PHOTO YODOBASHI

ヨドバシカメラ公式オンライン写真マガジン

SORI - 新宿光學總合研究所

4群2枚目  レンズ設計のその果てに
第1回 フード首脳会談

はい、首脳会談の途中ですが、「レンズフードの名作たち 〜原田コレクションより〜」のお時間がやってまいりました。原田研究員が愛してやまないフードの歴史的名品、芸術的逸品の数々をどうぞお楽しみください。まさかクリックする人なんていないと思いますが、いちおう、念のため、  [ この項をスキップする ]

レンズフードの名作たち 〜原田コレクションより〜

フードの大発明
NIKKOR 50mm f/1.4用 スプリング式レンズフード

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このフードには、それまでにないアイディアが含まれています。その証拠にフードに「US.PAT. J.PAT.PEND.」つまりアメリカと日本の特許申請中と記載されています。 そのポイントは、フードの取り付け方法がネジなのにワンタッチで取り付けられることです。取り付け部はフィルターと同じようにネジなのですが、何回転もさせてネジ込まなくてもよいように、ネジの一部が切りかかれていてそれがC字型のバネになっていて、それをつぶすようにしながらフィルターネジに差し込んで手を離すとパチッとハマります。
この方式は何十年もニッコールのフードに採用されていきます。名称をHSというのですが、フード(Hood)がバネ(Spring)だからではないかとにらんでいます。触ったことがない方は是非中古で探して特許のバネをパチパチやって遊んでみてください。

角形への愛
RE-Auto Topcor 25mm F3.5 用フード

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私は角形フードが大好きです。撮影画面は四角なのにフードが丸いのってなんだか気になってしまいますよね。でもこのフードは、外形は丸形なのに前側は画面と同じような四角に切り抜かれていてハイブリッドなフードとも言えます。さらにこのフードの良いところは・・・デカい! このレンズは前玉もフィルター径67mmでデカく、その先にこのフードを付けるとさらにデカさが強調されてとてもよいです。前玉がデカいレンズってかっこいいですもんね。しかもこのフード、分解して内部に77㎜フィルターを内蔵できます。なんで? それはレンズ→フィルター→フードと順にネジ込むと、フィルターの厚み分、フードを短くしないといけないから。フードの内部にフィルターを入れると、ぎりぎりまで遮光を考えたフードが設計できるのです! この心意気!

PHOTO YODOBASHIそんなデカい前玉への熱い想いを円と四角で受け止めてくれるこのフード、もし見つけたらフードだけでも入手されることをお勧めします。

ネジは文化
AI NIKKOR 24mm f/2S用カブセフード HK-2

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NIKKORのフード(Hood)名称、カブセはHK、ねじ込みはHN、バヨネットはHB、スプリングはHS、ラバーフードはHRだそうです。なんだか簡単な法則が見え隠れしますね。 それはともかく私、カブセのHKフードが大好きです。持ってないレンズ用のフードも見ると買いますし、この24mmF2は1本しか持っていませんが専用のこのフードは3つ持っています。このカブセフードの何が好きって、これ固定は横から長いネジで固定するんですよ! ネジですよ!

一説によるとネジは古代ギリシャのアルキメデスの発明といわれているようです。テコや浮力に関する法則だけじゃなかったんですね! ユリイカ! であればネジを使って止めるカブセフードの名称、アルキメデス(Archimedes)に敬意を表してHKじゃなくてHAという名称でも良いのではないかと思っています。

レンズマウント形式に対して「ネジは文化、バヨネットは文明」と仰った方がいらっしゃいましたが、それはフードの固定方法にも当てはまると思います。そう、ネジで止めるフードは文化なのです!! ちなみにアルキメデスは円周率の計算をしたらしいので、賢人に敬意を表してこのフードに関しては角形じゃなくて円形でも良いです。

マトリョーシカのお作法
FUJINON 3.5㎝ F2用レンズフードとケース、箱

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これは70年ぐらい前に発売されたライカスクリューマウントのFUJINON 3.5cm F2と専用フードを付けた状態です。このレンズは発売当時としては最も明るい35mmかつ全長が短いことが特長でした。しかしこの専用フード、遮光効果を最大限に考えたのでしょう、角形かつギリギリまで長く設計されており、装着するとせっかくコンパクトなレンズの長さが2倍ぐらいになります(好き)。

さらにぐっとくるのが、このフード用の革ケースとさらに箱の豪華な造りです。こんな凝った造りだと家に置いていくのが勿体なくて撮影時にはフードをこの革ケースに入れ、さらに箱に入れて持っていきます。そして撮影するタイミングでおもむろに箱を出し、その中から革ケースを出し、ようやくフードを出してレンズに着けて撮る。そう、この箱や革ケースからフードを出す仕草が大事なのです。そういう儀式を楽しんでいます。なおそうやっていると、撮ろうと思ったシーンは過ぎ去っていることが多いですが、その後はまたフードを外して革ケースに入れ、箱に収めるという儀式を楽しめるので大丈夫です。

フードに座ろう
GR 21mm F3.5用角形フード

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こちらはレンジファインダー用の超広角レンズです。小さなレンズですが超広角なのでフードはしっかりしたものを付けたくなりますね、超広角レンズにフードを付けたスタイル、かっこいいですよね。

そういう願いをかなえてくれるのがこちらのフード、角形かつ内側の溝がまるでどこかのスタジアムの席のようにカーブを描きながら彫り込まれています。これをじっと見つめていると、自分が小さな観客になってこのフードの溝に座り、中央の前玉を鑑賞しているような気持ちにさせられます。大勢で前玉鑑賞、素敵ですね!

PHOTO YODOBASHIさらにレンジファインダーの視野をできるだけふさがないように一部に窓が開けられています。さながらスタジアムへの出入り口でしょうか。このフード、写さなくても満足できます。皆さんもこのスタジアムで一緒に前玉鑑賞しませんか?

角形の進化の方向性
Elmarit 24mm F2.8用六角形フード

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かつて超広角のフードといえばSUPER-ANGULON 21mm F3.4の角形フードがそのかっこよさで有名でした。そしてこのレンズはSUPER-ANGULONの進化していった末裔の一つです。となるとまずはフードが気になりますよね? フードは一体どのように進化していったのか・・・?!

結論から言うとこのフード、角形ですがもはや四角ではなく、なんと六角形。未来のデザイン?! はたして今後、どこまでフードの多角形化が進むのでしょうか。究極の多角形、例えば120角形は見た目がほぼ丸になるのではないか、その時角形フード愛好家はその進化を喜ぶべきか否か、気になって仕方ないです。

カメラのコンセプト<<フード効果
Zeiss Ikon Super Nettel用フード

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これは約90年前の蛇腹カメラです。蛇腹カメラは持ち運ぶときはレンズをカメラ内に格納してコンパクトにして携帯性をアップさせられます。つまり、携帯性こそが蛇腹カメラの大事なコンセプトです。

蛇腹はカメラ内部の内面反射が減るため意外と逆光に強いカメラでもあります。フードが無くても結構よく撮れます。 ところがこのカメラは見てのとおり本格的なサイズかつ前側が画面と同じような四角に切り抜かれた立派なフードがオプションで用意されていました。もともと逆光に強い蛇腹カメラにフードを付ければその効果は抜群ですが、折りたためなくなります(笑)。

PHOTO YODOBASHIしかも着け外しが結構面倒くさい・・・携帯性無視なカメラに変身します。なんだか蛇腹カメラのコンセプトを全否定してくるアクセサリーとも感じますが、効果は抜群です。この「写りのためなら使い勝手は二の次、三の次」という感じが当時のZeiss Ikonっぽくて大好きです。

表面仕上げにうっとり
Summarit 50mm F1.5 用 八角形フード

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このフード、現物をみると息をのむ美しさです。真鍮による八角形の造形と作り込みも見事ですが、この表面が結晶塗りになっているんですよ。かつてのニコンF2チタンやF3チタンみたいな感じです。触ると真鍮のヒンヤリがこの結晶塗りで若干緩和され、ずっしりしつつも人肌のような温かみもあるフードと言えましょうか。そのギャップでスリスリずっと撫でていたくなります。でも重たいのであんまり持ち出しません。自宅でお酒を飲みながら撫でて楽しんでいます。

便利だけど持ち歩かないフード
Elmar 系用ズームフード

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ズームレンズじゃなくて、フードがズームします。何を言っているかわかりますか? 私も現物を見るまでピンときませんでした。 このフードは35mmから135mmまでのレンズに対してそれぞれ最適な長さに調整して使えます。だから交換レンズごとにフードをもっていかなくても、このフードだけ持っていけば大丈夫! 一見合理的に見えますが、そのために真鍮の筒を2つ重ねていてとっても重たいです。下手したらレンズ自体よりも重たいです。しかも肉厚が結構あって「フードにこんなに強度いる?!」って思います。あ、ズームするから衝撃でゆがむと困るから肉厚なのかな?! なんだか、このコンセプト自体が設計的に難しいような・・・(好き)。

PHOTO YODOBASHIこれまた外では使わず、もっぱら自宅でお酒を飲む際に伸び縮みさせて楽しんでいます。

究極のフード
COOLPIX A用 可動式カバー付きフード

これ、私のコレクションではある意味で究極のフードです。COOLPIX AというAPS-Cセンサーを搭載したコンパクトカメラ用フードですが、とんでもなく凝った構造をしています。 このレンズには、そのままではフィルターが付けられません。そこでこのフードを付けると、先端にフィルターが付けられるようになるという仕組み。ところが、このレンズの先端には「NIKKOR 18.5mm 1:2.8」と白文字が入っていて、フィルターを付けると場合によってはこの白文字がフィルターで反射されて画面に写り込んでしまいます。それを避けるにはレンズ先端に黒いカバーを付ければよい。でもこのレンズはスイッチONで繰り出し、OFFで引っ込む。大きく動く。そこでこの黒いカバーもスムーズに大きく動く必要がある。さてどうする?!

その課題に対してこのフードは、黒いカバーからまるでズームレンズの内部みたいに3本の脚が出ていてそれが外筒の溝に沿って傾かずに前後し、さらにカバーをバネでレンズに押し付ける構造になっています。あああ、言葉で書いても伝わらない!! これは動画を載せますので、そちらをぜひご覧ください。

このフードを初めて見た時、そのあまりの生真面目さに天を仰ぐような気持ちになりました。私にとって現時点では究極のフードです。これを超えるような凝ったフードの登場を心待ちにしています。