレンズを、ボディーから切り離しMマウントに改造したもので撮影。このあたりになるとレンズ沼の住人であることがばれてしまいますが、デジタル全盛になる前のレンズには、開放で撮るとえも言われぬ描写を見せてくれるものがあります。昔のレンズは敷居が高いと思われる方はP.Y.をよく見ていただいて、レンズの個性がでやすい「開放」の描写を探してみてください。しっかり写ることは基本ですが、雰囲気のあるレンズに出会えることもまた一つの楽しみですね。

モネの雰囲気に近いかどうかは別として、セッティングを変え、うまくボケ味を使うと写真に絵画のような雰囲気を出せることはわかっていただけたかと思います。さて、お気付きの方もいらっしゃると思うのですが「ボケ味が使えないときはどうするの?」と言われたら・・・実は難問ですね。印象派の絵画のような筆のタッチを、写真で表現するのは簡単ではありません。描写を変える試みには、フィルターを使う、ブラす、多重露光等思いつくことはあるのですが、果たして絵画のような雰囲気ができるでしょうか。

まずレンズの前にラップをかけてみました。ソフトフィルターと言う王道もあるのですが、画面全体が同じようにボケるのではなく部分的に精度を落として、少しでも筆のタッチのようなものを出してみたいと考えました。上の写真はラップを一枚かけたものです。ラップは掛け方によって描写がかなり変化するので、付けた後にライブビューで確認しながら、少し回してみたり指でつついてみたりすると面白い効果が得られます。

※左はノーマル撮影、真ん中はラップを2枚かけて彩度とコントラストを落としています。

次にラップにハンドクリームを塗ってみます。クリームは塗る角度と量によって光のにじみ具合が変わるので色々試してみてください。上の作例はほとんどクリームが見えないぐらい薄く左上から右下に向かって塗ったものです。少し絵筆のストロークのような雰囲気が得られますね。

最後はシャッタースピードを遅くしてブラしてみました。絵筆ようなの勢いをうまく表現できればと考え、ビデオ用の雲台を使っています。ビデオ用の雲台は安定してカメラを振ることができ、トルクも調整できるのでブレ量を正確にコントロールできます。動いている被写体に対して流し撮りするのがふつうですが、こんな表現に使ってみるのも面白いですよね。

モネの絵画に刺激を受け、写真にその雰囲気を持ってこようと試行錯誤してみましたが、いかがでしたでしょうか。うまくいったかどうかの判断は皆さんにお任せするとして、写真を撮るヒントはいろいろなところにあると感じていただけたのではないかと思います。レンブラントが好きな方であれば、有名なレンブラントライティングを分析してみるのもいいでしょう。東山魁夷のあの色調も素敵です。見ているだけで音楽が聴こえてきそうなCDジャケットはありませんか? さてどのようにして表現しましょう。セッティング、カメラ、レンズ、フィルター・・・考えるだけでも楽しくなってきますね。

本来写真は撮ることで上手くなっていきます。でも、なかなか機会を作れないのも確かです。秋の夜長、画集を肴に一杯呑みながら、絵画が醸し出す雰囲気を感じ取り、写真に定着していくイメージを膨らませてみる。そんな過ごし方はいかがでしょうか。

( 2015.11.13 )

<使用機材>
ボディ:Leica T
レンズ:LEICA SUMMICRON-M f2/35mm ASPH. / Carl Zeiss C Sonnar T* 50mm f1.5 ZM / ライカT用 Mレンズアダプター
その他:Manfrotto MVH502AH / ラップ / ハンドクリーム

<バックナンバー>
Vol.01: PHOTO YOKOHAMA 2014 -「写り込み」
Vol.02: 河津桜 -「順光、逆光」
Vol.03: 「ピント」のお話
Vol.04: 街角スナップでおさらい
Vol.05: コンパクトデジタルカメラ
Vol.06: 露出の基本
Vol.07: ホワイトバランスと色の話
Vol.08: リュックにカメラを詰め込んで
Vol.09: 運動会撮影にチャレンジ
Vol.10: 被写体までは何センチ? - 「距離感」
Vol.11: トリミングという“テクニック”
Vol.12: シーンセレクトから学ぶ
Vol.13: 家族旅行でスナップを