PHOTO YODOBASHI

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ヒプノシスの仕事

ヒプノシス(Hipgnosis)。変わった名前ですが、個人名ではありません。クリエイターの集団です。1968年に結成。最初は2名でしたが、1974年に1名加わって3名体制に。そして1983年にチーム解散。

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ここにヒプノシスが手がけた、カバーアートの作品集があります。先に挙げたピンク・フロイドの2作がヒプノシスだというのは知っていましたが、この作品集のページを繰るごとに、「ああ、これもそうだったのか!」「ええっ、これも?」といった具合で、ある時期のブリティッシュ・ロックのカバーアートは殆ど彼らが手がけていたんじゃないかとすら思えてきます。私の大したことないレコードコレクションにも、彼らの仕事がかなりあることを改めて知って驚きます。試みにウィキペディアで「ヒプノシス」を引いてみると、彼らが手がけたカバーアートのリストがあるのですが、これがどれだけスクロールしてもぜんぜん終わらない。いくら3人いたとは言え、たった15年間でこの仕事量は尋常ではない。ちなみに日本人ではユーミンの名前を見つけることができます。

PHOTO YODOBASHI「原子心母」のカバーアート。原題は “Atom Heart Mother” 。要するに3つの単語をそのまま日本語にしただけのフザケた邦題なのですが、今となってはこれ以外にはあり得ないと思えるから不思議です。ピンク・フロイドのカバーアートは1968年から1981年にかけて、ぜんぶで11作をヒプノシスが手がけていますが、初期の作品であるこの「ウシ君」は、当初レコード会社の猛反対に遭ったそう。しかし無理やり押し通した結果が、初の全英1位。これ以降、レコード会社も降参したということでしょうか。ちなみに、大いに売れた1979年の「ザ・ウォール(The Wall)」だけが、ぽっかり穴が開いたようにヒプノシスではないのですよね・・・謎。

PHOTO YODOBASHIこちらが「狂気」。原題は “The Dark Side of the Moon”。こちらは逆に「どうしてそうなった?」という邦題です。

PHOTO YODOBASHIレッド・ツェッペリンの7作目「プレゼンス(Presence)」。本当は5作目の「聖なる館(Houses of the Holy)」がジャケットとしては有名なので紹介したかったのですが、米国で発禁になったことがある関係で、いちおうこちらを。日本やヨーロッパでは大丈夫でしたし、Apple Musicにもそのまま出ているので、要するに「その程度」なのですが、まぁ当局の言い分もわからんではない、という感じ。ツェッペリンも5作目以降、すべてヒプノシスが手がけています。

PHOTO YODOBASHIT・レックスの名盤、「電気の覇者(Electric Warrior)」。シンプルにして雄弁。ちょーかっこいい。これを見ると、名盤にはかならず素晴らしいカバーアートがあることがわかります。

PHOTO YODOBASHIAC/DCやブラック・サバス、UFOといったハード&ヘヴィ系にも、ヒプノシスの仕事は及んでいます。いずれも中身の音楽とはまったくかけ離れたイメージのカバーアートなのですが、それが逆に新鮮。これはAC/DCの「悪事と地獄(Dirty Deeds Done Dirt Cheap)」ですが、すでに邦題とぜんぜん合っていないという(笑)。それにしても、最近は面白い邦題がついたアルバムが無いのがちょっと不満です。

PHOTO YODOBASHIカバーアートとしての表現力を追求した結果か、見開きのジャケットが多いのもヒプノシスの特徴。これはウィッシュボーン・アッシュの「百眼の巨人アーガス(Argus)」ですが、こうやって開いてみると、何をしたかったのかがよく分かります。デザインに文字を極力乗せない(まったく無しも多数あり)のもヒプノシスの特徴と言えますが、それも見開きのジャケットを多用する理由かも。

「ヒプノシスの作風」について説明するのは、かなり困難です。「これもヒプノシスだったのか」と知って驚くということは、裏を返せば、作風が多岐にわたるということ。どれもこれも一目でヒプノシスと分かるようなワンパターンな作風だったら、ここまでの需要は生まれなかったはず。この点に関しては、3人いたということが大きいんじゃないかと思います。これは確信に近い想像ですが、3人が一緒に仕事をするのではなく、案件ごとに誰かが担当して、イニシアチブを握って仕事を進めていたのではないかと思うのです。そうは言っても所詮3人。各人がアイディアの抽斗(ひきだし)をたくさん持っていなければ、こうはならないわけですが。