PHOTO YODOBASHI

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じゃんけん ジャケ買い ムール貝

じゃんけん ジャケ買い ムール貝
第5回

David Gilmour “DAVID GILMOUR”
(2023年6月、埼玉県さいたま市にて発見)

ピンク・フロイドはお好き?

中古レコード屋に入って、いつも真っ先に向かうのは「新着」の棚。そこを漁り始めてすぐ、私の指が1枚のレコードを摘み上げる。ジャケ買いは衝動と反射神経による行為ですが、そうは言っても、実際にお金を払うまでの間にいろいろ考えます。「中身がどんなものであろうと、値段がいくらであろうと買う!」みたいなことも無くは無いですが、そんなこと、実際にはかなり稀で、やはりたいていの場合、何かしらの確認事項、あるいは吟味があるものです。

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ふとジャケットの隅に印刷されているアーティスト名を見る。David Gilmour。おお。それはピンク・フロイドのギタリストの名前。つまりこれは、彼のソロアルバムということになります。1978年。ふーむ。ピンク・フロイドは「原子心母」と「狂気」という邦題がついている2つのアルバムを、私は持っていました。いずれも洋楽を聴き始めたばかりの、中学生の時に買ったもの。ピンク・フロイドはロックの歴史を語る上で絶対に外すことができない超レジェンドであり、この2作は名盤中の名盤。「原子心母(1970)」は彼らが初めて全英1位を獲得したアルバムですし、「狂気(1973)」に至っては「史上もっとも売れたアルバム」第4位(4,500万枚)の座に今なお君臨し、「ロックの一つの到達点」と言われるほどの大傑作。

しかし、私がピンク・フロイドのレコードをそれ以上買い足すことはありませんでした。名盤との誉れ高いその2作をもってしても・・・これを申し上げるのは実に勇気が要るのですが・・・ピンク・フロイドにはあまり惹かれなかったのです。「お前は上質な音楽を聞き分ける耳を持っていない」という誹(そし)りはまったくその通りなんでございますが、事実なんですからしょうがない。それは今でもそうだし、多分これからもそう。にもかかわらず、たった今見つけたこのレコードを買うことにしたのは、1)デイヴィッド・ギルモアがギターの名手であることは疑いの余地がない、2)ソロアルバムとなれば、ピンク・フロイドでは出来ないことをやっているのではないか、3)ジャケットが素晴らしい、という3つの理由から。瞬間的にそんなことを考えて、レジへ持って行くレコードの束に加えたのです。

PHOTO YODOBASHI見開きジャケットの内側。これはまぁ、わりとありがち。

PHOTO YODOBASHI裏ジャケです。

なんとも言えない雰囲気をもったジャケットです。カラーで撮られた写真ですが、ぱっと見、モノクロに見えます。足元には雪。しかし降り積もってはおらず、晩秋の降り始めみたいな雪。空はいちめん雲に覆われているようで白一色。ぐっと明度を落とした結果、黒っぽいところはほぼシャドウに埋もれて雪および空との強いコントラストを生み、それが暗くて寒々しい雰囲気を作り出しています。写真ぜんたいがフィルムの粒子のようにも見えるテクスチャーに覆われていますが、裏ジャケにある、同じ時に撮られたと思われる写真はクリアな写りなので、これは何らかの加工が後からされているみたい。太めの黒いフチ取りが、ダークな雰囲気をさらに強めています。いちばん手前に立っているのがデイヴィッド・ギルモア本人ですが、写真が暗いので、微笑んでいるのか、怒っているのか、その表情ははっきり窺えない。カメラは何でしょうね。まぁこの時代のこの手の写真であれば、十中八九、使われたのはハッセルブラッドでしょう。レンズは標準の80mmか、あるいは60mmかもしれない。

このジャケット写真を撮ったのは誰だろうかと調べて、「へぇ」と思いました。このカバーアートを手がけたのが「ヒプノシス」だったからです。